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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
289/333

第289話『|輸送開始《スタンロイツ帝国へ》3』

 夕食も終え、そろそろ寝ようかという時に、俺たちのテントへ一人の客人がやってきた。

 その御方はリメディア王国の第一王女殿下であり、何やら恥ずかしそうにモジモジとしていらっしゃった。

 どうしたのだろうか?


「フローラ様。如何なさいましたか?」

「あっ! リョウ様! 近づかないで下さい!」

「……!」


「あ! いや! 違うのです! リョウ様がお嫌いになったとか。そういうお話ではなくてですね」

「ハハーン」


 わたわたと両手を振り回しながら激しく拒絶された俺はそっと話が聞こえる程度に離れつつ、どうやらフローラ様の言いたい事を察したらしいフィオナちゃんとリリィちゃんがフローラ様に近づいて話をする。


「水浴びですか?」

「っ! そ、そうなのです。ちょうどこの近くに静かな良い湖がありまして」

「そういう事でしたら! ご一緒しますよ。私達もちょうど水浴びをしたい気分でしたし。ね? フィオナ」

「そうねぇ。結構歩いたし。べとべとしたままじゃあ眠れないかなぁー」

「で、では!」


 パァっと明るい表情になったフローラ様に、フィオナちゃんとリリィちゃんが姉の様な顔で笑った。

 なんとも慈愛に満ちた素晴らしい話である。


 そうと決まれば、俺はここで寝て待って居るかなと横になろうとしたのだが……リリィちゃんに服を掴まれてしまう。


「どうしたの?」

「いや、亮さん。見張りで来てくださいよ」

「お姫様の水浴びを覗こうなんて不届き者は居ないでしょ。流石に。バレたら首から上が無くなるんだよ?」

「でも、居るかもしれないし」

「そんな命がけの変態が居るのか……」


 俺はある種の恐怖を覚えながら、不安そうにしているフローラ様を見やった。

 そして、さっさと準備をして。と言わんばかりに腕を組んでいるフィオナちゃんにも視線を移す。


「まぁ、俺は全然構わないけれども。とりあえず覗きに来た奴は全員斬っても良いの?」

「それはダメ」

「一応、間違えて来たという可能性もありますから」

「……んーなるほど」


 間違えて姫様の水浴びををしている場所に来る奴は、流石に言い訳出来ないと思うが……まぁ、寛大な姫様はお許しになるらしい。

 が、許されるのだからと変態を増長させる可能性もあるんじゃなかろうか?


 しかし、いや……だからこそ、俺が見張りをしていれば良いという事か。

 なるほど、理解した。


「分かりました。では静かに行きましょう。姫様方が水浴びをしていると知らなければ、何もおきませんからね」

「……はい!」



 という訳で、俺は三人の少女たちに続いて、近くにあるという湖へ向かった。

 広大な平原の近くにある小さな森の中には、それなりに大きな湖があり、どこまでも透き通る様な美しさがある。


 月明りに照らされて、キラキラと輝く湖面は、どこか神聖な空気もあり……美しい。


「ここはかつて始まりの聖女様。光の聖女アメリア様が水浴びをされたという事で有名な場所なのですよ」

「そうなんだ! すごい!」

「綺麗ですもんね!」

「はい。なので、王族以外は立ち入りを禁止されています」


「え!」

「わ、私達は……入っても大丈夫なのでしょうか?」

「えぇ! 勿論! お二人は私のお友達ですから。何も問題はありませんよ!」

「それは良かった……!」

「ではお邪魔しますねー」


 フィオナちゃんとリリィちゃんの二人は湖の近くにゆっくりと近づき、まるで神聖な領域に足を踏み入れるかの様にフローラ様へ言葉を掛けながら一歩を踏み出した。

 そして、湖に手を入れて、どんな感じか確かめる。


「わ……え? すごい」

「どうしたの? フィオナ」

「リリィも! 水の中に手を入れてみて!」

「え……? いいけど。って! わ! すごい! 水が暖かい!」


「はい。理由はよく分かっていないのですが、ここの水は他の場所とは違い、暖かい水で満ちているんです」

「それは不思議だねぇ」


 フィオナちゃんの言葉に、俺も心の中で同意する。

 確かに不思議だ。


 この辺りはずっと平原なのに、ここだけポツンと森林が残っているのも謎だし……。

 あ、いや。違うか。

 ここはアメリア様の聖地だから、あえて開発しないで残しているって事か。


 神聖な空気も感じるし。


「じゃ、俺は向こうで見張ってるから、終わったら教えて」

「えー? リョウさんも水浴びしないの? あったかいよー?」

「俺は良いよ。少し水を貰って、体を拭くくらいで良いかな」


「つ、疲れも取れますよ?」

「大丈夫ですよ。ここまで何もしてませんでしたからね。体は万全です」


「でも! そっちじゃ、反対側から覗きが来たら対処出来ないんじゃないですか?」

「大丈夫。周囲の気配は全部捕まえてるから。何が起きても湖には近づかずに処理するよ」

「殺しちゃ駄目ですよ!」

「殺さないって」


 俺はリリィちゃんの言葉に片腕を上げながらそっと離れた。

 そして、上着を脱いでから離れる前に貰った水をタオルに含ませて体を拭く。


 まぁ、匂いとかね。

 同じテントで寝るとなると気になるかもしれないし。

 よく拭いておこう。


 頭を洗う事は出来ないけど。

 まぁ、軽く拭って、汚れは取っておこうかなという感じだ。



 そして、全てが終わり、俺はボーっと夜空を眺めていた。


「……星が綺麗だなぁ」


 周囲には気配の一つもなく、静寂に包まれている。

 神聖な場所というのは確かな様で、人は近づかないし。魔物も居ないこの国では小動物を除いて何の気配もしては居なかった。


 まぁ、俺が見張りに来なくても大丈夫だったとは思うが。

 保険の様な物という事だろう。


 ドラゴンを見張っていた時と同じだ。

 冒険者が近くに居るという安心感を得たいというのが全てかな。


 実はリリィちゃんがかなり強いから、俺が居なくてもトラブルは全て解決出来たと思うが……。

 しかし、その場合、リリィちゃんは裸で戦う事になってしまうから、やはり俺は必要か。


「ん?」


 と、静かにまどろんでいた俺であったが、何かの気配が突然現れた事で、そちらへ向けて駆けだした。

 そして、神刀を抜きながら、その謎の気配に向かって飛び込んだ……のだが。


「きゃあ!」

「っ!?」


 俺が神刀を構えながら飛び込んだ先で押し倒した人は……輝く様な金色の長い髪を地面に広げた、あどけない顔で俺を見上げる少女であった。


「っと! これは失礼しました!」

「い、いえ!」


 俺は急いで少女から飛びのいて、それとなく少女の姿を確認する。

 少女は上半身を起こしてから丁寧に髪を直して、どこかぼんやりとした気配を纏わせながら俺へと視線を向ける。


「君は……この辺りの子?」

「いえ。そういう訳では無いのですが。少々お散歩をしておりまして」

「散歩……! でも、この森はリメディア王国の王族の方しか入れない場所だって聞いてますよ」

「あら! そうなのですか!? それは申し訳ない事をしました」


 しゅんとしながら落ち込む少女に、俺は何故か放っておけない気持ちになり、あまり気にしないでと声をかける。


「ま、まぁ。リメディア王国のお姫様は大変優しい方だから、怒られるという事はないと思うよ」

「まぁ、それは良かったです」


 どこかふわふわとした少女に、俺は何故か強い既視感を覚えていた。

 どこかで会ったような気がする。


 そんな強い感覚だ。

 いったいどこだろうか……と考えて、アッと思い出した。


 そう。冬ごもりの時に遊んだゲームの女神様である。

 あの人にそっくりなのだ。


 確か名前は……。


「アメリア様……?」

「あら。私の事をご存じなのですか?」

「え、えぇ。少し前にアメリア様とお話した事がありまして」

「はて。その様な事があったでしょうか」


 俺の言葉にアメリア様は何のことだろうかと首を傾げており、俺はしまったなぁと自らの発言を後悔するのだった。

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