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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
281/336

第281話『|依頼の始まり《ドラゴンへ》4』

 俺はフローラちゃんのお兄さんと思われる人と共にフローラちゃん達が待っている丘の上に向かって走った。

 途中お兄さんの部下と思われる人に、隠れ家に隠れてドラゴンを監視する様に告げて、お兄さんはひたすらにフローラちゃんの元と目指して急いだ。


 そして、ドラゴンへ向かう時に比べたら気楽な道中を走り、俺たちはフローラちゃん達の元へ戻った。


「おぉ。戻ったか。リョウ、どうだった?」

「あまり得た情報は多くないのですが、フローラちゃんのお兄さんと合流しました。どうやらドラゴンを眠らせていた様です」

「ほぅ? 流石エリックだな。なかなかやるじゃないか」

「お知り合いですか?」

「あぁ……まぁな。お前は知らんのか?」

「そうですね。フローラちゃんからもあまり詳しくは聞いてませんでした」

「そうか……分かった」


 皇帝陛下は何故か重々しい口調で頷く。

 何だろうか? 何かあるのか?


 俺は疑問に思いながら皇帝陛下を見るが、皇帝陛下はそれ以上特に反応を示す事は無かった。

 そうなっては仕方ないと、俺はフローラちゃんやそのお兄さんの方へと意識を向けた。


「フローラ。まさかお前がここに来るとは思わなかったぞ。英雄殿を連れて来たのならば、後は頼めば良かっただろう?」

「そういう訳にはいきませんわ。民を導く立場に居る者が、民に全てを任せ後ろに引きこもっているなど!」

「そうは言うがな。お前の様な立場で戦場に出てくる者などおらん」

「あら。シーメル王国のアリア様は出ているではありませんか」

「彼女は特別だ。彼女以外は存在しないと言っても良い」

「ですが、私はアリア様と『親友』なのです。あの御方に恥ずかしくない生き方をしたいのです」


 何となく。

 フローラちゃんとお兄さんの話を聞いていて、少し嫌な予感がした。

 いや、まだ何も証拠などは無いのだが……もしかしたらという感情が俺の中に小さく生まれる。


 ここまでにあった違和感が繋がっていく様だ。


「亮さん? どうしました?」

「いや……ちょっとね」

「ん? もしや『気づいた』のか?」

「その言い方。疑惑が核心に近づくので止めていただきたいのですが」

「そうか。それはすまなかったな。まぁ、流石に不敬罪になる様な事は無いだろうから安心しろ。隠しているのには理由があるのだろう」

「……まぁ、そうですよね」


 リリィちゃんに問いかけられた事に俺が微妙な反応をしてしまったからか。

 皇帝陛下に突っ込まれ、俺は自分の中に生まれた疑惑が核心に変わってしまった。

 そうか……。


 そして、何のことだろうかと首を傾げているリリィちゃんとフィオナちゃんに何でもないよと言いつつ、再び二人に視線を戻す。

 嘘を吐いたという訳では無いが……あえて言わなかった理由は何だろうかと思いながら。


「お兄様。今重要なのは私の話ではありません。ドラゴンの話です」

「……む。フローラの話も重要なのだがな」

「お兄様!」

「分かった。そう怒るな。私も説明の必要はあるだろうからな。しかし……どうせ話すのなら一回で終わらせた方が良いだろう」


 と、フローラちゃんのお兄さんは俺たちの方を見ながら呟く。

 どうやら俺たちにも説明してくれるらしかった。



 それから。

 フローラちゃんのお兄さんは改めて場を整えてから俺たちを呼んで、改めて今回の話を最初から話してくれた。


「セオストの冒険者の方々。わざわざ、リメディア王国まで来ていただき、感謝する」

「いえ。我々も依頼で来ているだけですから。あまりかしこまらないで下さい」

「そう言っていただけるとありがたい。ドラゴンが関わる依頼は断られる事が多いからな。受けてくれるだけでも助かるのだ」

「まぁ……そうでしょうね」


 俺は丘の上からでも見える巨体を見ながら言葉を落とす。

 正直な所、あの巨体の事を知っているのなら受けたくないと感じる冒険者は多いだろうと思う。

 しかし、困っている女の子を放っておく様な真似は出来なかったし、結局俺は受けただろう。


「改めて状況と依頼について説明をさせて欲しい。ここまで来てもらって申し訳ないが、この話を聞いてからやはり依頼を継続する事は出来ないと感じれば、ここで帰って貰っても構わない。ここまでの報酬は払おうとも」

「……はい」

「実は……と話す前に、一つ確認したい。スタンロイツ帝国の皇帝」

「何かな?」

「貴殿がここにいる理由はなんだ?」

「ふむ。そうだな」


 皇帝陛下は腕を組みながら少し考えている様だった。

 そして、フローラちゃんのお兄さんを見ながらニヤリと笑って言葉を投げた。


「最近は帝国の臣下も優秀でな。私が居なくても十分に政務を進められるのだ」

「……」

「だから、まぁ。私が居なくとも国が問題なく運営できる様に訓練している最中であると言える」


 関係あるんだか、関係ないんだかよく分からない話を始めた皇帝陛下であるが、フローラちゃんのお兄さんは特に気にする事なくジッと皇帝陛下を見つめて、明確な理由が出るまで待つ。


 そして……。


「故に私は国に居る事は出来ず……さりとてやる事もない。そこにちょっとした知り合いである亮が通りかかったのでな。冒険とやらを私もやってみようと思った訳だ」

「……つまり、我が国への侵略の意図は無いと思ってよいのか」

「あぁ。その点は問題ない。私は貴国に興味は無い」

「なら……良い」

「故に私はスタンロイツ帝国の皇帝ではなく、ただの冒険者としてとらえてくれ。冒険者エリクだ。気軽にエリクと呼んでくれて構わないぞ」

「その様な事、出来るはずもない……が、戦力という意味では了解した。感謝する」

「そう固くなるな。アレをどうにかした後に起こるであろう事も、私が居れば然程苦労もなく解決するだろうよ」

「……それは、そうだろうが。貴殿がそこまでする理由は何だ」


 警戒する様にフローラちゃんのお兄さんが皇帝陛下に言葉の刃を向ける。

 が、皇帝陛下は気にした様子もなく、言葉を返した。


「我が国はな。その環境ゆえ、作物があまり育たぬ環境なのだ。故に……貴国の食料には常に助けられている。特に我が国で作られるパンは一級品でな。店主は貴国によく感謝しているよ」

「それは……貿易であれば当然だろう」

「そう。当然の事だ。だが、その様な当然の事も出来ぬ人間が多い世界では貴殿の様な存在は希少。という事さ。それもなお私が気になるという事であれば、私は大人しく去ろうじゃないか」


 皇帝陛下の言葉にフローラちゃんのお兄さんは、しばし悩んでいる様だった。

 そして、苦渋の選択をしたという様な顔で頷いた。


「ふ。良い選択をしたと思うぞ」

「……私は後にこの選択を後悔しないよう、祈るだけだ」


 諦めたような顔で呟くフローラちゃんのお兄さんにスタンロイツ帝国の皇帝はクックックと笑うばかりだ。

 本当に何も企んでいない……で良いんだろうか。

 俺も少しばかり不安になって来たぞ。


 しかし、現状まだ何もしていない為、何か言える事があるという事もない。


「では、改めて自己紹介から始めようか。私はエリック・リューン・リメディア。フローラ・リューン・リメディアの兄であり、リメディア王国の王太子である」

「……やっぱりか」

「え」

「「えぇぇぇええええ!?」」


 絶叫するフィオナちゃんとリリィちゃんに、フローラちゃん……いや、フローラ様は申し訳なさそうな顔をしていた。

 まぁ、ただの……というのもおかしいが、貴族のお嬢様だと思っていたらお姫様だったのだ。

 絶叫だってしたくなるというものだ。


「申し訳ございません。リョウ様。フィオナさん。リリィさん。実は……私はリメディア王国の第一王女だったのです」

「あ、あわあわ」

「こ、これまでのご無礼! 申し訳ございません!」

「いえいえ! そんな無礼だなんて! 皆さんにはとてもよくしていただきまして……!」


 俺は恐縮する二人と、そんな二人にあわあわしているフローラ様を見て、長くなりそうだなと息を吐いた。

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