第274話『|新たな依頼の始まり《旅立ち》』
翌朝一緒にフローラちゃんの家に向かうと約束した俺は、まずココちゃんの畑を見せて貰って、野菜の芽が出ていることに喜び、ココちゃんを凄い凄いと抱き上げて、その頑張りを十分に見せて貰ってから、これからの計画について聞いた。
そして、ゆったりと体を癒す様に風呂に入って。
桜が作ってくれたご飯を食べて、談笑して。
夜にぐっすりと寝てから、俺たちは冒険者組合へと向かうのだった。
まだ朝のかなり早い時間だというのに、フローラちゃんは冒険者組合の建物の前で俺たちをジッと待っていた。
「あ! リョウ様! それに、冒険者の方々!」
「随分と早いですね」
「はい。待ちきれなくて……!」
「それは申し訳ない事をしました。もう少し早く来れば良かったですね」
「あ、いえ! そこまでは! 昨日まで別の依頼をされていたという事ですし」
「お気遣いいただきありがとうございます」
俺はフローラちゃんに、丁寧に頭を下げてからフィオナちゃんとリリィちゃんに振り返った。
ここからセオストを出る訳だが、どういう順番で歩くか決めるのだ。
「とりあえず俺が先頭、フィオナちゃんがフローラちゃんの隣、リリィちゃんが一番後ろで良いかな」
「はい! 私は問題ありません!」
「私も、それで大丈夫だよ。何かあっても私がしっかりと守るから!」
「それは頼もしいね」
「ふふん! お任せだよ!」
自信満々で胸を張るフィオナちゃんにフローラちゃんがキラキラと眩しい物を見る様な目を向ける。
まぁ、この状況で任せろと言えるだけの人材だ。
信頼するのも当然と言えば、当然だろう。
という訳で、俺はフローラちゃんの事をフィオナちゃんに任せ、遥かな旅へ一歩踏み出すのだった。
フローラちゃんはセオストから北北西にある、スタンロイツ帝国のすぐ近隣にある小さな国から来たらしい。
地面を歩く魔物は、基本的にスタンロイツ帝国が排除してくれるからのどかな国なのだが、今回は空を飛ぶドラゴンが現れたという事で大事件になったという訳だ。
「そっかぁ。それは大変だったねぇ」
「はい。それで……お兄様が時期当主としての責任からドラゴン退治へ向かわれてしまったのです」
「うーん。なるほど」
フィオナちゃんはフローラちゃんの話に腕を組みながらウンウンと唸る。
何かを考えている様だが、何を考えているのだろうか。
と、俺は先ほど狩って来た魔物の肉を解体しながら考えた。
「どうしたの? フィオナ」
「え? いやぁねぇ。ドラゴンってどんな感じなのかなぁって思ってさ」
「えぇ!? フィオナ、ドラゴンの事知らないの!?」
「いや! 知ってるよ!? 知ってるけどさ。実物は見た事無いからどんな感じなのかなって!」
「どんな感じって……どんな感じなんでしょう? 亮さん」
「いや、俺に聞かれてもね。俺はドラゴンすら知らなかったし。分からないよ」
俺はフローラちゃんに焼けた肉を渡しながら首を振る。
正直な所、俺は誰よりも情報が無いのだ。
まぁ、一応前の世界でドラゴンを見たが、それはテレビや小説、漫画とかでだし。
実物を見た訳では無いのだ。
「んー。では、何となく想像してみますか!」
「想像?」
「そう。何となくイメージが出来ていれば、いざ戦うってなってからでも落ち着いて居られるのではないかと思う訳ですなぁ!」
「なるほど。一理あるね」
俺はフィオナちゃんの言葉に頷きながら、ふむと思考する。
ドラゴンの特徴はどんな物であったか。
特に言及されていたのはその巨大さだろう。
飛べば街が滅び、戦いとなれば国が滅ぶ。
様々な事が通常の魔物を超越している超生物という事だ。
「昔、まだドラゴンがそれなりに観測されていた頃。ドラゴンはオオトカゲという種類の魔物とよく勘違いされていたそうで……種類の中にはドラゴンもどき。なんて名前の種類も居たそうですよ」
「おぉ……流石はリリィちゃん。博識だね」
「い、いえ。それほどでは……」
「という事は、セオストの近くにある森にも居る、セオストモリオオトカゲに似てるって事かな」
「多分。そうだと思うよ」
「という事は、羽の生えたオオトカゲって事かぁ」
目を閉じて、余裕だなという様な顔で、ふむふむと頷くフィオナちゃんに俺は一応注釈をしておく。
「フィオナちゃん。大きさを忘れちゃ駄目だよ」
「あぁ、大きさ。大きさですね。家くらい大きいんでしたっけ?」
「いや、セオストくらいだね」
「ん?」
「セオストくらい大きい事もあるんだって。フィオナちゃん」
「え? いやいや。まさかまさか」
「まさか。じゃないよ。過去に現れたドラゴンはそれくらい大きい奴も居たって」
「そんなの人類じゃ勝てないでしょ!」
「まぁ、そうだね。だからどうしようか。って話をしてたんだよ」
「どうしようも無いですよ!」
「まぁ、最悪はフローラちゃんのお兄さんを助けて逃げる感じになるかな。とは思っているけれど」
俺はチラリと伺いを立てる様にフローラちゃんを見た。
フローラちゃんは緊張した面持ちのままコクリと頷く。
「はい。私もそれが良いと考えています。ドラゴンを刺激して、国が滅んでしまっては元も子もありませんから」
「そうですね。ではその方針で対応しましょうか」
「はい! お願いします!」
元気よく手を上げながら頷くフローラちゃんに俺も頷き返しながら、頭の中でドラゴンと戦う想像をする。
しかし、巨大な翼の生えたトカゲに何が有効なのか、イマイチ思いつかない。
皮膚の固さはどの程度なのだろうか。
神刀で切り裂けるものなのだろうか。
んー。
こういう話で思うのは、結局アレなんだよな。
俺の技量が今、どの位置にあるかという所なんだよな。
と、俺は自分の神刀を見ながら思う。
神刀はおそらく何でも斬れる。
俺の技量さえ追いつけば……その技量に応えてくれるだろうという感覚がある。
しかし、おそらく今の俺に岩を斬る事は出来ないだろう。
となれば、今の俺にドラゴンを斬る事は難しいのではないだろうか。
「ん-」
「どうしたんですか? 亮さん。また妙な事を考えているのでは?」
「そんな事はないよ。ただ、ドラゴンをどうやったら斬れるかなって考えてたんだ」
「また、そんな無茶な事考えて……」
「えー!? リョウさんってドラゴンが斬れるの!?」
「すごい! 英雄様はその様な事も出来るのですね!」
キラキラと輝く様な瞳を向けてくるフローラちゃんフィオナちゃんに微妙な顔を返しながら一応首を横に振っておく。
いや、出来ないからね。
まだドラゴンを斬ることは出来ないから。
「残念ですけど、ドラゴンを斬ることはまだ出来ないですよ」
「えー。本当に?」
「実は出来るのではないですか!?」
「期待が重いな……」
俺は困ったなぁと笑いながら、いつか出来る様になるかもね。なんて適当な返しをしつつ、夕食を食べようと合図をした。
そして、俺は皆が食事をしている光景を見ながら、持っていた肉を口にして、スープを飲む。
ヤマトに行った時よりも色々な料理が美味しく感じるのはフィオナちゃんも料理に参加しているからだろう。
「お、美味しい! 凄く美味しいです!」
「あら。ありがとうございます。今回の食事はかなり自信がありますからね」
「はい! まさか旅でこんなに美味しいご飯が食べられるとは思いませんでした!」
「ふふ! 私たち、ホワイトリリィの一番良い所ですね!」
自信満々に笑うフィオナちゃんに、フローラちゃんは何度も頷きながら笑っていた。
そして、そんな二人を見ながらリリィちゃんも安心した様にうんと小さく頷いた。
まぁ、まだまだ平和な旅は続きそうだ。
俺はスープを飲みながら、夜空を眺めてほぅと息を漏らすのだった。




