第268話『|ハグロ祭り《全てが終わって》2』
百合ちゃんのお陰で、無事百合ちゃんのお母さんから自然薯を使う許可も取れた為、俺たちは自然薯を楓ちゃんに削って貰うべく、楓ちゃんの所に向かっていた。
そして一人……では無いが、町から少し外れた場所で退屈そうな顔をしている楓ちゃんに近づいて声をかける。
「楓ちゃん」
「おぉ、亮に、セシル様。どこに行っておったかと思ったぞ」
「実はですね。楓ちゃんにお願いがありまして」
「お願い?」
何だろうかと首を傾げる楓ちゃんに俺は先ほど思いついた話をするべく口を開く。
喜んで貰えると良いんだが……。なんて考えながら。
「実はですね。つい先日、ハグロの町の近くで大きな自然薯を見つけまして」
「おぉ! 自然薯か! 凄いのう。どのくらい大きいんじゃ?」
「俺よりも大きいです」
「なんと! その様な大きさの自然薯があるのか! それは是非とも見てみたいのう!」
「はい。それでですね。お願いの話なんですが」
「おぉ、そうであったな。すまぬ。すまぬ。して、願いとはなんじゃ?」
「祭りで、その自然薯をですね。削って皆に配っては頂けませんか?」
「わらわが?」
「はい」
「亮が見つけた自然薯を?」
「えぇ。無論、問題なければ。というお話ですが」
最初は不思議そうな顔をして首を傾げていた楓ちゃんであったが。
確認を終えたのか、楓ちゃんは酷く嬉しそうな顔になると何度も頷いて笑った。
「もちろんじゃ! わらわは何も問題ない! 皆の為に! わらわが削ってやろうでは無いか!」
「ありがとうございます」
「うむ!」
楓ちゃんはキラキラと輝く様な笑顔を浮かべながら大きく頷いて、ぴょんと座っていた場所から飛び降りると、やる気がいっぱいあると元気よく動きながら示した。
非常に良い事である。
これほど喜んでいるのならば提案して良かったと心の底から思えるのだった。
「ありがとうございます」
「いえいえ。とても良い提案でした。お陰で楓ちゃんを楽しませつつ、楓ちゃんの不満を解消出来ました」
「不満、ですか?」
「はい。楓ちゃんは自分をのけ者にして、皆で楽しそうに祭りの準備をしていると不満そうでしたからね」
「なるほど」
俺は楓ちゃんに良い提案が出来たとセシルさんにも感謝を告げると、セシルさんから楓ちゃんの気持ちについて補足を貰う。
なるほど。
確かに先ほどまでの楓ちゃんは退屈そうであった。
しかし、ならば……もう自然薯の話を進めてしまっても良いのではないだろうか。
と、俺は楓ちゃんに一つ提案する事にする。
「楓ちゃん。実際に自然薯を削る前に、見てみませんか?」
「おぉ、良いのか!?」
「勿論ですよ。俺も楓ちゃんに自慢したいですからね。こんなに大きな自然薯が取れたんですよって」
「そうかそうか! 好きなだけ自慢すると良いぞ!」
俺が提案した事に、楓ちゃんはさらに花が咲くような笑みを返して、それならば早速見に行こうと俺の手を引っ張り、どこかへ行こうとしていた。
目的地は分からないだろうに、何とも元気の良い事である。
妹が元気で楽しそうで、俺としては何よりだ。
それから。
俺は俺の手を引っ張る楓ちゃんをそれとなく百合ちゃんの家に誘導し。
百合ちゃんのご家族に挨拶をしてから家の裏にある庭へと向かった。
そして、畑で何やら作業をしている百合ちゃんに話しかける。
「百合ちゃん。お連れしたよ」
「え? あ! 姫様! よくぞおいで下さいました!」
「いやいや。構わんよ。そう固くならず、自然と接してくれ」
「はい!」
「で? その自然薯はどこなんじゃ?」
「自然薯はこちらですね!」
百合ちゃんが指さした畑の端には、何やら土が積み上げられていて……小さな山の様な物が出来ていた。
あぁ、自然薯を埋めているのかとソレを見て理解する。
「これは何をしておるんじゃ?」
「はい。自然薯を埋めているんですよ」
「自然薯を? 埋める?」
「そうなんです。自然薯は地面に埋まっている植物ですから。日の光に当たっていると弱ってしまうんです。なので、土の布団に寝かせているという事ですね」
「なるほどのぅ」
楓ちゃんは一つ賢くなった。とでもいう様な顔で頷きながら土の山を見やる。
そして、土の山の前に座ると手で軽く土を払ってみたりした。
「あ! しまった!」
「どうしました!?」
「あ、いや、自然薯を寝かせておったのに、土をどかしてしまったと……いや、悪気は無かったんじゃ。ただ、何となく手が勝手に」
「あぁ、そういう事ですか。それなら問題ないですよ。もう準備をする必要がありますからね。自然薯さんを起こしてしまいましょうか」
楓ちゃんの隣に座った百合ちゃんは微笑みを浮かべながら楓ちゃんに語り掛ける。
そして、手で土を払う仕草をすると大きく頷いた。
「おぉ! では自然薯を起こしてやろう!」
「はい! ただ、自然薯さんは折れやすい子なので、手でそっと払ってもらえると嬉しいです」
「分かったぞ!」
大きく、元気な声で返事をしながらも楓ちゃんは慎重に土の山へ手を伸ばす。
全体は見えないし、傷つけないようにと気を付けてくれているのだろう。
何とも優しい子である。
「じゃあ、俺は洗う為の水を用意してくるよ」
「あ、はい! 水とバケツはあそこです!」
「了解。借りるね」
「はい!」
「では、私は楓ちゃんと一緒に自然薯さんを起こしましょうか」
「おぉ。一緒にやろう! セシル様!」
「えぇ。慎重に。ですね」
親子の様に、姉妹の様に、セシルさんと楓ちゃんは微笑み合いながら自然薯の近くにある土をどかしてゆく。
そして、そんな二人を見守りつつ、自身も凄い速さで土を掘り起こしていく百合ちゃんも、遠くから見ると楓ちゃん達と姉妹の様に見えた。
髪の色だとか、顔立ちだとか。姿はそれぞれ違うのに、不思議と強いつながりがある様に見えるのは面白いものだ。
なんて、外から見ながら俺はバケツいっぱいに水を貯めて、それを自然薯の近くに持ってゆく。
「じゃあ、姿が見えたところから順に洗っていくよ」
「はい。お願いします!」
「それは良いが、まだまだ土は……って、百合の所はもう殆ど終わっておるでは無いか!」
「え? あ、はい。そうですね」
「とんでもない速さじゃのう……流石は百合じゃ」
「いえ! その様なお褒め頂くようなことでは無いですが!」
「そう謙遜する物ではない。どの様な事であれ誇れる事は誇るべきだと母様も言っておった。わらわが最初に自慢した事は神樹の花びらをうまく掴める事であったしな!」
ケラケラと楽しそうに笑う楓ちゃんに百合ちゃんは恐縮しながら頷く。
そして、三人は軽やかに談笑しながら、土をどかし、自然薯を完全に露出させるのだった。
最後に俺がバッと全体の土を流す為の水を掛けて、よく自然薯が見える状態にした。
「お、おぉー! すごい! 大きい! 凄いのぅ! のう! セシル様! 百合!」
「そうですねぇ。これほどの大きさのモノは見た事がありませんよ」
「はい! 私もそう思います!」
「そうじゃな!」
「これは歴史に名前が残せそうですかね」
「残るじゃろうな。自然薯掘りの名人。亮じゃな」
「それは誇らしい」
「亮さん……侍としては弱い、地味、目立たない。みたいに言ってるのに」
「まぁ、真実だからね。しょうがない。俺は自然薯掘りのお兄さんとして歴史に名前を残してゆくよ」
「ふむ。ヤマトの危機に立ち上がり、姫巫女様を救った異国の侍は、ヤマトの侍を次から次へと切り伏せる神の如き力を見せつけたが、姫巫女様を笑顔にする為なら自然薯掘りも進んで行っていた人物……という歴史を語り継ぎましょうか。私が」
「止めてください」
「ふふふ。私は誰よりも長く生きますからね。誰も私は止められませんよ」
「……なんと厄介な」
俺とセシルさんの会話に楓ちゃんはケラケラと笑い、百合ちゃんも控えめに微笑んでいるのだった。
良い事だ。




