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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
259/333

第259話『|戦い終わり、その後《それから》1』

 ビリビリと電流が流れる様な、ジュクジュクと焼かれ続けている様な。

 独特な割に、つい最近味わった様な痛みを強く覚えて、俺は目を覚ました。


「……?」

「あぁ、目が覚めましたか?」

「セシルさん?」

「はい。セシルさんですよ」


 酷く覚えのあるやり取りをセシルさんと交わしながら、俺は体を起こそうとした。

 しかし、胸の辺りから腹部に感じる痛みのせいで体を起こすことができない。


 何がどうなっているんだ?


「無理に体を起こしては駄目ですよ。前の傷も開いているんですから」

「セシルさん……? 俺は」

「時道さんとの決闘で、以前と同じ技を受けたのです。そして、つい先ほどまで意識不明の重体でした」

「なる……ほど」

「そして、今現在は傷が完全に塞がっていない重症の患者です。起きることは許しませんよ」

「……申し訳ないです」


 俺はまたセシルさん達に迷惑を掛けてしまったと謝罪する。

 おそらくはまた癒しの魔術を使わせてしまったのだろう。

 申し訳ない事だ。


「いいえ。怪我や病気を治すのは私たちの役目ですから。亮さんは怪我人として十分に休んで、一日でも早く治す事に集中してください」

「はい……」

「まったく。治ったと思ったらすぐにもっとひどい怪我をしてくるんですから。侍さんは困ったものですね」

「面目次第も無いです」

「ちゃんと反省してますか?」

「勿論ですよ」

「ではもう二度と無茶はしませんか?」

「それは保証出来ませんね」

「……」

「残念ですが」


 ジィーッと擬音が付きそうな程、俺をジッと見つめるセシルさんにも怯まず俺は言葉を返した。

 出来ない事を無理に出来ると言ったところで無用なトラブルを生むだけだからな。

 出来ない事は出来ないのだ。


「……はぁ。本当に、亮さんは。困った人ですね」

「そういう風にしか生きられなくて、俺も困ってますよ」

「直そうとは思わないのですか?」

「生憎とこういう生き方しか知らないもので」


 俺はしれっと答え、視線を逸らしながら話題も逸らす事にした。

 いつまでもこの会話を繰り返していると、いつか本気の説教が飛んできそうだったからだ。


「そういえば、時道さんはどうなったんでしょうか?」

「あ、話を逸らしましたね?」

「……まぁまぁ」

「誤魔化すのが下手ですねぇ」

「まぁまぁ」

「……仕方ないですねぇ。乗ってあげましょう。時道さん、ですよね?」


 セシルさんは暖かな笑みを浮かべたまま頷くと、時道さんに関する話をしてくれるのだった。


「反乱を企て、フソウの城を制圧した時道さんと侍さん達は、今、皆さん一緒に反省室で反省文を書いています」

「時道さんは大怪我をしていたと思うのですが」

「亮さん程ではありませんよ。時道さんの腕はミラさんがすぐに癒しの力で繋げましたからね。今は元気に反省文を書いています」

「なるほど……」

「今回の事件に関わった人たちの中で、亮さんが一番重症という事になります」

「それは……なんとも残念ですね」


 本当に、本心から。

 いや、まさか鍔迫り合いの状態からあの技へと移行できるとは思わなかった。

 次……があるか分からないが、気を付けなくてはな。


「……また戦いの事を考えていますね?」

「えぇ。戦いが終わりましたからね」

「まったく、しょうがない人ですねぇ」


 セシルさんは強めに俺の上にある布団を叩いて、怒っていますよという様な顔で俺に言葉を向けた。


「とにかく。何をするにしても怪我が治ってからです。良いですね?」

「はい。重々承知しております」

「返事は良いんですけどねぇ」


 セシルさんは呆れた様な笑みを浮かべて、俺が寝ている布団の近くに座る。


「あんまり女の子を悲しませてはいけませんよ」

「……セシルさんみたいな?」

「私はもう女の子なんていう年でもありませんから」

「年の話はご法度だったのでは?」

「お口の減らない子ですね。元気なのは分かりましたから、もう寝てください」

「いや、しかし眠くなくてですね」

「……もう、本当に我儘放題で困った子です」


 セシルさんはいよいよ子供に接する様な言葉を放ち始めると、俺の寝ている布団を軽く叩きながら歌を歌い始めた。

 どこかで聞いた事がある様な。

 無いような。不思議な歌だ。


「さ、眠りましょう。今は傷を癒し、体を休ませるときですから」

「……そう、ですね」


 俺はセシルさんの歌に誘われるまま、静かに眠りの世界へと落ちて行った。

 ゆっくりと静かに流れる湖の様な、静かな時の中へ。



 そして。

 次に目を覚ました時、俺は暗い部屋の中に居て、周りには誰も居なかった。


 ここは何処だろうかと周囲を見渡すと、天井がやや壊れているが、フソウの城にある楓ちゃんの部屋だと思われた。


「もう外はすっかり夜か」

「あぁ。随分と長く寝ていたな」

「……時道さん」

「朝、いや昼以来かな。よく眠れたか?」

「えぇ。セシルさんのお陰で」

「それは良かった。気になっていたんだ。お前がどうなったのか」


 時道さんは暗い部屋の中で音も立てずに歩くと、俺が寝ている布団の横に座った。

 そして、「寝てろ」と言いながら隣で口を開く。


「姫様たちは下の階で休んでるよ。聖女様方も、な。俺たち全員を癒して、倒れるみたいに寝ちまった」

「そうですか……」

「だいぶ無理をさせたからな。当分は姫様方の我儘にも付き合わなきゃな」

「時道さんは……」

「うん?」

「時道さんは、満足、出来ましたか?」


 もっと色々と聞かなければいけない事もあっただろうに。

 俺が一番最初に聞いたのは、そんな事であった。


「あぁ。まったく出来なかったよ」


 しかし、時道さんが笑いながら放った言葉に、俺はクスリと笑って、目を伏せた。


「だが、久しぶりに瞬の天斬りを受けてな。感動したよ。やはり、俺が目標とした男は、こんなにも強かったんだってな」

「それは……良かった、です」

「あぁ。お前のお陰だ。亮。お前のお陰で国はすぐ平穏に戻るだろうし、瞬とも戦う事が出来た。望んだ形では無かったが……天霧瞬という男が未だ俺の憧れである事が分かった。お前には感謝している」

「……はい」

「だから……まぁ、なんだ。すまなかったな。もっと別のやり方があったかもしれん。それを探らず、こんな短絡的な行動をしたのは、すまなかった」

「まぁ、解決した事ですし」

「そうか! まぁ、そうだな。笑ってしまうくらいの即時解決だったな! 俺もまだまだ甘いと思い知らされたぞ」

「まったく……前向きなんだか、考え知らずなんだか」

「ふっふっふ。おそらくは両方だ。俺はお前が思うよりも、ずっと何も考えていないからな」

「自慢する様な話では、無いと思いますよ」

「そうだな。そうかもしれん。うむ。そうであろうな」


 カッカッカと笑う時道さんは、初めて会った時の陰鬱な感情が消えているかの様で。

 瞬さんや雷蔵さんのような明るさが見えた。


 そしてひとしきり笑ってから、夜にすまなかったなと時道さんは出ていくのだった。


「……はぁ」


 なんとまぁ。

 昼間に殺し合いをしたばかりだというのに気楽なものだ。

 少なくない犠牲者も出ているだろうに。ヤマトという国は、どこか気楽な空気が流れていた。


「流石に疲れた……。ドタバタと本当に元気な国だよ。ここは」


 酷く疲れたし、この空気に付いていくのも大変だった。

 かなり無理矢理走り抜けたのもあるし。

 またゆっくりと休みたい物だ。


「そう言えば、あれだな。魔物の研究も中途半端だったな」


 ヤマトでのあれこれは、普通の依頼の数倍は疲れるから。

 また少しゆっくりとするのも良いかもしれない。


「それに、ハグロの町で祭りの準備もあったな。祭り、か。楽しみだな」


 そんな事を想いながら窓から見える月を見て息を吐き、静かに目を閉じるのだった。

 重く沈んでゆく意識を抑える事なく、俺は闇に身を委ねた。

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