第25話『|新人歓迎会《うばいあい》』
冒険者組合の食堂で初依頼の達成をホワイトリリィの二人と祝う事になったのだが……。
ヴィルヘルムさんとアレクシスさんも祝うと言い、ホワイトリリィの二人やヴィルヘルムさん達と親しい人たちも祝うと言い始めた。
そして、気が付いたら大勢の人に囲まれながら宴会に参加していたのである。
「よぅ! 新人。俺はサラスってモンだ」
「初めまして。リョウです」
「そうか。リョウ。ハジメマシテだ」
俺はそれとなく桜を隠しながらテーブルに近寄って来た男に笑顔で挨拶をし、手を握る。
どうやらあまり剣が強い人間では無いようだ。
「まぁ? どうやら相当な田舎から来たという話だからな。色々と物を知らないというのは、まぁ……分かる」
「はぁ」
「だが、いつまでもホワイトリリィの二人を独り占めというのは、気に入らないな。しかも新入りの可愛い子まで抱え込むとは……!」
「何か勘違いされているみたいですけど……」
「グダグダうるせぇぞ! 良いからそこをどけって言ってんだよ! 俺は実質Cランク冒険者のサラス様だぞ!」
サラスとやらの大声で、後ろに隠れていた桜がビクッと震えるのを感じた。
どうやら処理しなければいけない害獣の様だな。
「……はぁ。仕方ないですね」
「おい! リョウ!」
「なんですか?」
「殺すなよ」
「……分かってますよ」
アレクシスさんのヤジに応えながら俺は立ちあがり、サラスとやらにとりあえず平和的に話しかけてみる事にした。
「今は楽しい宴会中ですし。争いは止めませんか?」
「うるせぇ! ガキが! 現実を教えてやるよ!」
サラスとやらは、食堂の中で剣を抜き、周囲に見せつける様に振り回す。
そんなサラスとやらに周囲は盛り上がっているし、何やら賭けが始まった様だった。
非常に教育上良くない。
桜に悪影響を与える前に処理しなくては……。
「どうした? どこから掛かってきても良いんだぜ!? 抜いて見ろよ! それとも怖くて抜けねぇか!?」
「……勝敗はどうやってつけるんですか?」
「なんだ。ビビってんのか! ヘタレ野郎が! なら良いぜ。武器が壊れたら終わりにしてやるよ! 間違ってお前を切っちまったら、ま! 諦めてくれや!」
「分かりました。では」
俺は左手で腰に差した刀の鯉口を切り、一応しっかりとサラスとやらが剣を握ってる事を確認し、刃を走らせた。
そしてサラスとやらの持っている剣の根元を斬り、再び納刀する。
「……速い!」
「なんちゅう速さだ!」
「おい! 小僧! 今のは何という技だ」
「あ? おいおい! 何騒いでんだよ! 戦いはまだ始まってねぇんだぞ!」
「もう、終わってますよ」
サラスとやらが俺の言葉に苛立ち剣を振り上げた瞬間、持っていた剣は根本から折れ、床に落ちた。
「は……? は? 何をした。魔術師だったのか!? お前」
「いえ。ただ貴方の剣を切っただけですよ」
俺は腰に差した刀を見せながら、肩をすくめる。
「お、お前! Fランクじゃないのかよ!」
「いえ。Fランクですよ」
「Fランクがこんなに強い訳ないだろ!」
「そうなんですか? でもランクは強さだけで決まらないと聞いたので、知識が無い以上はFランクですね」
「なら、個人戦闘力の測定をしろ!!」
「あぁ。個人戦闘力測定ならやりましたよ。Bランクでしたね」
「Bランクだと!? 最初から言えよ! 俺がCランクって言った時点でさ! 言えよ!」
「タイミングが無かったので」
「あっただろぉ!? いっぱいさぁ!」
サラスとやらはギャアギャアと喚きながら、折れた剣を拾い食堂から飛び出してゆくのだった。
直しに行くのだろうか。
まぁ、剣が無いと冒険者は仕事が出来ないものな。
悪いことをしたかな。
「お疲れ様。お兄ちゃん」
「うん。ありがとう」
だが、考えていても仕方ないという事で、俺は元の席に戻り、桜からやたらと濃いジュースを受け取り、飲む。
「リョ、リョウさんって凄い強かったんですね……」
「別にそんな事も無いと思うよ」
「いえいえいえいえ! そんな事ありますよ! Bランクですよ!? Bランク!」
「大騒ぎだね。フィオナちゃん」
「リョウさんが騒がな過ぎなんです!!」
「まぁ、俺より強い人は居るし。そこまで騒ぐ様な事じゃないよ」
「騒ぐことだと思うんですけどねぇ……!」
非常に悔しそうな顔でフィオナちゃんが訴え、俺はとりあえず笑って誤魔化すのだった。
しかし、そんな俺の下に周囲の冒険者が次々と話しかけてくる。
「おい。小僧。お前ホワイトリリィと組んでるんだって?」
「はい」
「勿体ねぇ! 今すぐウチのパーティーに来い!」
「な! ちょっと! 引き抜きは止めて下さい! リョウさんとサクラちゃんはホワイトリリィの新メンバーなんですよ!」
「しかし、ホワイトリリィはDランクだろうが。Bランクなんて持て余すだけだぞ」
「それはー、そうかもしれないですけどー。ほら! リョウさんが居たらCランクの依頼だって受けられるかもしれないですし!」
「無理無理」
「わからないじゃないですか!」
「ムリムリ」
「不可能だよ」
「夢見てもしょうがないだろ? フィオナちゃん」
「くっ! みんなして!」
多くの冒険者に囲まれ、おそらくは娘の様に可愛がられているフィオナちゃんを見つつ、別のパーティーの手伝いに関してはそれなりに真面目に考える。
桜がホワイトリリィの二人と食堂で働いている時に俺だけ遊んでいる事も出来ないし。
やるなら何かしら仕事をしたいと思ったからだ。
「フィオナちゃん」
「は、はい! 何でしょうか!? 依頼!? Cランクの依頼ですか!? それなら何とか!」
「いや、俺はホワイトリリィの手伝いだけをするつもりは無いんだ」
「えー!?」
「ほら、二人は食堂で働いているだろう? その仕事を邪魔したくは無いし。桜もその間はお願いしたいしね」
「な、なるほど」
「そうなると、三人が食堂で働いている間に働く場所は欲しいんだよ」
「……う」
「だから他のパーティーで依頼を受ける事も良いかな。申し訳ないんだけど」
「わ、分かりました」
フィオナちゃんが頷いた瞬間、食堂が歓声で沸き、多くの冒険者が意味もなく雄たけびを上げながら飲み食いしていた。
元気な事だ。
「おう。ならリョウ。お前さんの事を教えてくれよ」
「そうですよね」
俺はとりあえず自己紹介するべく冒険者の人たちに向き直った。
「はじめまして。小峰亮と言います。リョウと呼んでください。得意な事は刀で切る事です。よろしくお願いします」
「魔術は?」
「残念ながら才能が無くて」
「魔術無しでBランクか……とんでもねぇな」
「魔術無しで、どうやって戦うんだ?」
「エルネストの爺さんと同じ様な感じだよ。まぁ流石にあの化け物には勝てなかったみたいだがな」
「えぇ、まぁ。そうですね」
アレクシスさんがお酒を飲みながら言った言葉に周囲がどよめき、俺はとりあえず軽く頭を下げて言葉に同意した。
しかし、その反応に周囲がさらに騒ぎ始める。
「おいおい。なんだよ。その反応。まさか本当に戦ったのか? エドワルド・エルネストと?」
「えぇ。はい。ソラちゃんの件で少々揉めまして」
「ソラリア様の件で揉めて、エルネスト老と戦ったァ!?」
「よく生きてたなぁ! お前!」
「それだけ強いって事だろ」
「化け物と戦えるのは化け物って事か」
「いや、これは大型新人の登場か!」
「うちのパーティーに!」
「いや、ウチのパーティーに来てくれ!!」
「このジュース奢ってやる!」
「おい! お前汚いぞ! 俺はこの焼肉だ!」
「なら俺は……!!」
そして、遂に収集が付かなくなり、皆が大騒ぎする飲み会となってしまうのだった。




