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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
241/332

第241話『|休暇の終わり《事件発生》』

 ゆっくりと体の疲れを癒し、朝日と共に目覚めた俺たちはいよいよ自然薯を掘り出す作業に入った。

 今日までの作業で、全体的な姿は見えている。

 後は、自然薯を固定しつつ、周りの土を取り除いて、本体を取り出すだけだ。


 ここからが一番難しく、一番楽しい作業である。

 うまく自然薯を掘り出す事が出来たら気分が良いのだ。


「じゃあ始めようか」

「そうですね」

「んー。ちなみに、百合ちゃんは掘り出す方と固定する方。どっちがやりたい?」

「私はどちらでも良いのですが……強いて言うなら掘り出す方でしょうか」

「分かった。じゃあ固定する方は俺がやるよ」


 という訳で、役割分担も終わり、俺は自然薯を固定する作業を始めた。


 ここから周囲の土を掘り出してゆく関係で自然薯が倒れたり、歪んだりした場合、すぐに折れてしまう為、そうならない様に固定する。

 とても重要な仕事だ。

 周囲の様子も見ながら慎重に固定用の棒と自然薯を紐で固定してゆく。


 そして、百合ちゃんとも呼吸を合わせながら、自然薯を固定しつつ周囲の土を掘り出して行って……。

 太陽がちょうど真上に来るころには、自然薯を全体的に固定する事が出来た。


「……ふぅー」

「これで、後は抜き出すだけですね」

「そうだね。かなり強く固定したし、一気に抜こうか!」


 俺は百合ちゃんに自然薯を持ってもらい、周囲の土を払って、自然薯を自由な状態にした。

 そして、俺は下の方を、百合ちゃんが上の方を持って、一気に取り出した。


 かなり準備をしていた為、自然薯は自分達でもびっくりするほどあっさりと抜け、俺たちの手の中に収まっていた。


「「おぉー」」

「思っていたよりも簡単に抜けましたね」

「かなり準備したしね。やっぱり準備が大事って事なんだろうね」

「確かにー」


 百合ちゃんと笑い合いながら俺たちは自然薯を持って、喜びをあらわにする。

 そして、ひとまず穴から出そうという事になり、俺が両手で自然薯を抱えて穴から飛び出す事にした。


「よし。完全な形で取り出す事が出来たし。後は撤収といきますか」

「そうですね」


 自然薯をテントの中に置き、俺は近くに積んでいた土を穴に戻して、穴を塞いでゆく。

 流石に数人が入っても余裕がありそうな穴をそのままという訳にもいかないからだ。

 万が一誰かが落ちて大怪我をする様な事になれば、悔やんでも悔やみきれないだろう。


 なので、何かが起きる前に対策をする必要があるという訳だ。


「じゃあ、俺は穴を埋めちゃうから、百合ちゃんはテントとかの片づけをお願いできるかな?」

「はい!」


 そして俺たちはサクサクと撤退の準備を終わらせて、大量の山菜と、巨大な自然薯を持って山から撤退するのだった。


 道中、自然薯を折らない様に慎重に持ち運び、百合ちゃんの家を目指す。

 普段よりも慎重に歩いていた為か、到着までにはかなり時間が掛かってしまい、結局百合ちゃんの家に到着したのは夜も遅い時間であった。


「ただいまー」

「ただいま帰りました」


「あら~。あらあら。凄い楽しんでたのねぇ。何日も山に籠ってるなんて」

「そういうのじゃないから」


 百合ちゃんのお母さんが投げてきた言葉に、百合ちゃんはもはや慣れ切った態度で、冷めた返事をしたが、それでもやや興奮は隠し切れず玄関の扉の陰に隠しておいた自然薯を取り出しつつ笑う。


「はい! 山菜! 採ってきたよ!」

「あらー! 自然薯じゃない! どうしたの!? こんなに大きなの!」

「亮さんが山の中で見つけたんだよ! それで、これを掘り出すのに時間が掛かってたの!」

「そうだったの! あなたー! 蓮ー! 百合たちが凄いお土産を持って帰って来たわよー!」

「土産?」

「おぉー! 凄い! 自然薯じゃないか! 久しぶりに見たなぁ」

「おぉ……これを二人で掘り出してきたのか」

「そうだよ!」

「凄いモノだな。うぅむ。素晴らしい物だ」


 百合ちゃんのご家族は自然薯に大変喜んでいて。

 今日まで頑張ってきて良かったなと思うのだった。


 しかし、ここまで運んできて改めて思うが、本当に凄い大物だ。

 全長は俺の身長よりも大きいし、重さもそれなりにある為、身がしっかりとある事も分かる。

 それが、完全な状態で掘り出されたのだ。

 感動的だし。このまま食べるのがもったいないと感じるほどだ。


「でも、こんなに大きいんじゃ、私達だけで食べるのも勿体ないわよねぇ」

「うん。街の人みんなで食べようよ。って! 亮さんが良いのなら! なんですけど!」

「俺は勿論構わないよ。どうせならみんなで食べた方が美味しいだろうしね」

「そうですよね!」


「そうと決まれば色々準備しましょうか! 百合と亮さんが取ってきたお肉も我が家だけじゃ消費出来ない量だったし。ついでに出しちゃいましょうか」

「自然薯以外の山菜もいっぱいあるからね!」

「ちょっとしたお祭りくらいにはなりそうね」

「あぁ、そうだな」


 実に楽しそうな百合ちゃんとご一家を見て、あたたかな気持ちになっていた俺であるが……不意に懐の魔導具が震えた事で荷物をその場に下ろし、急いで通信を繋げた。


「もしもし?」

『っ! りょ、りょうさん! 大変なんです!』

「リンちゃん? どうしたの?」

『その、侍さん達が急に、刀を持って城に襲ってきて……! 私たちは今、最上階にある姫巫女様の部屋に居るんですけど! すぐ下の階には侍さんたちが! きゃあ!!』

「リンちゃん!」


 かなり切迫した様子に、俺は神刀を持ちすぐに現地へ向かおうとした。

 しかし、そんな俺の腕を小さな手が掴む。


「亮さん! 何か起きたんですね!?」

「そうだけど……行くのは俺だけで大丈夫だよ」

「そんなワケにはいきません! モモさんやリンさんは私たちの依頼主! そして、姫巫女様と聖女様はヤマトの希望です!」

「でも、行けば……百合ちゃんの秘密が」

「そんな事、どうでも良いです! 今は皆さんを守る事が大切です!」


「……わかった。行こう!」


 俺は百合ちゃんの強い意志の込められた瞳に頷き、百合ちゃんと手を繋いだままジーナちゃん特製の通信用魔導具を使い……先ほどまで通話していた魔導具のある場所へと転移した。

 周囲に光が溢れ、俺たちの足元に転移用の魔術式が広がる。


「百合! 亮さん!」

「大丈夫だよ。お母さん。すぐに終わらせて戻ってくるから」

「……無理はしないでね。また帰ってきて」

「うん。分かってる。自然薯の料理も楽しみにしてるから……だから、行ってきます」

「行ってらっしゃい……!」


 百合ちゃんと百合ちゃんのお母さんが手を振り合いながら別れ……光が周囲に満ちる。

 そして、次に光が消えた瞬間、俺の目の前には刀が振り下ろされていた。

 それを俺は神刀で受け止める。


「な、何奴!?」

「亮さん!?」

「百合ちゃん! モモちゃん達を頼む!」

「はい!」


 俺はすぐ後ろからモモちゃんの声が聞こえた事で、百合ちゃんにモモちゃん達を頼み、目の前の神刀を弾き飛ばした。

 そして、周囲をサッと確認して状況を見る。


 畳の上に倒れ、血を流しているのは老人ばかりで……ふすまを開け放ち、刀を構えているのは数人の侍だ。

 時道さんの姿は……見えない。


「亮さん! モモさん、リンさん、姫巫女様、聖女様。皆さんご無事です!」

「分かった」

「また転移で逃げましょう!」

「いや、残念だけど。さっきの奴は一回だけの技なんだ」

「そんな……」

「だから、逃げるのなら、この状況を何とかしてから……だね」


 俺は強く神刀を握りしめ、正面を見据える。

 侍たちは誰一人として怯む事も、退く事もなく、ただこちらをジッと睨みつけていた。

 戦う必要がある様だ。


 俺は覚悟を決めた。


「さて、逃げる為の道を作らないとな」

「ここまで追い詰めたのだ。逃がす事はせんぞ……!」

「なら……! 押し通る!」

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