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異界冒険譚  作者: とーふ
第1章『はじまり』
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第22話『|英雄のお孫様《ソラリア》の事情』

 孤児院に入って来たヴィルヘルムさんとアレクシスさんは、ワッと一瞬の間に子供たちに囲まれた。

 そして、ヴィルヘルムさんがまずはシスターに話をしてくると教会に向かい、アレクシスさんはその場で子供の相手をしながら芝生の上に座るのだった。

 ここで話をしよう。という事なのだろう。


「では、失礼して」

「そんな固くなるなよ。ここにはガキ共しか居ないからな」

「そうですね。あまり重苦しい空気にしても良くないですね。では気楽に話をしましょう」

「おう」

「それで、今日の話を始める前にですね。昨日はすみませんでした。街を案内して下さるという話だったのに」

「ん? あぁ、気にするなよ。オリビアからは連絡あったし。旅の疲れもあっただろうし。俺達も昨日すぐに。とは思って無かったさ」

「助かります」

「それで、だ。そっちはどうでも良いとして、気になるのは今日の話だな。リョウに、サクラ。なんでここに居るんだ? もしかして、そっちに居る悪ガキが原因か?」

「う……」

「いや、実はですね。早速なんですが、冒険者として、こちらのソラちゃんをここまで連れてくるという依頼を受けたんですね」

「ハーン。それはそれは。あんまり良くない事やってるな。リョウ」

「そうなんですか?」


 アレクシスさんの言葉と、俺の反応にすぐ近くに居たソラちゃんがビクッと震え、俺はアレクシスさんと一緒にソラちゃんへ視線を向けた。

 その視線から逃げる様にソラちゃんは顔を逸らすが、あまり意味はない。


「冒険者の仕事って奴はな。基本的には冒険者組合から受けなきゃいけないんだよ」

「……そうだったんですね」

「ま。絶対にそう決まってるって訳でもねぇけどな」


 アレクシスさんは体をよじ登っている子供を支え、体を傾けながら笑う。

 俺もまた、何故か子供に混じって膝の上で寝ている桜の頭を撫でながら話を続けるのだった。


「ちなみに今回の様な件は、その例外に含まれますか?」

「貴族から直接依頼されるという件に関しては、まぁ例外に含まれる。いわゆる秘密依頼という奴だな。これは組合が文句を言ってくる事はない。連中の後ろには貴族がいるからな」

「なるほど」

「だが、今回の件は別だ。ソラの依頼を受けることは禁止されている」

「なんでよ!」


 アレクシスさんの言葉にソラちゃんが怒りの声を上げた。

 しかし、アレクシスさんは何も動じる事はなく、静かな瞳でソラちゃんを見つめ返す。


「その理由は、お前が一番よく分かっているだろう? ソラリアお嬢様」

「うっ」

「何かあるんですか?」

「コイツの爺さんがな。エドワルド・エルネストっていう英雄なんだが。過保護でな。孫娘が自分の見えない所で行動するのを酷く嫌がってるのさ。だから冒険者組合にも圧力を掛けててな。ソラリアお嬢様からの依頼を受けてはいけない。という決まりになっているんだなぁ。そうだろ? ソラリアお嬢様」

「そ、そんなの理不尽だよ! 横暴だ!」

「文句なら爺さんに言えば良いだろ」

「だって……お爺様、何言っても駄目だ―って言うばっかりだから」

「まぁ、過保護な爺さんだからな。当然と言えば、当然だ」

「ぶー! アレク君からも何とか言ってよ!」

「俺が言って聞く様ならお前が言っても聞くだろうさ。さ、満足したら爺さんが来る前にさっさと家に帰れ」

「まだ帰らないー! お爺様が夕方までに戻れば良いって言ってくれたもん!」

「んな事、あの過保護な爺さんがいう訳無いだろ! 嘘吐いてねぇで……!」

「あのー。アレクシスさん」

「なんだ! リョウ!」

「いえ。俺が確かにエドワルド・エルネストさんから聞いてます。夕方までに帰ってくれば良いと」

「……は? 本気で、か?」

「はい」


 アレクシスさんは心底驚いたという様な顔で俺とソラちゃんを交互に見た後、ゲラゲラと笑ってから俺に視線を向けた。


「という事はアレか? お前、爺さんを説得したのか?」

「いえ。説得は出来ませんでしたので、争う事になりましたね」

「わはははは! 爺さんと戦ったのか! 獣人戦争の英雄と! そりゃいい! それで? どうだったんだよ」

「勝てませんでした。まだまだ遠い。壁の向こう側にいる感じでしたね」

「わははは! ひーひー! こりゃたまんねぇや!」


 アレクシスさんは子供達を器用に動かしながら潰さない様に芝生の上に仰向けとなり、笑い続ける。

 その様子はバカにしているというよりは、本気で面白いと思っている様な風で。

 俺はひとしきり笑い終わるのを待ってから、話をしようとしたのだが、その前にアレクシスさんが口を開く。

 お腹の上に載っていた子供を抱き上げ、体を起こしながら。


「いやー。笑わせてもらった。悪かったな」

「いえ」

「まぁ、実際だいぶ面白い話さ。爺さんの事を知っている奴ならみんな笑うだろうぜ?」

「勝てなかった事が、ですか?」

「違う違う。あの爺さんに勝てなかった。なんて言う奴が現れた事にさ」

「ん……?」


 よく分からないアレクシスさんの言葉に首を傾げていると、アレクシスさんは静かに笑いながら言葉を続ける。


「あの爺さんはな。真実化け物なんだよ。英雄、なんて呼ばれていたのは随分と前の事だってんのに、未だに負けなしでな」

「……」

「いや、負けなしというよりは、爺さんとまともに戦えた奴すら殆どいなかった。そういう類の化け物だったんだぜ? そんな爺さんに勝てなかった。と言えるお前は凄いって話さ」

「でも、アレクシスさんやヴィルヘルムさんも、エドワルド・エルネストさんと戦う事は出来るでしょう?」

「……へっ、そこで勝てるとは言わない辺りが正直だな? リョウ」

「えぇ。俺が知っている限りなら、届かないと思っています。無論隠された何かがあれば別ですが」


 アレクシスさんは俺をジッと見つめた後、ハッと笑い、両手をあげた。


「その通りだ。良い目をしているよ」

「……」

「どうした?」

「いえ。今はまだ、そういう段階では無いだろうなと思いまして」

「ふぅん? 本当に良い目をしているな」


 アレクシスさんはニヤリと笑ってから、俺があえて隠した言葉に同意した。

 という事は、やはり、あるのだろう。

 見せてはいない何かが。


 敵にはしたくない物だなと思う。

 アレクシスさんも、ヴィルヘルムさんも、そして、エドワルド・エルネストさんも。


「と、まぁ、こんなモンか。だいたい理解したよ。リョウ」

「えぇ」

「じゃあ後は。こんな所まで来た不良娘に、なんでこんな依頼をしたのか聞かなきゃなあ」

「う……別に、理由とか、無いケド? 行くなって言われてるから、見てみたかっただけだし」

「ふーん? それでわざわざこんな奥深くの孤児院まで?」

「どうせ見るなら奥の方が良いじゃん?」


 顔を逸らしながら、心にもないであろう事を言っているソラちゃんと、面白がって追及しているアレクシスさんに、俺は笑いながら一つの可能性を提示した。


「ソラちゃんはアレクシスさんとヴィルヘルムさんに会いたかったんじゃないですかね」

「ほぅ」

「なっ! ち、違うよ!? 違うからね!」

「ソラリアお嬢様は本当に俺達の事が大好きですなぁ」

「違うって言ってるじゃん!!」

「はいはい。分かっておりますよ。お嬢様。ケケケ」

「何も分かってない!! その顔!! なーんにも分かってなーい!!」


 それから、ソラちゃんは孤児院で多くのお友達を作り、桜も気が合う子が出来たのか、色々な子と話をしていた。

 俺はそんな二人の姿を見ながら、機会があればまた来ようと考え、大きく頷くのだった。


 そして、ソラちゃんを迎えに来たエドワルド・エルネストさんにソラちゃんを任せ、俺の初依頼は終了となるのだった。

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