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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
215/333

第215話『|静かな夜《心地よい時間》』

 百合ちゃんのお父さんとの話し合いは最悪な形で終わった。

 いや、まだ終わって無いけれども!!

 少なくとも現状としては最悪な状態である。


「あら。お父さんどうしたの。ムッとしちゃって」

「別に何でもない」

「そう? なら良いけど。あんまりお客様を困らせないでよ」

「分かっている!」


 酷く不機嫌そうに俺を睨みつける百合ちゃんのお父さんに、俺は何も言えず心の中で申し訳ないと謝りながら、百合ちゃんのお母さんから受け取った食事をテーブルに並べていった。

 それほど時間は経ってないだろうに、二人が用意した食事は実に多彩で、俺はヤマトの家庭料理を前にワクワクとした気持ちを感じながら笑う。


「いや、凄いですね。豪華な食事で」

「あら? そう? 何処にでもある普通の料理ばかりですけどね! あー、でも百合がいっぱい手伝ってくれたから亮さんには特別な料理かもしれないですね。ふふふ」

「え」

「どういう意味だ。母さん」

「そのままの意味ですよ。百合の花嫁修業はもう要らないわね。って話」

「何ぃ!?」

「ちょっと、お母さん!?」


 百合ちゃんのお母さんが放った爆弾は、容易く大爆発を起こし、百合ちゃんのお父さんと百合ちゃんが反応した。

 しかも、あまり良くない方向に、である。


「百合はまだ子供だぞ!」

「そんなの分かってるわよ。でも百合の話を聞いてると、百合の事をとても大切にしてくれてるみたいじゃない? それなら私としては反対する理由は無いかなぁーって」

「お母さん! 私と亮さんはそういう関係じゃなくて!」

「あら。ならどういう関係なの?」

「それは、その。お兄さんと妹みたいな……?」

「ふぅん。兄と妹ねぇ。でも、貴女、蓮にはそんなに甘えてなかったじゃない。連が手伝おうとしてても、一人で出来るからって、突っぱねたり」

「え……私、って昔、そんな感じだった? お兄ちゃんの事結構好きだったと思うんだけど」

「好きは好きだったと思うわよ? お兄ちゃん見つけると嬉しそうにしてたし。でも、それはそれとしてお兄ちゃんに頼る事はしてなかったわね」

「そんな感じだったんだ……」


 少しショックを受けた様な顔をしていた百合ちゃんであったが、フィオナちゃんや桜とのやり取り。

 それに最初の方の百合ちゃんを思い出すと、確かにそんな感じだったなと思い出す。


 しかし、そう考えると最近は結構頼ってくれるし、嬉しい事である。


「だから、昔のままの百合なら里帰りだって一人で来たでしょうに。亮さんに付いてきて欲しいって言ったんでしょ?」

「う」

「だから、私はてっきり恋人か何かだと思ってたってワケよ」

「そ、そういうのじゃないから……ホントに」

「ふぅーん」


 百合ちゃんのお母さんは明らかに納得していないという様な顔をしていたが、不意に俺の方へと視線を向けて口を開いた。


「じゃあ、亮さんに聞きたいんですけど、百合の事、どう思ってるんですか?」

「それはもう、妹の様に思っていますよ」

「好きな異性のタイプは!?」

「年上の女性ですね」

「親の前だから遠慮しているという事はなく!?」

「えぇ。本当に。真実心の底から」

「……これは難敵ね」


 どうにも諦める事のない百合ちゃんのお母さんに俺は嘆息しながら、食事に手を付けるべく話を無理矢理終わらせる。

 そして、そんな俺の策に百合ちゃんも乗ってくれ、俺たちはひとまず食事を始めるのだった。


「とりあえず食事をしましょう。せっかくの料理が冷めちゃいますし!」

「そ、そうそう! それが良いよ! ね!?」

「話を逸らそうとする、夫婦の最初の共同作業かしら」

「違うから! そういうのじゃないから!」


 百合ちゃんはお母さんの言葉を必死に否定して、俺も百合ちゃんの言葉に何度も頷いて、ひとまず話を強制的に終わらせた。

 そんな俺たちの姿に、お母さんはニマニマと笑っていたし。

 お兄さんは苦笑していた。


 それを何だか恥ずかしく思いながらも俺は用意された夕食に手を付けるのだった。


「では、いただきます」

「はい。いただきます」


 皆、バラバラに食事の挨拶をしながら箸を手に取って、器を手に取る。

 俺はとりあえず味噌汁から食べてみる事にした。


「うん! とても美味しいですね! この味噌汁!」

「百合が特に頑張って作ってたからね。やっぱり愛情かしら」

「お、お母さん!」

「あら、どうしたの? 百合。そんなに顔を真っ赤にして。照れてるのかしら」

「恥ずかしいの!」

「まぁ、お手製の料理を好きな人に食べてもらう時っていうのは恥ずかしいものよ。私も昔はそうだったわ」

「そうじゃなくて! というか、私はもう何度も亮さんに食べて貰ってるから!」

「あら。もうそこまで進んでるのね。流石は私の娘だわ」

「~~!」


 何を言っても、お母さんの良い様に取られてしまう状況に、百合ちゃんは言葉にならない叫び声を上げた。

 何とも同情を誘う姿であるが、俺も他人事では無いため、空気を薄くしながら食事を乗り越えるのだった。

 乗り越えられたかどうかは微妙な所であるが。


 そして、百合ちゃんと同じ風呂に入れようと画策してくるお母さんから何とか逃れ、俺は一人与えられた部屋で、百合ちゃんのお父さんに借りた着物を着て夜風に当たっていた。

 縁側に座りながら、外を見ていると酷く落ち着く様な感覚がある。


 この場所が静かだからか。

 もしくは縁側から見える庭の景色が昔の家を思い出させるからか。


 正解は分からないが、俺は小さく息を吐きながら仰向けで寝転んで、満天の星空を眺めていた。


「亮さん。入っても良いですか?」

「……あぁ、うん。大丈夫だよ」


 そして、一人縁側で夜の世界を楽しんでいた俺であったが、不意に外から百合ちゃんの声がして、体を起こしながら返事をする。

 百合ちゃんは少し時間を置いてから扉をゆっくりと静かに開き、中に入って来た。

 風呂上りなのだろう。少し上気した顔は、先ほどまでよりも落ち着いている様に見えた。

 色々とあったが、一人の時間を過ごして落ち着いたのかもしれない。


「お休みでした?」

「いや。起きてたよ」

「それは良かったです」

「うん」


 百合ちゃんは俺の隣に座ると、先ほどまでの俺と同じ様に庭を見て、ホッと息を吐く。


「何だか、静かですね」

「そうだね。セオストでも、フソウでも、何だかんだ騒がしかったからね。こんな風に静かだと不思議な感じだ」

「えぇ。本当に」


 百合ちゃんはしっとりと、昔を懐かしむ様に目を細めながら頷いた。

 もしかしたら、百合ちゃんもさっきの俺と同じ様な気持ちで、ここに座っているのだろうか。


「百合ちゃんはさ」

「はい?」

「ちゃんと話、出来た? お父さんやお母さん。お兄さんと」

「はい。出来ました。これも亮さんのお陰ですね」

「百合ちゃんが頑張ったからだよ。俺は一緒にいただけさ」

「一緒に居てくれたから、勇気が出せたんですよ?」

「そう? なら、まぁ。力になれたのなら、嬉しいよ」


 俺は百合ちゃんの言葉に笑って、軽く返事をする。

 百合ちゃんも、俺の言葉に微笑みながら、はい。と嬉しそうに笑った。


 そして、百合ちゃんが来るまでやっていた様に、仰向けで倒れながら星空を眺めて手を伸ばした。


「綺麗だね」

「えっ!?」

「セオストも何だかんだ灯りが多いし、こんなに星が見える事は無いからさ。不思議な感じだ」

「あ、星、星ですね」

「うん?」

「何でも無いですよ! 何でも無いですから!」


 焦った様に手を振りながら顔をパタパタと煽る百合ちゃんに俺はクスリと笑って、言葉をかける。


「心配しなくても、百合ちゃんは可愛いよ」

「はう!? も、もう! 冗談はやめてください!」


 顔を真っ赤にして、痛くもない拳をぶつけてくる百合ちゃんに、俺はケラケラと笑うのだった。

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