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異界冒険譚  作者: とーふ
第8章『柊木百合』
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第214話『|柊木家の人々《百合ちゃんの家族》』

 色々な勘違いから、ハグロの町の住人と戦う事になり、宿が使えなくなってしまった為、俺たちは百合ちゃんの実家へと向かう事になった。

 宿からそれほど離れていない柊木家は、昔俺が住んでいた家と同じくらいの大きさがあり。

 一つの家族が住んでいる上に、客が数日泊っても問題ないくらいの大きさがあった。


 これなら百合ちゃんが家族とゆっくり話す事も出来るだろうと思う。

 まぁ、俺は宿屋が直り次第、そちらへと移れば良いだけの話だろう。


「さ、百合も、亮さんも座って座って」

「えと、私、何か手伝うよ?」

「良いのよ。座ってなさい。長旅で疲れたでしょう」

「別に慣れてるから。大丈夫」

「そう? じゃあ、手伝って貰おうかしら」


 百合ちゃんは急速に親子の仲を取り戻す様に、百合ちゃんのお母さんに付いて台所の方へと向かっていった。

 俺はと言えば、やや広い客間……と思われる部屋に残され、まだ不機嫌そうな百合ちゃんのお父さんと、特に話す事は無いのか黙っている百合ちゃんのお兄さんと向き合う事になった。

 ……気まずい。

 非常に気まずい。


 こういう時にどういう話をすれば良いか分からない。


「……あ、あのー」

「時に亮殿。一つお伺いしたいのですが」

「は、はい!」

「亮殿はどの様な家で生まれたのですかな。ご両親は? ご家族は?」


 重い空気が耐えられず、何か言葉を絞り出そうとしたのだが、その出先を百合ちゃんのお父さんに遮られてしまった。

 そして飛んでくる、よく分からない質問。

 まさかとは思うが、柊木の家も俺が百合ちゃんと結婚するかどうか。みたいな勘違いをしているんじゃなかろうな。


「私の家は……小峰家と言いますが、特に侍の家系では無いですね。両親共に役人の様な仕事をしていました」

「ほぅ。国に仕える仕事ですか」

「そうですね。市という町がいくつか集まった集落の運営の手伝いをしていました」

「それは……凄いですね」

「はい。素晴らしい両親であったと思います」


 俺は百合ちゃんのお父さんが少しだけ態度を柔らかくしたのを確認し、心の中で安堵の息を漏らしながら続きを語る。


「それと、家族の話でしたか。家族は兄と妹がおりまして……兄はとても優秀で、将来は国の役人になると言っておりましたね」

「国の役人に!」

「はい。私とは比べ物にならない程優秀でした」

「なるほど」

「それと、妹もとても優秀で、可愛らしく、社交的で。百合さんとは友人関係でありますね」

「百合の友人ですか。関係は、良好なのでしょうか」

「そうですね。私から見ても、関係は良好だと思います。百合さんには他にも多くの友人がおりまして、特にフィオナちゃんという子とは、冒険者として一緒に活動している程の仲ですよ」

「あの引っ込み思案であった百合が……」

「セオストでも、上手くやっているのだな」


 百合ちゃんのお父さんとお兄さんは嬉しそうな顔で頷き、台所でお母さんと一緒に料理をしている百合ちゃんの方へと視線を向けた。

 その目線は優しく、暖かい。

 良い家族なのだなとよく分かった。


「亮殿。セオストで、百合はどの様な仕事をしているのでしょうか? 危険は無いのでしょうか?」

「冒険者ですから。危険はあります」

「っ!」

「しかし、百合さんは普通の冒険者よりもずっと強いですし。本来の実力よりかなり下の依頼を受けていますから。普通の冒険者よりは危険が少ないと思います」

「そうなのですね」


 ホッとした様な安堵した顔で、百合さんのお父さんとお兄さんは胸を撫でおろす。

 俺はそんな姿を見てから、そういえばもっと安心できる話もあったかと食堂の話をする事にした。


「それと、百合ちゃんは少し前に話したフィオナちゃんと一緒に食堂でも働いてまして、多くの冒険者から慕われてますよ。何か困っている事があったら手伝って貰える事も多いみたいですね。まぁ二人が親切にしてくれたから。みたいな理由が多い様ですが」

「フィオナという子もかなり良い子みたいですね。百合と気が合う訳だ」

「しかし……一つ気になる事がありますな」

「え?」


 俺は先ほどまでニコニコと笑っていた百合ちゃんのお父さんが不意に雰囲気を変えてきた事に、冷や汗を一つ流した。

 何か地雷を踏んでしまっただろうか。

 いや、しかし。おかしな話はしていないし。


「食堂で働いている百合に邪な感情を抱いている者は居ませんか?」

「あー。いや、どうですかね? 居たとしても、百合ちゃんの周りにいる者が許さないと思いますよ。二人はセオストの食堂で人気者ですから」

「しかし! 食堂では大丈夫でも! 自宅ではどうですか!? 百合に危険があるのでは!?」

「大丈夫だよ。お父さん。私、セオストでは亮さんの家に住んでるから。亮さんは英雄って言われている人だし。危険はないよ」


「英雄!?」

「亮殿の家!?」


 百合ちゃんのお父さんが放った強めの疑問に、台所からご飯を運んできた百合ちゃんが軽い感じで答えるが。

 お兄さんとお父さんで別の所に激しく反応する。

 厄介な事になった。

 非常に。


「亮殿は英雄なのですか!? それほどの実力を持っていると!?」

「どういう事ですかな!? 未婚の! しかもまだ幼い百合を自宅に連れ込んで!?」


「お、落ち着いてください。二人とも」


「亮殿が英雄と呼ばれる程の実力者であるというのであれば、私の至らぬ所が分かるのではないですか!?」

「どう責任を取るつもりなのですか!? 責任!? まさか、もう手を出しているというのか!?」


「本当に落ち着いてください。まずお兄さんですが、俺はそこまでの実力者ではなく、偶然と運が味方をして、そう呼ばれているだけなので、あまり気にしないで貰いたいです」

「しかし、あの強さは」


「次にお父さんの方ですが」

「君の父になった覚えはない!!」

「あ、あぁ。そうでしたね。これは申し訳ない。言い間違えました。百合ちゃんのお父さんですね。百合ちゃんのお父さんに至っては本当に何から何まで全て勘違いなので、訂正をさせていただきたいのですが」

「……聞きましょうか」

「まず、俺の家に百合ちゃんが住んでいるという話ですが、百合ちゃんだけではなく、フィオナちゃんや俺の妹も住んでます。他にも最近妹になった子や、同居人が何人か」

「その多くいる同居人の中で、男は何人いるのですか?」

「えー、あー。いや、居ませんね」

「つまり、亮殿は女性を何人も囲い込んでいると」

「誤解です!! 酷い誤解ですよ!」

「しかし、状況を見ればそういう事になる」

「皆妹の様な子なのです! そこは間違いない! そもそもフィオナちゃんや百合ちゃんが家に住み始めたのは、妹の友人だからというのが始まりなのです!」

「……」


 俺は何とか言葉を尽くすが、百合ちゃんのお父さんは疑いを強めた様な顔で俺を見据えるのだった。

 どうしてこうなってしまったのか。


「亮殿は百合をどう思っているんですか?」

「妹の大切な友人ですからね。大切にしたいと思っていますよ」

「大切に? というのは妻として迎え入れるという事ですか? 正妻として?」

「いや、そういう話ではなくですね」

「では百合を妾として扱うと!? それは許しがたい事ですよ!?」

「いったん、結婚関係の話から離れましょうか。いったんね。本当にただの同居人と、妹の友人というだけなんですよ」

「しかし、百合の里帰りに付き合っているでしょう。こうして挨拶もしている」

「妹の様に思っていますからね。不安だという百合ちゃんに付いてくる事くらいはしますよ。それにご挨拶も、友人としては当然だと思っていますね。はい」


 どうにも疑いは晴れないが、こういうのは一個ずつ丁寧に話していくしかないのだ。

 疑いが消えるまで!!

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