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異界冒険譚  作者: とーふ
第7章『ヤマトへ』
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第210話『|彼女《百合》の事情』

 俺は色々と心残りがありつつも、リリィちゃんとフソウを離れ、リリィちゃんの故郷を目指して歩き始めた。

 とは言っても、これまでの旅とは違い俺もリリィちゃんも戦える人間だし。

 リリィちゃんは二人になった瞬間から、魔術用の杖をしまい、神刀を握り始めていた。


 これは、二人で居る間は神刀で戦うという事だろう。


「リリィちゃん」

「はい」

「フソウから、リリィちゃんの実家まではどれくらいかかるのかな」

「うーん。どうでしょうか。フソウから実家まで歩いたのは子供の時だったので、正確な時間は分かりませんが……。三日程あれば到着出来ると思います」

「そっか」


 俺はリュックを背負い直しながら、三日なら荷物としても問題無いかと頷いた。

 食料もあるし。無理に魔物を狩らなくても良いかもしれない。


「あ、あの! 亮さん!」

「うん? どうしたの?」

「いえ。私の名前なんですが……出来れば百合と呼んでいただけると嬉しいです。あ! 柊木でも良いんですけど!」

「あぁ、そっか。ヤマトではリリィちゃんの名前は違うんだもんね。柊木百合ちゃん、で良いのかな?」

「はい……!」

「分かったよ。じゃあ百合ちゃんって呼ぶね」

「はい! ありがとうございます!」


 朗らかな笑顔で微笑むリリィちゃん……もとい、百合ちゃんを見ながら俺は安堵の息を吐いた。

 これからずっと離れていた実家に戻るのだから、かなり緊張していると思っていたが、どうやらそこまででは無いらしい。

 名前の話に気が付くほどに余裕があるのだ。


 むしろ、そうなると俺の方が余裕が無いかもしれない。

 朝の修練場での話が未だに気になっていて、頭の中で蠢いているのだから。


 しかし、いつまでも気にして動きを鈍くして、百合ちゃんに迷惑をかける訳にはいかない。

 どうあっても後手に回ってしまう話なのだから、気にし過ぎるのも良くないだろう、という事で、俺は先ほどの話を頭の奥に追いやって、百合ちゃんの話に集中する事にした。

 今出来る事は全て行ったのだ。

 気にし過ぎてもしょうがない。


「そう言えば、聞いても良いのか分からないけど……百合ちゃんのご家族ってどんな方達なのかな」

「家族……ですか」

「勿論言いたくない事は何も言わなくて良いし。話したくない事は話さなくても良いんだけど!」

「大丈夫です。どちらにせよ、これから家には行く訳ですし。話しておかなくてはいけない事かなとも思いますので」

「悪いね」

「いえ。これも大事な事ですから」


 俺は儚げに笑う百合ちゃんに笑みを返しながら、ここからの話は慎重にしなくてはいけないと気合を入れる。

 そして、百合ちゃんはそんな俺の覚悟を知ってか知らずか、ゆっくりと丁寧に話し始めた。


「柊木という家は、侍の家ではあったのですが、十二刀衆にもなれず、四方の護衛も出来ず、魔物の森の管理も出来ない。まぁ、どこにでもある様な家でした」

「話の途中でゴメン。……ヤマトに来てから何度か聞いたんだけど、十二刀衆っていうのは何なのかな」

「あ! そうですよね。十二刀衆ですね! 十二刀衆というのは、ヤマト最強の侍十二人の事を指す名前なんです」

「なるほど」

「何年かに一度、ヤマト全体のお祭りがありまして、お祭りで戦いが行われて、その時の結果で十二人が決められる事になります」


 また、戦いか。

 相変わらずヤマトという国は何でも戦いで決めるのだなと口には出さぬまま心で静かに思った。


「それで、柊木家は、まぁ神刀に選ばれる事もなく、特別な役職もなく、細々と生きていました。そんな中、生まれたのが兄でした」

「……お兄さん」

「はい。兄はとても優秀な方で、幼い頃からその才覚を示していました。なので、両親も兄に期待し、柊木ではない別の家にお願いして厳しい修行を重ねていました」

「……」

「そして、兄さんはヤマトでも異例な速さで神刀の担い手となりました。通常神刀の担い手に選ばれるのは15歳から17歳の間とされていますが、兄は13歳の時に神刀の担い手となりました」


 百合ちゃんは遠い目をしながら語り、歩く早さも少し遅くなっていた。


「両親も、兄も、大いに喜んで、祝い事をしました。私はその時、まだ7歳だったのですが、皆が楽しそうで、私も凄く楽しかったのを覚えています」

「ですが、事件が起きました」

「私たちは今まで神刀の担い手になれなかった一族ですから。霊刀山へ足を踏み入れる事も許可されていませんでした。しかし、その時は、兄が正式に担い手となるという事と、フソウの役人さんが気を遣って下さって、私たちも霊刀山に足を踏み入れたんです」


「……そこで、私は両親とはぐれてしまったんです」

「一人で霊刀山の中を泣きながら歩いて……そして、この子に出会いました」


 百合ちゃんは腰に差した刀を抜き、正面にかざしながら語る。

 確か、『霞』という名前の神刀だったと聞いていた。


「何かに導かれて、霞を握った瞬間、世界が透き通る様な感覚があって……私は両親や兄を見つけました」

「そして、霞の力を借りて、木々の上を飛び移り、風よりも早く両親の元へと降り立ちました」

「それだけであったなら、まだ良かったのかもしれません」

「ですが、私はその時、霞と共にある喜びで全身が包まれていました。そして、驚く両親の前に降り立った私の前には、大好きな兄が居て……そんな兄に襲い掛かっている侍がいました」

「後から思えば、それは兄が神刀の担い手となる儀式の一環で、兄に修行を付けている様な状態だったのだと思います」

「しかし、私はそう思わなかった」

「知らない人が兄を傷つけようとしている。そう考えて、霞と共にその侍に斬りかかりました」

「兄を圧倒する様な相手です。まだ幼い私に勝てるわけがない。そう誰もが考えていました。だから、周りも私を止めようとした。しかし、私はその侍に勝ってしまった。それも周りが止めるよりも早く。兄が受け取る筈だった神刀を折りながら……」


 今にも泣きだしそうな顔で百合ちゃんは語り続けた。

 悲劇、と言葉にしてしまえば、ただそれだけ。ただの悲劇だ。

 無論、その時のお兄さんやご両親、そして、自分がやってしまった事を理解した時の百合ちゃんの気持ちを考えれば、そんな簡単な言葉で済まして良い事では無いだろう。

 しかし、過去は過去。

 起こった事は、やはりただの言葉でしか無いのだ。


「それから、私は両親の怒った様な、泣きそうな声で、止められ、そこで自分が何をやってしまったのか理解しました」

「いえ。ハッキリとは分かっていなかったのだと思います。ただ、とんでもない事をしてしまったのだと。兄の絶望した顔から理解しました」

「結局、私は幼すぎた事もあり、よく分からないまま、両親と共に霊刀山を去りました」

「兄の神刀は折れてしまった為、儀式は後日となり、後に行われた儀式も、私は抜きで、兄と両親だけで行ったそうです」

「全てが終わってからも、私は何も責められる事無く、日常を過ごしました」

「しかし、それでも……私はあの時の、絶望に染まった兄の顔が忘れられないのです」

「そして、私は、あの家に居るのが耐えられなくなり、10歳の時、ヤマトからセオストへと逃げました。成長試験で森へ行く際に、人の目がきれた瞬間に霞の力で森の中を一気に駆け抜けて……」


 百合ちゃんは震えながらも、おそらく家族と遠くなってしまった原因を全て語った。

 大きく息を吐きながら、何とも言えない顔で俺を見て控え目に笑う。


「これが全てです」

「そうか」

「でも、このままではいけないと、私は思うんです」

「うん」

「だから、これまでの事を謝罪して、私に出来る事をしようと思いました」

「分かった。それが百合ちゃんの覚悟なら、俺も最後まで見届けるよ」

「ありがとうございます」


 そして、全ての話を受け止めた俺は、百合ちゃんと共に百合ちゃんの生まれ故郷を目指し歩き続けるのだった。

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