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異界冒険譚  作者: とーふ
第7章『ヤマトへ』
202/330

第202話『いざ|霊刀山《神聖なる場所》へ』

 以前、セオストに現れ、街壁を破壊し、多くの被害を出した魔物。

 その魔物がヤマトにも現れ、一匹は駆除されたものの、もう一匹は今もなお霊刀山に住んでいるという。

 そこで、モモちゃんとリンちゃんと、楓ちゃんとセシルさん、そしてリリィちゃんと俺はフソウの城で夜ゆっくりと休んでから、楓ちゃんの部屋から繋がる転移門を通り、神樹の家から霊刀山へと向かうのだった。


「ここが、霊刀山ですか……!」

「そうじゃ」

「なんだか、異様な雰囲気ですね」

「まぁ、ヤマトを支える神刀を奉納している場所じゃからの。霊気は強い」


 楓ちゃんの言葉を聞きながら、俺は霊刀山と呼ばれた山の入り口を見つめる。

 確かにリンちゃんの言葉通り、ここには異様な雰囲気が漂っていた。


「……」

「亮さんは何か、感じますか?」

「そうですね。雰囲気だけですが、リンちゃんの言うように、何か異様な物は感じますね」

「なるほど。霊感という様な物でしょうか」

「霊感。どうでしょうか。ただ、今まで幽霊を見た事は無いですね」

「それでも何かを感じるという事は、霊刀山には何かがあるのかもしれないですね」


 セシルさんがニコリと微笑みながら告げた言葉に、俺は少し気持ちを強くして霊刀山を見つめた。


「では、行くかの」

「あ、楓ちゃん! 行くなら、俺たちが前に出た方が良いのでは!?」

「いや。普通の場所ならそうかもしれんが、ここは特別じゃ。わらわが前の方がむしろ安全なんじゃよ」

「亮さん。大丈夫ですよ。楓ちゃんの言っている事は正しいですから」


 楓ちゃんの言葉に、急いで前へ出ようとしたが、楓ちゃんとセシルさんに止められ、俺は一応いつでも飛び出せるようにとしながら、後方に立った。

 霊刀山へは、楓ちゃんを先頭にして、モモちゃん、リンちゃん。

 そして、俺が立ち、後ろにセシルさんとリリィちゃんが並ぶ。


 俺はそれとなく左手で神刀を持ちながら、いつでも抜刀出来る様にして、霊刀山へと足を踏み入れた。

 のだが、その瞬間、周囲からの殺気が一気に膨れ上がった。


「っ!」

「亮。大丈夫じゃから。そうカッカせんで、落ち着け」

「も、申し訳ないです」

「気持ちは分かるからの。亮が悪いという事は無いぞ。ただ、この場所が神刀の担い手にとって少々特別な場所というだけじゃ」

「なるほど」


 俺は納得しつつ、周囲から向けられる殺気に、どうしたものかなと考える。

 いや、どうしたものかも何も、戦わないという話を楓ちゃんにしたのだから、戦う事はないのだが。

 体は殺気に反応してしまって、刀を抜いてしまいそうだ。


『いやぁー。巫女姫様。中々面白い男を連れてきましたな』

『服装を見る限り、外の人間と思われますが、ヤマトの誰かと結ばれたのですかな?』

「いや? 亮は、セオストという街から来た冒険者じゃ」

『ほー! セオストとは、確かヤマトの北に位置する国でしたな?』

「いや、セオストは国の様で国じゃないんじゃ」

『国の様で、国じゃない。どういう事だ。誰か分かるか?』

『我に聞くな。分かったら、今頃は文官になっておるわ』

『それは違いない。わはは』


 山道の途中で、楓ちゃんの周囲に現れた半透明の侍たちは、ゲラゲラと楽しそうに楓ちゃんに話しかけていた。

 そして、そのまま俺たちの方へ向かってくると興味深そうに話しかけてくる。


『よぅ。異国の侍。お前、神刀の担い手なんだってな?』

『しかし、まだ銘を聞けてないとは、未熟な!』

「自分の未熟は理解しているんですが、その神刀の銘というのは、どうすれば聞けるものなのでしょうか」

『どうすれば? どうすれば聞けるんだ?』

『俺に聞くな。俺は初めから銘を知っていた。誰かに聞いたことはない』

『我も知らん。生まれた時から担い手になる事は決まっていたからな。知らん事の方が無い』


 俺の問いかけに、幽霊侍たちは顔を見合わせながら首を傾げる。

 それらしい事を言っているが、誰も本当の所は分からないらしい。

 よくそれで、俺が未熟とか言えたものだ。


「そうなると、俺も皆さんに聞いた方が良いって事ですかね?」

『まぁ、我らが判断してやろうじゃないか』

『そうだな。我らは長く霊刀山に居るからな。すぐにその銘を教えてやろう』

『まぁ、無知な者に知恵を授けるのが我らの役目でもあるな』


 うんうんと頷いている幽霊侍たちに俺はひとまず腰に差していた刀を抜いて見せる。

 左手で持っている神刀に侍たちは周囲からジロジロと見て、上から、下からと見据える。


 しかし、いつまで待っても彼らの中から名前は出てこなかった。


「あの、銘を教えて頂いても良いでしょうか?」

『いや、これは……』

『うーむ』

「どうしたんですか?」

『我は……この神刀の銘を知らぬ』

『お主もか!』

『銘どころか、我は見たこともないぞ』

『そう言われると、そうだな』

『我は少なくとも千年この山に居るが、見たことがない』


『おぉ! 確かに言われると、こんな神刀は見た事がないな!』

『では、ヤマトの神刀ではないという事か?』

『まさか。神刀は全て神が我らヤマトの民に託したものでは無いか。外の世界にある訳がない』

『しかし、天霧蒼龍の様な者もおるし。遥かな昔にヤマトから外へ流れた神刀の可能性もあるか?』

『うぅむ。確かに可能性はあるな』

『ヤマトには長き歴史がある。その中で全ての神刀を把握している者などおそらくはおるまい』


 幽霊侍たちの言葉から、どうやら神刀の銘を知っている者はいなそうだと理解した。

 そして、自分の目の前に戻しながら俺も見据えた。

 何か聞こえてくる様な事は無いだろうかと。


「……」

「亮は中々珍しい神刀を持っている様じゃの」

「そうみたいですね。自分はこの神刀しか知らないので、よく分からないのですが」

「まぁ、担い手は皆、己の神刀くらいしか詳しくないと思うぞ。霊刀山にいる者達は、長く暇じゃから色々な神刀を知っておるが」


 そういう物なのか。と、俺は楓ちゃんの言葉に頷いた。

 そして、誰も分からないのなら見せている意味も無いかと再び神刀を腰に差す。


「うーむ。皆で分からないという事は、ヤマトで知っている者はいないかもしれんのう」

「なるほど」

「すまんなぁ。亮。助けになれず」

「いえいえ。大丈夫ですよ。今までも銘は知らなかったですし。これからも特に困る事は無いでしょうしね」


 心配そうな楓ちゃんに微笑みながら、俺は問題ないよ。と返す。

 楓ちゃんはそれなら良いがと小さく息を吐きながら、当初の目的を果たす為に、山を登り始めた。


「……亮さん」

「どうしました? セシルさん」


 山を登り始めて少しすると、後ろからセシルさんが小さな声で囁いてきた為、俺は前を向いたままセシルさんに話を聞こうと足を緩めた。

 そんな俺の動きに、リリィちゃんはサッと俺たちを抜いて前の方へと足を早めて行った。

 本当に、状況を見て動くのが上手いなと思いながら、俺は前の事をリリィちゃんに任せてセシルさんの話に集中した。


「話というのは……?」

「亮さんは、神刀の銘を知りたいと思いますか?」

「まぁ、神刀は銘を知る事でより強く使えると聞きましたからね。知る事が出来るのなら、知りたいですが」

「そうですよね。それで……もし、私が神刀の銘を知る方法を知っていると言ったら……どうしますか?」

「――! まさか」

「はい。そのまさかです。私は、神刀から銘を聞く方法を知っています」


 衝撃だった。

 そう、それはまさに。衝撃という言葉が一番正しいモノであった。


「セシルさん。教えていただく事は可能でしょうか」

「はい。勿論です」


 輝かしい笑顔で頷いてくれるセシルさんに、俺は強さへの光明が一つ見えたと笑みを浮かべる。

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