第201話『残された|魔物《ヒント》』
第一回神樹調査も終わり、俺たちはひとまずフソウの街に戻る事となった。
フソウの城に戻って来た俺たちは一息ついてから、それぞれバラバラの場所に座って壁に寄りかかって休んだ。
何だかんだと長い旅をしてきて、フソウの城に着いてからもすぐに神樹の所へ向かったから、こうして休むのは久しぶりな様な気もする。
「いや、すまなかったの。ドタバタと」
「いえいえ。まずは一回見たかったので、ちょうど良かったですよ」
「そう言って貰えると嬉しのう」
「しかし、当初の予想とはだいぶズレがありましたからね。その辺りはよく調べませんと」
「うむ。そうじゃの」
「何か神樹に影響を与えた事件とか、事故とかがあるかもしれません」
「事件か、事故……か」
楓ちゃんはうむむ、と腕を組みながら悩んでいる様だった。
そんな楓ちゃんにモモちゃんとリンちゃんは少し考えてから、原因として考えられる物を楓ちゃんに伝えた。
「うーん。例えば、神樹の近くで大きな魔力暴走があったとか」
「魔力暴走?」
「はい。とても大きな魔物が現れた! とか、大規模な嵐が起こった! とか」
「そんな事あったかのぅ」
「あぁ。楓ちゃん。あったじゃないですか」
「セシル様は何か覚えておるのか?」
「はい。天霧蒼龍さんですよ」
「あぁー! あやつが起こした事件か!」
楓ちゃんはセシルさんの言葉に手をポンと叩きながら頷いた。
どうやら神樹に影響を与える程の事件を起こした個人が居るらしい。
しかも、名前はどこかで聞いた様な天霧さん。
瞬さんの親戚か何かだろうか。
「あやつめ、本当に余計な事しかせんな」
「まぁ、起こってしまった事は仕方ないですよ。それに、まだ天霧蒼龍さんが原因かどうか分かりませんし」
「いーや。あやつが原因に違いない。わらわの勘がそう言っておるわ!」
元気よく、犯人見つけたりー! と叫んでいる楓ちゃんに、一応モモちゃんが待ったをかける。
まぁ、もし人違いだったら大変だしな。
「あの、姫様。一応どういう事件だったかお聞きしても良いですか?」
「あぁ、良いぞ!」
「ありがとうございます」
モモちゃんに、うむと返事を返してから楓ちゃんはゆっくりと話し始めた。
その天霧蒼龍さんとやらが起こした事件の事を。
「つい半年ほど前かの。天霧蒼龍という男が蘇ったんじゃ」
「えぇ!? 蘇った!?」
「蘇った。と言っても、完全に蘇生したという訳ではなく、神刀に意識を宿らせて、疑似的に肉体を魔力で構成した状態ですね」
「な、なるほど。それはそれで、凄い事ですが」
「まぁ、よく分からんが、そういうアレでな。天霧蒼龍が復活したんじゃ。しかし、あやつはヤマトを去る前から厄介者でな。強者を求めては勝負を仕掛けていたんじゃ」
「……なるほど」
何故かモモちゃんが俺の方を見ながら頷く。
何だろうね。
俺みたいだな。とか思ったのかな。
まぁ、俺から諸部を仕掛けた事は無いんだけどね!
「そんな奴が復活したんじゃ。やることは昔と何も変わらん。強者を探し、戦いを仕掛けておった。迷惑な事じゃな」
「……」
「そ、それで!? それでどうなったんですか!?」
「何じゃ、亮。そんなに慌てて」
「いえ。やはり気になりますからね! 神樹が弱っている原因と聞いては」
「うむ。そうじゃな。それで結局、天霧蒼龍は瞬と時道が倒したんじゃが、天霧蒼龍が現れた時、妙な魔物も一緒に現れてな霊刀山で暴れたんじゃ。ミラは魔力の集合体の様に言っていたが、あやつが暴れた事が原因だと、わらわは思っておる!」
「魔力の集合体……?」
俺はどこかで聞いた様な魔物だな。と思いながらふむと考える。
何だったか。
うーん。
「そのモンスターはどの様な見た目をしていたんですか?」
「見た目? 見た目か。何というかのぅ。普通のモンスターとはかなり違う見た目をしているんじゃ」
「独特な見た目、独特な見た目ですか」
「うむ。足や手が無くてな。水がこう、動いている感じなんじゃが、分かるかのう」
「少々分かりにくいのではないですか?」
「そうかのう。しかし、他に説明のしようがないしのう」
「あのー。俺は何となく分かったんですが」
「おぉー! そうなのか!」
「えぇ。セオストにも同じ様な魔物が現れたんです」
「まさか! セオストにも現れたのか!」
楓ちゃんはビックリしたという様な顔で、俺の方を見ながらスススっと近づいてきて、自然と俺の足の上に座った。
その姿は見る人が見れば非常に衝撃的な物であるが、ここに居る人々はもはや気にする事もなく自然に受け入れる。
「しかし、セオストにも現れたとは……大変じゃのう。誰が倒したんじゃ? やっぱりエドワルド・エルネストか?」
「あーいやー」
「うん?」
「姫様。その魔物を倒した人は貴女のすぐ後ろにいますよ」
「え!? そ、そうなのか!? 亮が倒したのか!?」
「うーん。俺が、というのは色々と語弊があると思うんですよね」
「でもー。セオストではその魔物を倒した事で、英雄になったんですよねぇ~」
「おぉー! やっぱり亮が倒したのか!」
モモちゃんの追い込みが強く、俺の反論は容易く踏みつけられてしまった。
キラキラとした目で見上げてくる楓ちゃんの視線から逃げつつ、俺はさらに言葉を重ねた。
流石にそんなヒーローを見る様な目で見ないで欲しい。
「いえ、実際の所、俺の攻撃だけでは足りなくて、アレクさんが最後の一撃を撃ち込んで、決着したんですよ。なので、俺が倒したというのは間違いですね」
「ふむ。亮だけでは、足りず、最後にアレクシスが援護したという事か」
「……まぁ、そうですね。援護というか。トドメはアレクさんです」
「しかし、そのトドメの一撃の手前まで追い込んだのが亮なんじゃろ?」
「それも語弊がありまして……実際の所は瞬さんが魔物を両断してくれたので、俺は見えた核を斬ったというだけなんですよ。しかも、それすら中途半端だったので……」
「なんと! 瞬がトドメを譲ったのか! という事は既に亮を信頼していたのだなぁ」
「……」
あぁ言えば、こう言う。
何とも理不尽だなと思いながら、俺は両手を上げつつ、白旗を出した。
これ以上の議論で勝てる気がしない。
いや、勝ち負けでは無いのだけれど、何かを喋れば喋るほど泥沼になりそうな気配だ。
「あー、分かった。分かりました。確かに魔物退治で俺がそれなりに役に立った事は認めましょう」
「亮は強情じゃのう」
呆れた様な楓ちゃんの視線から逃れる様に顔を逸らしながら俺はひとまず話を逸らそうと別の話題を考える。
何か、何か。無いだろうか。
「あー、そういえば、その魔物はヤマトでも倒されたと思うんですけど、何か残っている物は無いんですか?」
「無理矢理話を逸らしたよ」
「しょうがないよ。モモちゃん」
「いや、確か残っていなかったはずじゃの。時道の話では核を斬った後、全て光となって消えてしまったそうじゃ」
「なるほど」
「しかし、一つ良い話がある」
「良い話、ですか?」
「そう。例のモンスターはまだ一匹残っておるんじゃよ」
「なっ!」
俺は驚き、床に置いた刀を手に取りながら立ち上がろうとした。
しかしそんな俺を楓ちゃんは手で制する。
「そう慌てずとも良い。奴は酷く大人しい個体なんじゃ」
「大人しい個体、ですか」
「そう。最初はミラに懐いておったんじゃが、今ではセシル様に懐いておってな。どうやら聖女の力を持っている方が近くに居ると暴れないらしい」
「…なるほど」
「だから、無理に狩らんでも良いぞ」
「あ! そういう事なら、私とリンもその魔物を見ても良いですか!?」
「それは構わんが……」
「が?」
「魔物は霊刀山におるからな。行くなら明日行こうか」
「そうですね!」
楓ちゃんの言葉に、モモちゃんは元気よく頷き。
俺は一応、万が一の為に心の準備だけはしておくのだった。




