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異界冒険譚  作者: とーふ
第7章『ヤマトへ』
184/334

第184話『|道中の謎《リョウの影響》』

 ヤマトへ向かうべくセオストを出てから数日が経った。

 しかし、魔物は一切姿を見せず、警戒していた様な事態は何も起きなかったのである。

 俺たちは完全に整備された街の中を歩く様に、僅かにしか整備されていない街道を進みヤマトを目指し歩き続けているのだった。


「うーん」

「どうしたの? リョウさん」

「いや、魔物が出てこないなぁって思ってさ」

「良い事じゃ無いの? 平和な方がさ」

「それはそうなんだけど。ここまで何も起こらないと逆にね。不安になるというか」

「まぁ、分からなくはないけど、私は何となく理由が分かるけどなぁ」

「そうなの?」

「そりゃあ、ねぇ」


 モモちゃんは何かを言いたそうな顔をして、たき火の近くを見た。


 そこには今日の夜にと狩ってきた魔物の骨が転がっており、リリィちゃんが解体作業をしている。

 最近は、俺が狩りを行い、リリィちゃんが調理と解体を行うという様な流れになっているのだが。

 特になんて事はない普通の光景であった。


 まぁ、しいて言うなら、ここで解体している骨もココちゃんの元へ届けたくなるというくらいだが。

 まだヤマトへ向かう途中である。

 ここは抑えなくてはいけない。


 抑えろ……兄の心を抑えろ……。


「急にどうしたの……?」

「いや、こうムクムクと生まれた兄心を何とか抑えてた」

「何、その……え?」

「あまり気にしないでくれ。それで……さっきの話だけど」

「あぁ、ほら。リョウさんって、森に入ってそれほどしないで魔物を狩ってくるじゃない?」

「まぁ、そうだね」

「それってつまり、街道の近くに居た魔物を捕まえてるって事でしょ?」

「そうなるか。そうなるね」

「他にも同じような魔物が居たとしてさ。目の前でアッサリと自分と同じ様な魔物を倒した人に近づきたいって思う?」

「……まぁ、思わないかもしれないね」

「私はそれが全部の答えだと思うのよね」


 モモちゃんの言葉に俺は、話す言葉を失って、うーんと唸った。

 いや、何かこれだと俺がモンスターか何かみたいだけど。

 否定する材料が特に見つからないのだ。


 結果。

 うーんである。


「良いじゃないですか。リョウさんが強くて、魔物も襲ってこないって事ですよね?」

「いや、何か酷い化け物って言われているみたいで微妙な気持ちなんだ」

「え」

「え?」

「……え?」


 リンちゃんとモモちゃんの驚いた様な声に俺も疑問を返した。

 何ですかね。その化け物じゃ無かったの? とでもいう様な反応は。

 俺が化け物だったら、リリィちゃんだって化け物でしょうよ。


「そんな心外な。ね? リリィちゃん」

「え?」

「なんでそんなビックリみたいな反応なの。リリィちゃん」

「あ、いえ。私に話が飛んでくるとは思わず」

「そうよ。リョウさん。同じ冒険者でもリリィちゃんはリョウさんみたいに強くないんだから」

「はい。その通りです!」


 元気いっぱいにモモちゃんの言葉を肯定するリリィちゃんを見て、俺は叫びだしたい衝動に駆られた。

 リリィちゃんは強いのだ。

 少なくとも、セオストでリリィちゃんが絶対に勝てないだろうと思う人物はエドワルド・エルネストさんしかいない。


 ヴィルさんやアレクさんでも、絶対に勝てると言えないのがリリィちゃんだ。

 そんなリリィちゃんが普通の子扱いで、俺が化け物扱いとは……!

 言えない事情があるとは言え、悲しい事であった。


 俺も人間になりたいなぁ。

 いや、まだなれる!


 そうだ。モモちゃんの言葉が間違っていた事を証明すれば良いのだ。

 このままヤマトまで歩き続ける途中に魔物からの襲撃を受ければ、俺が化け物では無かった事の証明になる。


 それから。

 俺は、依頼に対してどうなんだ。と自分でツッコミを入れながらも、何か魔物が襲ってこないか? と期待し旅を続けた。

 しかし、結局魔物に襲撃されないまま俺たちはヤマトにたどり着いてしまうのだった。


 無念である。

 いや、まぁ。全員が無事にたどり着けたのだから良いのだけれど。

 と俺は複雑な気持ちを抱えながらヤマトの入り口となる門の人に入国申請書とセオストから来たという証明書。冒険者としての証明書を提示した。

 書類審査には少し時間がかかるという事で、俺は離れた場所で待っていると返そうとしたのだが。


「あー、小峰亮といったか」

「はい? 何か書類に問題でも?」

「いや、書類の事は文官が確認している。何かあればそちらから来るだろう」

「はぁ、なるほど?」

「俺は、この門を守護する侍の一人だ」

「はい」

「侍と侍。出会ったのならば、やることは一つだろう?」


 ニヤリと笑いながら腰に差した刀に手をかける男を見て、俺は頭に大きな疑問符を浮かべた。

 いや、戦う理由は無いだろう。別に。


「小峰亮。聞いた事のない名だが、立ち振る舞いを見ていれば分かる。お前……できるな?」

「いや、それほど大したものでも無いですよ」

「ふふ、口の上手い奴め……邪道ではあるが、それもまた戦いの一手。既に戦いは始まっているという事か」

「いや、別にそういうつもりで言った訳では無いので! 戦いは始めなくても良いですよ!」

「では、まず名乗りから始めようか! 我は! ヤマト北門の守護者、北条孝文(ほうじょう たかふみ)! 北条家が一人。神刀 陽炎(かげろう)型第十三刀『浜風(はまかぜ)』の使い手だ! 十二刀衆にはなれなかったが、それも家の定めがあったからこそだ。兄とさほど実力は変わらん! 心してかかられよ」


 ノリノリで名乗る北条孝文さんとやらは、腰の神刀を抜き、正面に構える。

 戦わないという選択肢はどうやら無いらしい。

 どれだけ戦いたい人なんだ。


 仕方ないか。


「俺は、小峰亮。小峰家の長男、で、えー。妹を守る者だ。刀の名は知らん」

「ほぅ。まだ神刀の銘は聞いていないのか。担い手としては選ばれている様だが……不思議な男だな」

「色々と普通じゃないんだ。すまないな。北条孝文」

「いや、構わないさ。つまりお前は自分の実力だけで戦うという事だろう? それもまた良し! では行くぞ! 小峰亮!」

「……来い!」


 本当は来てほしくないけれど、この状況では逃げる事も出来ないと、俺は神刀を正面に構えた。

 そして、飛び込んできた北条孝文の一撃を受け止める。


「流石! 刀の力を借りずに戦う男! この程度は容易いか!」

「っ!」

「続いてゆくぞ!」


 北条孝文は型どおりの綺麗な太刀筋で、俺に刃を振り下ろし続ける。

 型どおりという事は、それだけ完成されているという事だ。

 動きはどこまでも基本に忠実で、それでいて、積み上げられた強さがあった。


 隙が無い……!


「北条の刃は、常に変わらぬ強き刃だ。どの様な環境、時間、相手であろうと、我らの刀は変わらない!」

「……言うだけの事はある!」

「そして! ここから先が、北条ではなく、北条孝文の刃だ! 『浜風』!」


 北条孝文が神刀の銘を叫んだ瞬間、北条孝文が複数人に増えた。

 横に並び、一斉に刀を振り下ろしてくる。


「っ!? なに!?」

「これが浜風の力だ。白浜に吹き寄せる風のごとく、捉えられぬ刃がお前を襲う!」


 北条孝文の刃は確かにその言葉通り、風の様になって俺の全身を切り裂いた。

 致命傷ではない。

 致命傷となる物は全て弾いたからだ。


 しかし、全身に負った傷は多く、あまり長時間戦いが出来る状態では無くなった。

 やるなら、素早く決着をつけないといけない。


 だが、どうする。

 どうやって風を捕まえれば良いんだ……!?


「ふふ、流石だ。我らの一撃を受けてなお動けるとは」

「……!」

「しかし、それも一度が限界か……! では行くぞ! 浜風!」


 俺は神刀を握りしめたまま、襲い来る北条孝文と神刀浜風に意識を集中させるのだった。

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