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異界冒険譚  作者: とーふ
第7章『ヤマトへ』
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第181話『|いざヤマトへ《たびだち》』

 三日程続いたセオスト祭りは大盛況のまま終わり、俺たちの店も最初から最後まで大人気のまま駆け抜けたのだった。

 大変だったけれど、楽しい祭りであったと思う。

 まぁ、俺は大した役に立てなかった訳だが。


 しかし、落ち込んでいてもしょうがない。

 次の祭りまで技能を付けて今度こそ役に立てる様にしなくてはな。


 という訳で。

 俺は前から話しだけで止まっていた依頼を正式に受けて、ヤマトへと向かう事になったのである。


「お待たせしました。こちら、セオストの通行証と、ヤマトの入国申請書です」

「ありがとうございます」

「ヤマトまでは一応道がありますが、魔物の定期駆除は行われておりませんので、道中はお気を付けください。なんて、リョウさんに言う事でもないかもしれませんが」

「いえいえ。油断は危険を誘いますからね。十分に気を付けていきますよ。ありがとうございます」

「はい。無事のご帰還を期待しております」


 俺は受付の方に軽く頭を下げてから家で待っているモモちゃんとリンちゃんの所へと向かった。


 家に着くと、二人は既に出かける準備を終えていたみたいで、すぐに出る事が出来るようだった。


「準備が良いね」

「まね。こういうのは思い切りが大事だからさ。準備はサクサクやる方が良いのよ」

「そっか」

「まぁ、この家は居心地が良かったし。このままズルズル居ちゃいそうだったっていうのもある」

「それは嬉しい話だね」


 俺は家が住みやすく、皆が安心していられる場所であれば良いと考えているし。

 実際に桜たちもそういう風に家を整えてくれている事は知っている。

 だからこうして、良い家だったと言って貰えると、嬉しくなってしまうのだ。


「じゃあ、またさ。機会があったら遊びに来てよ」

「うん。そうね。その時はまたお願いするわ。ね? リン」

「はい。その時はお願いします」

「楽しみに待っているよ」


 俺は二人に笑いかけて、準備が終わったというリリィちゃんと共にセオストの南部にある外壁の門へと向かった。

 そして、門で許可証を見せながら手続きをする。


「目的地はヤマトですね。はい。書類は問題ないです」

「ありがとうございます」

「既に冒険者組合の受付でお聞きの事かと思いますが、ヤマトまでの道は、他の地区と違い危険が多いですから気を付けてください」

「分かりました」

「特に、キャンプの場所は気を付けてください。大型の魔物が多く出る為、キャンプで休んでいたら、そのまま潰されてしまった。という様なお話もありますから」

「……それは怖いですね。キャンプ場所はよく考えておきます」


 俺は門の所にいた騎士さんにお礼を言ってからセオストから外の世界へと歩み出した。


 これから困難な旅が始まる――!


 という様な事もなく、俺たちはピクニック気分のまま街道をゆっくりと歩いていた。


「徒歩だと速さにもよりますが、数日かかるみたいだね」

「私たちだと目安の日数よりちょっと増えますから、のんびり行きましょう」

「そうねぇ。この辺りは他の地区よりも魔物が美味しいって聞くから、それも楽しみにしながらね」

「ガンバリマス!」

「まぁまぁ。あんまり固くならなくても大丈夫だよ。モモちゃんもリンちゃんも、多少の失敗で怒る子じゃないし」

「そうそう。それに植物関係ならいくらでも採れるからさ。味の調整はそっちでやればオッケーよ!」

「うん。調味料もいっぱい買えたし。大丈夫だと思います!」

「お二人とも……! ありがとうございます!」

「良いの良いの。私たちは確かに依頼人と冒険者の関係かもしれないけどさ。同じ家で暮らした家族みたいなモンだし。気にせず行きましょ」


 やはりというか。

 リンちゃんとモモちゃんは優しい言葉をリリィちゃんにかけてくれ、リリィちゃんも少しばかり緊張が解けた様だった。


 しかし、まぁ、緊張が解けたと言ってもまだ体はガチガチで、歩く姿もどこか頼りない。

 両手で魔術師用の杖を握りしめているが、視線は左右に忙しく動いていた。


「……ねぇ、リョウさん」

「何かな。まぁ聞きたい事は何となく分かるけど」

「いや、ほら。リリィちゃん。ヤマトまでの旅に付いてきて貰って大丈夫? すっごい緊張してるけど」

「まぁ、そうね。でも、リリィちゃんは俺よりも高ランクだから」

「ソレ。冒険者組合の人に聞いたけど、リョウさんがあえてランクを上げてないだけだって」

「その誤解は解いておきたいんだけど、あえて上げてないんじゃなくて、上げられないんだよ。まだまだ足りない物があってね」

「リョウさんに足りない物なんてあるの……?」

「そりゃあるよ。俺なんて神刀を振り回す事しか出来ない男だからね。まぁ……恥ずかしい話だけど一番足りないのは知識とかだったりするし」

「あー」


 納得だわ。とでも言いたそうにあー、と言葉を漏らすモモちゃんに俺は何とも言えない複雑な気持ちになる。

 いや、そうね? 頭が良さそうな場面は無かったからね。

 言いたい事は分かるけど、その反応はそれなりに傷つくからね?


「今の、あー、は変なあー、じゃないから。ほら! リョウさんって信じられないけど新人冒険者だもんね。知識がまだ無いのは当然じゃないかな!」

「フォローありがとう。モモちゃん」

「モモちゃんが申し訳ございません。リョウさん」

「いや、大丈夫だよ。当然と言えば当然の話だからさ。俺よりも年下の子で俺よりも高ランクの子なんて結構居るからね」

「そういえば」

「うん?」


 リンちゃんがジッと俺を見ながら言葉を落とした。

 聞きたかった事をようやく聞けるとでもいう様に。


「リョウさんは冒険者になる前は何をしてらっしゃったのですか?」

「ハイ、すとーぷ!」


 しかし、リンちゃんの言葉を遮ってモモちゃんが言葉を止めた。


「駄目だよ。リン。人の過去を詮索する様な事言っちゃ」

「あ! ご、ごめんなさい! リョウさん!」

「いやいや。気にしてないから大丈夫だよ。話せないなら話せないって言うしさ」


 俺はどこまで話したもんかなと思いながらも、一言ずつ話し始める。

 周囲を警戒しつつ、俺の話を気にしているリリィちゃんの緊張も解ければ良いなと考えながら。


「俺と桜はさ。まぁ、とある山に囲まれた田舎で育ってね」

「ココちゃんとか、ジーナちゃんも?」

「あー、いや。ココちゃんとジーナちゃんはセオストに来てからの家族なんだ。フィオナちゃんやリリィちゃんもね」

「そうなんだ」

「うん。そうなんだ。だから、前は桜と俺の二人暮らし」


 俺は前の世界を思い出しながら目を細め、遠くの山を見つめた。

 こうして見ていると、俺が住んでいた世界と、この辺りの場所はそれほど変わらない様な気もする。


「前に住んでいた場所は、それほど荒れた国じゃなくてさ。そこまで強くなる必要は無かったんだけど、そんな国でも自分を鍛えたいって人は結構居てね。そういう場所で修行していたんだ」

「それで英雄クラスと同じくらいまで強くなるって……リョウさん」

「やるからにはとことんやる、っていう気持ちで生きてるからさ。気がついたらね」


 どこか白けた様な目を向けてくるモモちゃんに言い訳しつつ、俺は話を逸らしてゆく。


「ま、まぁ。そのお陰で色々とセオストでも色々仕事が出来ている訳だしさ」

「別に否定はしてないですよ。リョウさん」

「そ、そうね」


 俺は焦りを感じつつも、話を続けた。


「まぁ、そんな訳でさ。俺は前に住んでた国では戦う訓練をしつつ、体の弱かった桜を支えてたって訳なんだ」

「えぇ!? 桜さ……んって、体が弱かったんですか!?」

「あぁ、そういえばリリィちゃんにも言ってなかったっけ。昔の桜はね。体がそれほど強く無かったんだよ」

「……」

「ただ、まぁ。こっちの世界に来たら元気になったから、環境の問題だったかもしれないんだけどね」

「環境の問題って、どんな過酷な環境で生きてたんですか?」

「きっとリョウさんの事だから山の頂上とか」

「えぇー!?」


 まぁまぁ好き放題言っているリンちゃんとモモちゃんに苦笑しつつ、俺はどこまで話したもんかと再び考えるのだった。

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