第176話『|カカオ《チョコ》の木』
モモちゃんといくつもの木で埋め尽くされた屋上を歩く。
木から伸びる枝が周囲を覆いつくしており、進むのが中々大変だが、そのまま奥へと進んでいった。
そして、細長い円形の木の実が出来ている場所にたどり着いた。
「この辺りはもう木の実が良い感じなので、このくらいの大きさになっていたら収穫をお願い出来ますか?」
「うん」
「取る時は、身を掴んでくるっと回していただければ、そこまで力を入れずに取れると思います」
「分かったよ」
俺とリリィちゃんはモモちゃんに案内された場所から順番に木の実を取り、モモちゃんに指定された場所に持って行く。
その場所ではココちゃん達が一生懸命に木の実を割って、中の白っぽい実を取り出していた。
「割るのも結構大変そうだね」
「そう、なんですよ! なので、こちらも実はお願いしたかったり……この辺りも色々とやる事があるので」
「分かった。じゃあ、ここも俺たちがやろうか」
俺はふむ、と頷きながら近くに置いてあったナタを取り、木の実にカッと刃を入れて割っていく。
一個目は慎重に。
二個目以降からは何となく掴んだ感覚で、サクサクと割っていった。
そして、木の実を割ったらココちゃんに渡して中身の処理をお願いした。
ココちゃんは俺から受け取った木の実の中身を別の器に移してゆく。
「じゃ、ココはリョウさん達にお願いしようか。私たちは次の作業をしに行こう」
「そうですね。では、リョウさん。ここはお願いします」
「お願いします」
モモちゃんはミクちゃんとリンちゃんを連れてさらに奥の方へと向かって歩いて行った。
俺はそんな三人を見送りながら、積み上げられた木の実を順に割っていく。
ココちゃんも先ほど同じく木の実の中身を抜き出してくれた。
「では、私は木の実を取ってきますね」
「うん。俺もある程度木の実を割り終わったら、そっちにまた行くよ」
「はい」
「じゃあ、ココちゃん。あんまり急がなくても良いけど、サクサクと作業しようか」
「うん。ココ、がんばる」
ココちゃんは大きく、うんと頷いて一生懸命に手を動かしていた。
そんなココちゃんを愛おしく思いながら、俺は作業を続けるのだった。
そして、ある程度木の実を砕いてから今度は木の実を取りに行く。
今度はリリィちゃんと範囲を分けて木の実を取ってから、ココちゃんが居る場所へと運んだ。
どうやら木の実は通常と違う速度で成長しているらしく、木の実を運んでいる段階で次々と成長していた。
という訳で、一度見た場所も何度か通りながら回収してゆく事になるのだった。
「モモちゃんの力は凄いな」
「そうですね。まさか、カカオの実がこんなに早く実をつけるなんて」
「カカオの実?」
「はい。この実からココアとかチョコレートというお菓子が出来るんですよ」
「へぇ。この実から出来るんだ」
俺は前の世界で食べた事のあるチョコレートを思い出しながら、ふむと頷いた。
しかし、ここで妙な事に気付く。
前の世界で食べたチョコレートは確か茶色であったが、木の実から出てきた物は白い果肉の様な物だった。
ホワイトチョコレートって事か?
実はホワイトチョコレートが普通のチョコレートで、俺が普通のチョコレートだと思っていた物が何かしら特殊な加工をされた物だったのか。
新しい発見にワクワクとしながらも、俺は木の実を集め続けた。
そして、ある程度集まってから、今度は木の実を真っ二つにする作業をし、また集めて……と作業を繰り返した。
結局、その日は作業を終わらせる事が出来ずに、俺たちは出来る所までの作業を終わらせて屋上を後にするのだった。
「リョウさん達が早く帰ってきて助かったよぉ。これで何とか間に合いそう」
「それは良かったよ。魔物狩りも終わったし、これからは植物の方を手伝えば良いかな」
「うーん。そうね。リョウさんには屋上をお願いしようかな。でも、リリィはこっちを手伝って欲しいかも」
「分かったよ」
「うん」
「あ。屋上組もちょっとメンバー分けしたいかな! リョウさんとココちゃんには木の実取りと中身抜きをお願いしたいんだけど。ジーナちゃんと、ミクとリンは中身の加工作業を手伝って欲しいかな。発酵から乾燥とか、色々やる事あるからさ」
「はぁーい」
「それは魔術や魔法で対応するという事で良いんですか?」
「うん。良いと思うよ。時間も無いし、サクサクとやろう。別に魔法でやったから品質が落ちるってワケでも無いしね」
「ま、そうですね。そもそも木を育てる段階から普通の方法ではありませんし」
と、俺たちは明日以降の作業日程を決めて祭りの日まで頑張ろうと誓うのだった。
そして、それから日々やれる事を繰り返し。
それとなくチョコレート作りの後半作業を見せてもらい、チョコレートはやはり茶色のチョコレートが本物であったと理解し。
いよいよ祭りの日の前々日になって、遂に祭りへの作業を殆ど終わらせる事が出来るのだった。
「いやー。数日だったけど、今日まで長かったね」
「そうだねぇ。でも、みんなのお陰で何とか形に出来たよ。ではー! 私たちが出す商品のお披露目といきましょう!」
「おー!」
皆に拍手され、現れたのはカップに入った茶色のチョコレートアイスであった。
自分の元へ持ってくると、カップからも僅かに冷気が伝わってくる。
とても美味しそうなアイスであった。
「……これは、凄いね」
「でしょ? 昔ね。スタンロイツ帝国で食べたんだけど、スタンロイツ帝国でしか売って無いからさ。セオストのお祭りで出したら喜ばれるんじゃないかって思ったんだよね」
「あぁ、そうか。氷臓を持っている魔物がスタンロイツにしか居ないからか」
「多分ね。それで、何となく覚えててさ。今回作ってみよう! って思った訳」
「良いと思うよ。思い出のアイスなんて素敵だね」
俺はフィオナちゃんと話しながら、既に周りの子達は食べているアイスを一口食べてみた。
既に遠い昔……という程ではないが、昔に食べた記憶のあるアイスと比べて見ると何となく味の奥行きが違う様に思う。
魔力とか、氷臓を使って作るからか。
もしくは、カカオの実が違うからか。
理由は分からないが、前の世界で食べた時よりもまろやかなで美味しい味であった。
「うん。良いね」
「ね! お兄ちゃん! ね!」
「あぁ。これなら凄く人気が出るんじゃないかな。少なくとも俺は並んででも食べたいね。フィオナちゃんは凄いな」
「そ、そうかな。えへへ」
フィオナちゃんは両手で頬を押さえながら嬉しそうに左右に揺れた。
そして、他のみんなも口々に良かったとフィオナちゃんに伝えていく。
フィオナちゃんは頬を赤く染めながら、コホンと咳ばらいをして、両手でチョコレートアイスを掲げた。
「では満場一致という事で、お祭りはこのチョコレートアイスでいきます!」
「「「おー!」」」
「なので、明日は一日、このアイスを量産する作業に入りたいと思います。全員が全員手伝って貰う必要はないと思いますが! よろしくお願いします!」
「あー。その件だけど、ちょっと良いかな」
「はい? なんでしょうか?」
「いや、俺は店の場所を取りに行くのと、実際の店を作る方の作業をさせて貰おうかなって。結構な争奪戦みたいだし。あんまり危ない事はさせたくないからね」
「あ! そ、そうね! 店ね! すっかり忘れていた!」
「フィオナちゃん~?」
「だ、大丈夫! リョウさんが覚えてたから! 全部問題なしでしょう! というワケで、後はリョウさんにお任せします!」
「あぁ。任せてよ。何をしてでも良い場所を取ってくるから」
「へ、平和的にね……?」
という訳で、俺は一番良い場所を確保するべく気合を入れるのだった。




