第17話『冒険者組合施設の|探索《けんがく》』
家の説明が全て終わり、俺は頭だけでは覚えきれない事は紙に書いて残しておこうと心に誓った。
いや、むしろ今の内に書いた方が良いか。
「オリビアさん。申し訳ございません。このまま冒険者組合の施設に行くと家の事を忘れそうなので、メモを残して行ってもいいですか?」
「えぇ。勿論構いませんよ」
俺は玄関に置いてあった鞄を部屋まで持ってきて、その中からノートと鉛筆を取り出す。
そして、各部屋にメモ書きを残し、とりあえず全ての部屋を把握するのだった。
それから俺は、ポケットに入るメモ帳に鉛筆を挟みポケットに入れて冒険者組合の施設へ向かうのだった。
先ほどと同じ扉から同じ組合の施設へ向かった俺たちは、順番に施設の中を紹介して貰う。
「えー。まずはこちらですね。先ほども来ましたが、訓練施設となります」
「運動器具が置いてあるんですね」
「はい。組合の方に来た要望で色々と開発してまして、実験的な道具もいくつかありますね」
俺は桜と共にオリビアさんの後ろに付いて歩きながら周囲を眺める。
動く足場の上で走り続けている人。
重そうな物を持ち上げている人。
台の上で細かい動きをひたすら繰り返している人。
様々な運動をしている人がおり、基本的には運動施設なのだという事が分かる。
かなりの人が居るが、施設自体がかなり広いため、そこまで息苦しくは感じなかった。
「こちらの訓練施設は、身体能力向上を目的としたフロアになっておりまして、器具をレンタルする場合にはあちらの受付にお声がけ下さい」
「はい」
「具体的な使用方法は実際に使用する際にご説明を聞いていただく形になりますが、軽く説明させていただきますね」
「お願いします」
「はい。まずですね。こちらの転移していただいてから受付に声を掛けていただき、レンタル用の運動器具を受け取ります。こちら受け渡される際には小型化している物が渡されますので、そちらを受け取ってから好きな場所で展開下さい」
俺は近くの運動器具を見ながらオリビアさんの説明に頷き、頭の中でイメージする。
「使い終わりましたら、再び小型化していただき受付に戻していただく様な形ですね。具体的な方法などは受付で伺っていただけますと幸いです」
「分かりました」
俺は笑顔のオリビアさんに頷き、そのまま運動エリアから上の階へと移動した。
階段を上がり、上の階に上ると巨大なガラスの壁が見える。
運動エリアの一個上の階にあったのは巨大なプールだった。
「ここは遊泳エリアになります。場所によって深さが変わりますので、注意書きをよく確認していただき、ご利用下さい」
「一番深い所だとどれくらい深いんでしょうか?」
「えー。確かリョウさんの身長の倍くらいですかね」
俺の身長が180くらいだから、360オーバー。最悪は4メートルくらいはあると思った方が良いな。
桜が近づかない様に気を付けないと。
「一番浅い所だとどれくらいなんでしょうか」
「私の膝くらいですね。お子様でも安心して泳げる様にとその深さになっております」
「そうですか。良かったな。桜」
「……私、子供じゃない」
「分かってるさ。でも泳ぎの練習はした事が無いだろう?」
「それは、そうだけど……」
「んー」
「サクラさん。可愛い水着も売ってますので、良ければ見て行って下さいね」
「っ、は、はい」
俺が少し桜への言葉で困っていると、笑顔でしゃがみ込んだオリビアさんが桜に語り掛けた。
その優しい声に桜は少し戸惑った様な顔をしていたが、俺の影に隠れながら頷く。
その姿が可愛くて、俺は抱き着いてくる桜の頭を撫でて、良かったなと言うのだった。
そして、プールの確認も終わり、俺達は更に上の階へと向かった。
プールの上にはいくつかの巨大な部屋があり、どうやらその中では影の様なモンスターと戦っている人が居る様だった。
「これは?」
「こちらは摸擬戦エリアですね。対人戦も出来ますし、魔物を指定すれば、その魔物と戦う事が出来ます。とは言っても魔物の姿を再現した人造の魔物にはなりますが」
「人造の魔物ですか?」
「はい。最新の魔導具により、集められた魔物のデータから生み出された摸擬戦用の魔物です。しかし、危険性はありません。あくまで魔力によって映し出された映像の様な存在ですから」
「なるほど。危険は無いのですか?」
「はい。部屋全体に聖女セシル様が生み出された魔術を使用しておりますから、怪我をした様に見えたり、痛みは感じますが、部屋から外に出れば全て幻の様に消えます」
「……凄い魔術なんですね」
「そうですね。聖女セシル様の存在によって冒険者組合も生まれましたし。素晴らしい方だと思っております」
おそらくはかなり重要な人物であると認識し、俺は聖女セシルについて後で調べようと心のメモ帳に書き記すのだった。
そして、摸擬戦エリアの中をチラチラと見ながらも更に上の階へ上がり、最上階である図書館へと俺たちはたどり着いた。
「こちらがセオスト最大の図書館になります。この建物にある施設は冒険者組合の建物でありながら一般の方も使用されますので、ご利用にはお気をつけをお願いします」
「はい」
「特にこちらの図書館は一般の方が置く足を踏み入れるエリアとなりますので、特に注意が必要ですね」
俺はオリビアさんの言葉を聞きながら周囲を見渡し、綺麗そうな服を着ている子供たちを見かけ、貴族も居るんだなと思ったのだが……。
どうやら見た事のある子も利用している様だった。
本を読みながらうんうんと唸っていた少女は俺達の姿を見つけると満面の笑みで立ち上がり、走ってくる。
「あ! お兄さん! と、ちっちゃな子! こんにちは!」
「あぁ、こんにちは」
「……」
「ほら、桜。挨拶されたらどうするんだっけ?」
「こんにちは」
消えそうな声で俺にしがみつきながら言葉を発する桜に、まだまだ人見知りが治らないなと思いながら、ソラちゃんに視線を向ける。
「ソラちゃんは図書館でお勉強かな」
「うん! お爺様みたいな立派な人になる為にシュギョー中なの!」
「そうか、偉いな」
俺は何となくいつもの流れでソラちゃんの頭を撫でてしまった。
撫でてからアッと気づいた。
桜は妹だから良いが、ソラちゃんはよその子な上に、貴族様である。
非常に面倒な事になる予感がした。
が、ソラちゃんが怒りを見せる様な事はなく、俺が手を離した後、両手を頭の上に乗せ、俺をジッと見つめるばかりだった。
「……えと」
「お兄さん。名前、なんて言うんだっけ」
「亮。小峰亮だよ」
「リョウさん、かぁ。なるほどね」
「えー、ソラちゃん?」
「じゃあねー! リョウお兄ちゃん!」
手を伸ばすも、ソラちゃんは既に先ほどまで座っていたテーブルに向かって走り、置いてあった本を持って走り去っていった。
俺は一人残されて、ゆっくりと手を下ろしながらオリビアさんを見る。
「……えと」
「あー、はい。そうですね。では図書館の利用方法をお話させていただきますね」
救いを求めた視線は、別の話題を始めるという形で拒絶され、背中は桜によってつねられていた。
どうにも出来ない孤独の中で、貴族に手を出した。というやらかしが、どういう形で帰ってくるうのか怯えながら俺は案内を最後まで聞くのだった。
既に食堂や冒険者組合のセオスト支部については知っているという事で、そのまま話は終わり、俺は桜と共に極大の疲労感の中、家に戻っていった。
何も無い事を祈りながら。
だが、事件は早速次の日の朝、玄関からやってきた。
「やっほー! 来ちゃった!」
満面の笑みで手を振るソラちゃんと共に。




