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異界冒険譚  作者: とーふ
第6章『冬開き』
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第169話『|新たなる家の支配者《さくら》』

 俺はリビングに集まった面々を前にして、なるべく明るい口調を心がけながら話し始めた。


「実は……今日の仕事で、冒険者組合からの依頼はほぼ終わりでね。それが終わったら次の依頼を受ける訳なんだけど」

「そっか。もうそんな時期なんだね」

「うん。だからまたちょっとセオストを離れる事になるんだ」

「あー」


 微妙な顔で桜が頷く。

 寂しそうでありつつ、自分を納得させようとする大人の顔だ。

 桜にそんな顔をさせてしまうのが申し訳なくなる。

 が、仕事は仕事だ。家の中に色々と用意したし、俺が居ないという事は気にせず遊んでもらえればと思う。


「まぁ、仕事が終わったらまた帰ってくるからさ」

「分かってるよ。ワガママなんかもう言わないから安心して」

「……桜」

「それにほら。やる事も色々出来たしさ。ね? ココちゃん」

「うん。お兄ちゃん帰ってくるまでに美味しいお野菜つくる!」

「と、まぁやることは色々ある訳ですよ。私も料理の勉強もっとしたいし。フィオナちゃんもさっきお兄ちゃんが持って帰って来た漬物に興味あるみたいだしさ」

「まぁ、珍味に触る機会は少ないからね。いっぱいあるし、色々試してみようかなって感じだよ」


 明るい話を展開する桜とココちゃんとフィオナちゃんに俺は安心したように息を吐いた。

 本当にありがたい話だ。


 と、俺はそのまま流れる様にジュースを飲んでいたジーナちゃんと真剣にこちらの話を聞いてくれていたミクちゃんへと視線を向ける。


「そういえば、ジーナちゃんはヤマト行くのはどうする?」

「んー? ジーナちゃんはあんまり興味無いかなー。むしろプールで遊びたいし」

「そっか。じゃあ家の事はお願いね」

「おまかせ!」


 ジーナちゃんは自信満々で自分の体を叩く。

 まぁ実際の所、ジーナちゃんが居れば桜たちが危機的状況に陥る事は無いだろうから、何よりも安心である。

 という訳で、俺としては何の文句も無いのだけれど、ジーナちゃんの隣に座っているミクちゃんは違ったようで。


「ちょっと、ジーナさん?」

「はいはい。ナンデスカー」

「何ですか! その態度は! 人の話を聞く時というのはもっとシッカリとですね!」

「おチビちゃんはいつもソレだねぇー」

「何ですか! その言い方は!」


「アハハ! ミクってばホントに変わらないね!」

「ちょ! モモ!?」

「え? おチビちゃんって、前からこんな感じなの?」

「そうだよー。昔っからね。シッカリしなさい! モモ! 人前に立つ時はー!」

「モモちゃん。駄目だよ。ミクちゃんのこと、悪く言っちゃ」

「良いのよ。こういう機会に分からせるべきだわ」


 モモちゃんは両手を上げて、怒っているぞーという様なポーズでミクちゃんのモノマネをする。

 それがミクちゃんの感情に火をつけて、怒りに繋げた。

 ミクちゃんはテーブルを叩くと、モモちゃんに向けて、怒りを向けた。


「モモ! 何ですか! その言い方は!」

「なによー! ホントの事でしょ?」

「ま、まぁまぁ。二人とも、喧嘩はよくないよ」

「リンは黙っていて下さい!」

「そうそう。リンは関係ないんだからさ」


 ジーナちゃんとミクちゃんが言い争っていたかと思えば、次はモモちゃんとミクちゃんが言い争いを始めてしまう。

 俺はどうしたモンかなと思いながらも、ひとまず二人が争い終わるまで待つ事にした。

 こういう争いは途中で止めても、結局苛立ちが溜まったままになるからね。

 我が家では争いごとは自然と落ち着くまで放置する方針である。


 まぁ、手が出始めたら止めるけれども。


「あー。桜」

「何を言いたいか、何となく察してるけど、何?」

「ジーナちゃんとミクちゃんが喧嘩になったら、手が出る前にそれとなく止めてくれると嬉しいかな」

「そんな事だろうと思った」

「悪いな」

「良いよ。たださ。折角だからもう今から私に任せて貰っても良い?」

「あぁ。お願いしようかな。ちょうど桜がどうするのか見てみたかったしな」

「うん。そうだね。まぁ私はお兄ちゃんみたいに甘くないからさ。ちょっとビックリしちゃうかもしれないけど」


 桜の呟きに、先ほどまで言い争っていたミクちゃんとモモちゃんがピタリと動きを止める。

 伺うように桜を見て、息をひそめていた。


 そんな二人に気付いているのか居ないのか。桜はニッコリと笑って続く言葉を口にする。


「私は、喧嘩の止め方なんて分からないんだ。それにどっちが悪いか。みたいな事も分からない。だから、喧嘩を始めたら二人とも外に追い出すかな」

「「え」」


 満面の笑みで告げた桜の言葉に、ミクちゃんとモモちゃんが動きを止める。

 ついでにジーナちゃんもジュースが入ったコップを持ったまま固まった。


「私はお兄ちゃんみたいに優しくないからさ。悪い子は外で反省させるよ。反省するまでご飯もお風呂も遊びもなしです」

「そ、そんなぁー!」

「さ、サクラさん……!」

「ひゃー、過激だねぇ」


 三者三様に怯えるジーナちゃん、ミクちゃん、モモちゃんに桜はフッと笑ってからピシャリと言い放った。

 ハッキリと強く叩きつける様に。


「泣き言を言うくらいなら、初めから喧嘩しなければよろしい。私はお兄ちゃんみたいに優しくないからね。厳しくいくよ」

「ひ、ひぃ」

「とは、言っても! ちょっとの口喧嘩くらいなら、許しましょう」

「お、おぉ……!」

「優しい……!」

「ふっ」


 ジーナちゃんとミクちゃんは、救いを見つけたとでもいう様に桜を見据える。

 そんな視線を受けながら桜は自信満々に笑うと、俺の方を見てウィンクをした。


 そんな桜の視線を受けて、俺は桜の意図を何となくだが悟った。

 おそらく、桜は先ほど言ったような罰を与えるつもりなど無いのだ。

 ただ、そう言って脅す事で、争いをなるべく起こさないようにと調整したのだろう。


 いや、それだけじゃないか。

 最初に厳しい条件を突きつける事で、緩やかになった条件が優しいと感じる様になったのだろう。

 何とも悪い考えだが、それで争いを止める事が出来るのなら良い事なのかもしれない。


「うん。じゃあとりあえず俺が居ない間は桜に任せても大丈夫そうだね」

「任せてよ。私がこの家の平和を守ってるからさ」

「あぁ」


 俺は桜の言葉に頷いて、よろしくと改めて言った。

 しかし、そんな俺にジーナちゃんとミクちゃんが縋る様な目を向けてくる。


「なるべく早く帰ってきてね。リョウ君!」

「急がなくても良いですが、急いでくれると嬉しかったりします!」

「ま、まぁ努力はするよ」


「くふふ。リョウさんの仕事が早く終わるかどうかは私次第だよ。ミク。ジーナさん」

「ぐっ! モモ!」

「モモちゃん!」

「あれー? 良いのかなぁ。この家で争いを起こすと~」


「はっ!」

「あっ!」

「……」


 ジーナちゃんとミクちゃんはハッとした顔になると、そのまま桜へと視線を向けた。

 そして、救いを求める様に俺へと視線を戻した。


「残念だけど、今この家で一番偉いのは桜だからね。俺にはどうする事も出来ないよ」

「そ、そんなぁ」

「さ、サクラちゃん……?」

「……私はさっき言ったよ。争いをするのなら、外へ出すよって」

「は、はい」

「わかりました……!」


 二人はすっかり力を失ってしまい、柔らかい椅子に沈み込みながら白旗を上げた。

 その様子に桜は満足したのか笑みを浮かべると、今回は許してあげると言うのだった。


「ありがたや……!」

「喧嘩はもう駄目だからね」

「わかりました!」

「はい! 気を付けます!」


 かくして我が家に平和が戻ってくるのだった。


「んー?」

「どうしたの? モモちゃん」

「いや、今気づいたんだけどさ。私とリンはリョウさんと一緒に行くから関係ないやって」

「そういえばそうだね」


 モモちゃんが小さく呟いた言葉でミクちゃんとジーナちゃんが反応するが、桜に見られていた為、反応出来ずに、グググと歯を噛みしめるのだった。

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