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異界冒険譚  作者: とーふ
第6章『冬開き』
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第168話『|内臓《いらないもの》の再利用』

 いよいよ終わりの時が迫ってきていた。

 何かと問われれば、セオストの付近にある森を切り開く依頼である。

 徐々に雪も消えて来ており、魔物の数も安定してきている。


 そして、冒険者たちで広げている範囲も非常に広くなってきており、安全地帯は冬になる前に俺が活動していた頃と同程度になりつつあった。

 という事は、やはり依頼が終わろうとしているという事に他ならないだろう。


「思っていたよりも早かったですね」

「まぁ、一度広げ始めると早いからな。それに今回は強力な護衛もいたからよ」

「去年もヴィルさんやアレクさんは居たんですから、大して変わらないでしょう」

「んなワケあるか。リョウが一人増えるだけで、守れる範囲がバカみたいに広がるんだぞ? 探索チームを広く展開出来るんだから、去年よりも楽だし、早いんだよ」

「なるほど……」

「まぁお陰で余裕が出来て俺たちとしては感謝しかないがな」

「そういうこった」

「それは良かったです」


 俺はペコリと二人に頭を下げて、終わりが近い依頼をこなす為に、今日も今日とて森を駆けまわるのだった。


 そして、依頼の終わりが近いという事は次の依頼がいよいよ始まるという事でもある。

 次なる依頼はモモちゃんとリンちゃんをヤマトへ無事送り届けるという物。

 つまりは、セオストを離れる依頼という事だ。


 その依頼が始まる前に、俺はまだセオストでやる事が残っている。

 そう。ココちゃんが欲しがっていた骨の収集である。


 という事で、森へ継続して向かう事にしたのだが、ヤマトへ向かう前に準備運動をしておきたいというリリィちゃんが同行してくれる事になった。

 何とも心強い事である。


「いや、悪いね」

「いいえ! こちらこそです! お邪魔をしない様に頑張ります!」

「まぁリリィちゃんが邪魔になるって事は無いだろうし、気楽にやろう。気楽にさ。気を抜いてね」

「は、はい……」


 気楽にと伝えたつもりだが、リリィちゃんは緊張したまま勢いよく頭を下げた。

 いや、セオストの森で出てくる魔物でリリィちゃんを害せる存在なんて居ないと思うのだが……。

 まぁ良いか。そういう事を伝えても余計に緊張するだけだろうしな。


「じゃあ、まぁ慎重にやるという事で」

「はい」


 俺は気合十分というリリィちゃんと森の中を進んでゆく

 なるべく奥に行かないと、リリィちゃんがサムライだという事がセオストにバレてしまうからな。

 気を付けないといけない。

 慎重に進むとしよう。


「と、まぁ、この辺りで良いか」

「はい」

「まぁもしセオストの誰かに見られても、リリィちゃんに刀を俺が教えていた。みたいに言えば良いだろ。サムライの才能がありそうだったからとか何とか適当な事言えば大丈夫だ……たぶん」

「申し訳ないです。そんな事まで気を遣っていただいて」

「良いんだよ。家族なんだから。ほら、リリィちゃんは俺の妹みたいな子なんだからさ。気にせず甘えてくれ」

「……はい」


 という訳で、俺とリリィちゃんで森の魔物狩りを始めたのだが……。

 まぁ分かってはいた事なんだけど、あまりにも余裕があった。

 だからと言って油断する事は無いのだけれど。

 それでも、気を張り詰め過ぎなくて良いのは非常に楽である。


「んー。良い感じに色々な種類の骨が集まって良いね」

「そうですね。肉も良い感じです」

「……そう言えば、内臓も何かに使えるんだっけか。とは言ってもどういう風に処理すれば良いか分からないけど」

「冒険者組合の近くにある解体屋さんなら、色々と用途を教えてもらえるとは思いますが……」

「用途かぁ……それ次第じゃあ持って帰っても良いかもね」


 俺は内臓を見ながらふむと考える。

 正直な所、血まみれだし、このまま持って帰るという訳にはいかないよな。

 しかし、洗って持って帰るというのも手間だし……悩ましい所である。


「例えば、リリィちゃんが思い付く物って何かある?」

「私が、ですか? 私が知っている物だと……内臓を使った料理とか、ですかね」

「そういう料理があるの?」

「あ! いや、そのまま食べるとかでは無いですよ!? 塩で漬けたりして、保存食みたいにしたりして、味を整えて食べるんです! だから、その、野蛮な食べ物という訳では無くてですね!」

「だ、大丈夫だよ。分かってるから。そんなに慌てないで」

「は、はい……!」


 酷くあわあわしていたリリィちゃんは、何度か落ち着いて、と繰り返し言う事で落ち着いた様だった。

 そして落ち着いたリリィちゃんと再び話をする。


「その、内臓の料理はどういう感じなのかな……あー、えっと、美味しいのかな?」

「美味しいかと言われるとちょっと答えに困ってしまいますね。いわゆる珍味と呼ばれる部類でして」

「あー、珍味かぁ」

「そうですね」

「珍味って珍味って感じだからなぁ。それは悩ましいねぇ」


 俺は内臓を見ながらうーんと唸りながら考えてしまう。

 持って帰るべきか、止めるべきか。

 判断が非常に難しい。


 正直な所、珍味は子供が食べられる味かどうかすら分からないしなぁ。


「んー。リリィちゃんの中で、今ここにある内臓で一番、子供でも食べられそうなのは……ある?」

「この中ですと……このジャイアントベアーの物ですかね。一通り調理方法は分かりますし、味も、一般向けと言いますか。子供でも十分に食べられる味ですね」

「なるほど。ちなみに、リリィちゃんやフィオナちゃんは調理できる……?」

「はい。前にやった事があるので、出来ますね」


 リリィちゃんの返事に俺は、うんと大きく頷いた。

 調理が出来るのであれば、持って帰ってみようじゃないか。


「よし。じゃあ今回取れた分は持って帰ってみようか。俺も食べてみたいし。美味しいならみんなで食べたいしね」

「そうですね。では今から簡易的な保存をしましょうか。持ち帰る前に血抜きとかもしないと、途中で悪くなってしまうので」

「わかった。じゃあその辺りは教わりながらだけど、徹底的にやろうか」


 俺はリリィちゃんに聞きながら近くの泉で内臓を綺麗に洗い、そして艦居的な保存をしてセオストに持って帰る事にした。

 解体屋さんで一応話を聞いたが、内臓は色々と扱いが難しいらしく、わざわざ内臓を抜いて持って帰ってくる様な冒険者は居ないらしい。

 大抵の冒険者は現地で土に埋めて、森に返すんだそうだ。


 まぁ、値段もあまり高くないから、というのも理由の一つだろう。

 しょうがないというか。当然といえば当然という所だろうか。


 という訳で、あまり人気もなく、金にもならないが、市場にはあまり出回っていないジャイアントベアーの内臓を俺たちは持ち帰る事になった。

 骨はココちゃんへ。

 肉はフィオナちゃんへ。


 そして内臓はリリィちゃんと共に塩漬けを行うべく、地下へと向かう。


「やり方はそこまで難しくないですが……手順を間違えると味が落ちてしまうので、慎重にお願いします」

「あぁ」


 何とかリリィちゃんに聞きながら塩漬けを行う事に成功し、俺は漬物が詰まったバケツを地下室の奥深くに封印するのだった。

 リリィちゃんの話では、食べられるようになるまで三ヵ月以上はかかるという事なので、まぁ食べるのはヤマトから帰ってきてからだな。

 もし、俺たちが遅い場合はフィオナちゃんが代わりに見てくれるそうなので、俺は安心してフィオナちゃんに漬物を託すのだった。


 そして、俺は心残りも全て終わったと、リビングで皆に話しかけるのだった。

 いよいよ今の依頼が終わり、次の依頼が始まるという話をする為に。


 だいぶ長い間、セオストでゆっくりとしていたが、そろそろ旅立ちの時が迫ってきているのだった。

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