第162話『新しい家の中の|探検《かくにん》』
屋上に作られた広大な農地を見て、俺は圧倒されてしまったワケだが。
どうやらココちゃんも俺と同じ様に圧倒されてしまっているらしい。
まぁ、当然と言えば当然な話ではあるのだけれども。
「どう? ココちゃん」
「……わかんない」
「んー。俺もよく分からないんだよなぁ。これで良いのか。悪いのか」
「じゃあどうする? これでやってみて、色々不満があればまた呼んでくれても良いけどよ?」
「そう何回もお呼びするのは申し訳ないですし、中途半端というのは俺も気になってしまいますしね……ふーむ。どうするべきか」
俺は腕を組んで悩みながら、ひとまず分からないなりに、これで完了とするか。
もしくは、数日待って貰ってから返事をするか、どちらにするか考えていた。
しかし、ハッとした顔のココちゃんが一つの案を出してくれた事で事態は良い方向へと転がってゆく。
「モモちゃん、せんせいに……見て貰いたい」
「あー。その手があったか」
「……うん。だめかな」
「いや、良いと思うよ。モモちゃんに聞いてみよう。後、モモちゃん以外にも、一階でのんびりしている子が居たら連れてきて貰えるかな?」
「わかった!」
俺は、言うや否や勢いよく走り出したココちゃんに、簡易転移装置を使って! と背中に声をかけて小さく息を吐く。
どうやら聞こえなかったようだ。
それだけ気持ちが前に向かっていたという事だろうか。
まぁ、楽しんでいるのなら良いかと俺はココちゃんが戻ってくるまで職人さんに色々と細かい話を確認するのだった。
それから。
さほど時間はかからずに、屋上に作られた物置小屋の簡易転移装置が動き、ココちゃんがモモちゃんを連れて戻ってきた。
肩で息をしているココちゃんはだいぶ疲れている様に見えるが、表情は明るい物であり、輝かしい笑顔であった。
「せんせい! ここ!」
「あらー。すっごい大きい家庭菜園が出来たのねぇ。家庭菜園、っていう規模には見えないけど」
「まぁ、大きくて困ることは無いだろうからさ。そこはまぁあんまり気にしないでよ」
「ま。それもそうね。じゃあ大切な生徒ちゃんにお願いされてるし。ここの畑で大丈夫か確認しましょうか」
モモちゃんはそう言うと、土の確認やら、水の確認やら場所、作業空間など様々な物を確認し始めた。
その目はとても鋭く、どの様な細かい問題も見逃さない。という強さを持っていた。
だが、そんなモモちゃんの厳しいチェックもすぐに終わり、モモちゃんは笑顔で良いんじゃない? と口にした。
「まぁー正直なところ、気になる所はいくつかあるけどね。それでも、ココちゃんが家庭菜園を始めるっていう話なら気にならない話よ」
「それは、将来的には何か改善しないといけない事があるっていう事?」
「改善。っていうと微妙なのよね。これはあくまで、『私が気になる点』ってだけだからさ。ココちゃんが気になるかどうかは、また別の話なのよ」
「あー、なるほど。何となく理解したよ」
俺はモモちゃんの言葉に大きく納得し、最後に一応ココちゃんに確認をして、問題ないという回答を受け取った。
そして、職人さんに仕事の礼と、桜たちが作ってくれていたご飯やお菓子を渡して、最後に残っていた料金も渡すのだった。
「じゃあこれで全部だな。いや、何か悪かったな。色々オマケで貰っちまって」
「いえいえ。気にしないで下さい。こちらとしても助かりました」
「そう言って貰えると嬉しいよ。じゃあ、また何かあったら連絡くれや。兄ちゃんは払いが良いからな。呼んでくれればすぐに飛んでくるぜ」
「ではまた何かありましたらお願いしますね」
「おう。じゃ、またなー。最後に俺らをセキュリティから追い出すのを忘れんなよ。トラブルはごめんだぞ」
「すぐにやっておきますよ」
それから俺は、職人さん達が全員出て行ったのを確認して、玄関の設定を変更した。
いつも通り、家族以外は弾くような設定だ。
「よし。これで全部終わりだな」
「あ、終わった?」
「あぁ。これで家の改装計画は終了だよ」
「じゃあ、家の中案内してよー! 私たちなーんにも知らないからさ」
「そうだね。じゃあ家の中の探検ツアーでもやろうか」
「わーい!」
喜ぶ桜と、その後ろでこちらを伺っているフィオナちゃんやリリィちゃん。
ジーナちゃんやミクちゃん、リンちゃん、モモちゃんを連れて、俺とココちゃんは順番に家の中を案内してゆくのだった。
最初は三階だが、ここはまぁ正直話すような事もそこまで多くないし、サクッと現状を伝えていくだけだ。
部屋が増えたという事で部屋を変えたりするのも良いかもしれない。なんて言っておく。
が、まぁ住み慣れた場所を離れる気がある人も居ない様で。
ここは特に何の意見もないまま上の階へと向かう事になった。
「おぉー!? すごーい!」
「これが家の中なのー!?」
そして四階は当然といえば当然だが、皆、大興奮であった。
まぁ家の中に本格的な運動器具が置いてあれば驚きもするだろう。
俺も最初に見た時は驚いた。
その後にやってきた衝撃が大きすぎて、まぁ今となってはという気持ちではあるが。
「もう完全にお兄ちゃんの趣味の部屋って感じだね」
「別に桜たちが使っても良いんだぞ」
「はいはい。分かった分かった」
「運動すると健康に良いんだぞ。桜」
「分かってるよ。その内ね。そのうちやるから」
桜は心底興味がないという様な顔で俺の提案を手で払い捨てた。
何とも悲しい事であるが、強要するのも悪いからな。
それに、だ。
「桜がそういう風にいう事は、既に想定済みだよ」
「む? どういう事?」
「俺だってバカじゃない。楽しく運動出来る場所くらい作ってるって事さ」
「何か、悪い事を考えているね!? お兄ちゃん!」
空気を察したのか。桜が俺の気持ちに合わせて、言葉を合わせてくれる。
まぁ、ごっこ遊びの様な物だが……ジーナちゃんなどは俺たちの会話を楽しんでいる様だった。
「ねぇねぇ! リョウ君! 何があるの!? 何があるの!?」
「それは、見てからのお楽しみ! という奴だね!」
俺は自信満々に頷き、そして既に何人かは気づいている運動部屋の奥にある厚い壁の向こうへと歩き始めた。
壁の端にある扉の前に行き、その扉を開いて、皆をプール部屋の中へ案内する。
「ここが! その楽しい運動部屋だー!」
開かれた扉の向こうへ、桜たちは順番に入ってゆき、向こうで驚きの声を上げた。
いや、それだけじゃない。
どこか喜んでいる様な雰囲気もあった。
依頼しておいて良かった!
本当に良かった!
既に俺は大満足だ!
「お、お兄ちゃん!? なにこれ!? すっごい大きいんだけど!」
「そうだろう。そうだろう。お兄ちゃんもびっくりした」
「あ、そうなんだ」
俺の言葉に冷静さを取り戻した桜は、先ほどよりも落ち着いた様子で、周囲をゆっくりと見渡した。
泳ぎを練習する用のプール。
子供用のプール。
流れるプールと色々用意しておいたのだ。
どれでも好きなプールで遊んでもらいたいと思う。
「あー、でもあれだね。前にお兄ちゃんが言ってた。波のプールは無いんだね」
「まぁーセオストには海が無いからなぁ。説明が難しいんだよ」
「そっかー。確かに」
「まぁ上手く説明する方法を思いついたら、改めて設置工事を頼もうかなって」
「そうだねぇ。波プール。私も遊んでみたいし」
「これは、頑張って説明の方法を考えないとな」
「ふふ。頑張ってくださーい」
桜からの応援を受けて、俺は次なる工事について早くも考え始めるのだった。
しかし、現状として、既にみんなプールには興味津々なようで。
今回の改装は大成功だったなと、大きな喜びを感じるのだった。




