表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界冒険譚  作者: とーふ
第1章『はじまり』
16/331

第16話『新しく帰る|場所《いえ》4』

 地下の保管庫から、再び不思議な文様に触れる事で調理室に戻って来た俺と桜は自分の手足を確認し、異常が無いか調べる。

 そんな姿を苦笑しながら見ていたオリビアさんは次なる部屋に案内すると言って、調理室を後にするのだった。


 そして向かったのは廊下の更に先、一番奥の部屋だ。

 しかし、その廊下の奥にある扉が繋がっている場所は裏庭以外には無いだろう。

 外から見えた広さと廊下の長さを考えればそれ以外にはあり得ない。


 が、しかし。

 オリビアさんが操作をして開いた扉の向こうには非常に広い空間が広がっていた。


「……え? ここは」

「はい。ここは冒険者専用の訓練施設になります」

「冒険者専用の訓練施設?」


 オリビアさんの言葉をオウム返しに繰り返しながら、俺は視線を大きく全体に向けた。

 そこにはおそらく運動の為に使うと思われる器具や、その上で走ったり、その器具を持ち上げたりしている人たちがいる。


「混乱されていると思いますので、一から説明させていただきます」

「は、はい」

「ここはリョウさんやサクラさんの家にある固定転移扉から直接繋がっている冒険者専用の訓練施設になります。主な目的としては体を鍛えたり、冒険者同士の交流を行う事ですね」

「なるほど」


 俺は頷きながら扉から一歩、その訓練施設へと足を踏み入れ、桜と共に遠くまで広がる施設を見据える。

 とんでもない大きさだ。

 前に通っていた学校の校庭と同じくらい広いだろうか。いや、もっと大きいな。

 反対側の奥がほぼ見えない。


「そして、この場所に来る為には先ほどの扉から入る必要があります」

「帰る時はどうすれば良いんですか?」

「いくつかこの扉と同じ様な扉があります。そちらの扉に触れば自分の家に繋がりますので、そのまま開いて帰宅する事が出来ます」


 俺はオリビアさんの言葉を聞きながら周囲を見渡して、頷きまたオリビアさんの声が聞こえてそちらへ向き直る。


「そして、訓練施設へ来る際ですが、自宅の扉に付いているボタンを押していただければ、訓練施設のどの場所へ繋げるか選ぶ事が出来ますので、利用したい施設の場所へ向かう事が出来ます」

「……理解しました」

「はい。では、こちらの施設はまた後程ご案内するという事で、まだ残っております二階のご案内をさせて下さい」

「分かりました」


 もはや決まった言葉しか返せなかった俺は桜と共に再び自宅へ戻り、オリビアさんの案内通り二階へと向かうのだった。

 しかし、ここで俺は妙な事に気づく。


 そう。今まで案内されたどの場所を見ても階段など存在していなかったからだ。

 だが、まぁ、地下へ行く方法が転移という方法だったのだから、きっと二階へ行くのも同じ方法なのだろう。


 なんてそんな事を考えていたら、やはりその考えは正しかったらしく、廊下に触れながら二階へ行きたいと念じれば行けるとの事で、俺と桜は二階へ転移するのだった。


 二階に到着した俺はとりあえず何が飛び出しても大丈夫なように警戒をしていたのだが、見ている限り特に違和感の無い普通の廊下である。


「では、ここから二階の説明をさせていただきますね」

「……お願いします」

「まず二階ですが、こちらは基本的に寝室がメインとなります。奥から四つの部屋が家に住まう方用の寝室。そして手前の二つがお客様用の寝室ですね」

「なるほど」

「それぞれ内部が微妙に違っておりまして、まずはお客様用の寝室からご説明しましょうか」


 オリビアさんはそう言いながらすぐ目の前にある扉を開き、それなりに大きな部屋の中に入る。

 部屋の中には大きなベッドが2つと、ベッドの間にある窓。

 そして洋服掛けに、長椅子が二つとその間にテーブルが置かれていた。


 掃討に大きい。

 いや、大きいなんて物じゃないくらい大きい。

 やっぱり家のサイズがおかしいのか。この部屋だけで1家族住めそうだ。


「とりあえず、1パーティーが住めるだけの広さがあり、またこちらにですね……」

「これはシャワーですか?」

「はい。この部屋の中だけで完結する様になっています。調理は出来ませんが、外から持ち込んでもらう様な形ですね」

「なるほど」

「そして、反対側の部屋も同じ様な造りになっております。次にお二人の寝室についてご説明させていただきます」


 流石にこれ以上は何も出てこないだろうと俺は少しばかり落ち着いた心で手前の客間を出て奥の寝室へ向かった。

 予想通りというか。

 逆に想定外というか。奥にある寝室には特に目新しい物もなく、客間よりも小さな部屋があった。

 まぁベッドは一人で寝るには大きすぎるサイズであり、三人くらいは余裕で眠れそうだったが。


「えー、こちらがクローゼット、そしてこちらが洋服棚、とまぁ大体必要な物は揃っていますね」

「えっと、申し訳ございません。オリビアさん。服を洗ったりするのはどこで行えば……風呂場でしょうか」

「いえいえ。洋服は、こちらの籠に入れていただければ、そのまま清浄化の魔術で綺麗にし、自動的にクローゼットか洋服棚に戻ります」

「ふむ。承知いたしました」


 毎度の事だが、便利なモンだ。魔術っていう奴は。

 しかし、これで終わりかと俺は何気なく窓に近づいて奇妙な事に気づいた。

 外の景色がおかしいのである。


「あれ? 外が見えない? いや、見えないというよりは知らない場所の風景になってる?」

「はい。他の方の生活を見たく無い。他の方に生活を見られたくない。という意見から生まれた魔導具ですね。記憶の中にある景色を投影する事が出来ます。映像の設定用の時計と連動していますので、夜になれば夜の映像が、昼になれば昼の映像が流れます」

「なるほど」

「ですので、時計を調整すれば昼と夜を逆にすることも出来ますし。時計を止めれば夜で固定する事も出来ます」


 昼夜逆転した時とかに使えそうな気もするが、ここだけ逆転させても外は普通に時間が流れているワケだからな。

 外に出た瞬間頭が混乱しそうだし。変な使い方はしない方が良いだろう。

 なんでも出来て便利そうな物ほど、扱い方を間違えると危ないというしな。


「ちなみに、声とかも外には届かない。とかだったりしますか?」

「はい。声も遮断されている為、家の敷地より外には届きません」

「それは……何かこう、緊急事態が起きた時はどうすれば良いのでしょうか。病気とか」

「そういう場合は、ですね。敷地のどこでも良いのですが、助けを求めたり、誰か―の様な形で誰かを呼ぶようにすると、騎士団の方に連絡が行く様になってまして、騎士さんが家に来る様になります」

「それは……便利ですね」

「ただし、家の中に入る為には許可が要りますので、騎士さんの通行許可は出しておいてください。まぁ、もし意識を失って命の危機という様な状況であれば精霊の方が気を利かせるとは思いますので、あまり深く考えなくても良いとは思います」

「なるほど。ありがとうございます」


 便利だな。精霊。

 精霊が敵になった場合が危ない気もするが、そういう心配は多分無いんだろうな。

 この世界の人は精霊とずっと長く生きてきて、精霊を信頼している。

 それはきっと精霊が彼らを裏切らず、彼らもまた精霊を裏切らなかったからだろう。


 ならば、俺達もその心に従うだけだ。


「そして、最後にベッドについてのご説明ですね」


 オリビアさんはそう言いながらベッドの掛け布団をどかし、更に敷布団もどかした。

 そして下から現れたのは謎の水の塊。


「これは水の塊を魔術で固定している物です。触っていただければ分かると思いますが、独特の柔らかさがあり、横になった時、体に無理が無い形で眠る事が出来ます」

「……なるほど」


 もはや何も考えるまいと思いながら俺は布団を戻し、オリビアさんへ視線を向けるのだった。


「こちらで家の説明は以上となります。何かご質問はございますか?」

「いえ、大丈夫です」

「承知いたしました。では、何か疑問な事がありましたら冒険者組合の受付まで」

「はい。ありがとうございます」


 俺はようやく終わったと一息吐いたのだが……驚きのツアーはまだまだ続く様であった。


「では改めまして、冒険者組合の施設のご紹介へと移らせていただきますね」

「……はい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ