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異界冒険譚  作者: とーふ
第6章『冬開き』
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第159話『|依頼主《ふたり》をご案内』

 モモちゃんとリンちゃんを連れて、自宅へ帰った俺であったが、帰宅した俺に向けられた目は冒険者組合の建物で向けられた目とさほど変わらない物であった。

 特に桜からの目が痛い。


「またお兄ちゃんが女の子を連れ込んでる……!」

「桜! もうちょっと言い方があるだろう!?」

「でも事実じゃない」

「いや、それはそうかもしれないんだけど……! 人が聞いたら誤解するだろう……!」

「フーン。ま、良いけどね」


 桜はジト目で俺を見た後、俺の後ろに居たモモちゃんとリンちゃんに視線を向ける。

 まさか争いが始まるんじゃないだろうな。という俺の不安はただの不安で終わり、桜は軽く笑みを作って二人に話しかけた。


「初めまして。お二人はお兄ちゃんの依頼主さんで合ってますか?」

「えぇ、あってますよ。リョウさんの妹さん」

「桜です。では、ヤマトへの護衛の件ですかね」

「そうなりますね。あ、私はモモ、こっちはリンと言います」

「これは丁寧にありがとうございます。モモさんにリンさんですね」


 桜は丁寧な言葉遣いを続け、モモちゃんも似た様な雰囲気で会話を続ける。

 表面上穏やかなやり取りは、何故か、酷く寒々しいモノだった。


「ところで……」

「なんで私たちがここに来たの? って話でしょ? まどろっこしいやり取りはやめようよ。サクラ……ちゃん」

「……まぁ、良いですけど。じゃ、何でですか?」

「いやー、私たち実はセオストに今日来たんだけど、宿が全滅でね。でも、ヤマトまでの道はまだ雪で通れないからさ」

「なら、冒険者組合の建物もありますよ。空き部屋なんていくらでもあるでしょうし」

「残念だけど、泊まるなら安心出来る場所が良いんだ。ほら、誰が入ってくるか分からない場所なんて嫌でしょ?」

「そういう事情なら食堂を紹介しましょうか? あそこは関係者以外入れない場所なんで」

「食堂は寝る場所じゃないでしょ?」

「寝袋でも買ってくればどこでも寝る場所になりますよ。どうせヤマトに行く時に経験するんですから、早い方が良いのでは?」

「……」

「……」


「リョウさん!」

「お兄ちゃん!?」

「は、はい!」


 桜とモモちゃんが同時に俺の名を呼び、二人の争いをただ見ていた俺は、ハッとなり応えた。

 そして、二人の視線を受けながら状況を説明する。


「えー、とだね。最初から説明すると、まだ組合の依頼が残ってたりとか、雪でヤマトに行けなかったりとかで、モモちゃんとリンちゃんがセオストに居なきゃいけないんだよ。でも泊まる場所が無くて、ミクちゃんが住んでいる所をちょっと紹介して欲しいと言われてな」

「そこでウチだから無理って断れば良かったじゃない」

「いやいや。依頼主だし、こんな小さな子にそんな酷い事出来ないだろ。だからここに招待したんだよ」

「はぁー」

「相談しないでこんな事決めて悪かったよ」

「まぁ、良いけどさ。どうせこうなったんだろうし」

「悪かった。今度桜のお願い何でも聞くからさ」

「はいはい。お兄ちゃんに出来る範囲でねー。分かったよ。じゃあお部屋に案内しないとねー」


 桜は全部わかってますという様な意味を含ませた雰囲気で手をひらひらと振りながら、モモちゃんとリンちゃんをミクちゃんの部屋の隣に案内するのだった。

 俺は大きく息を吐いて、近くの椅子に座りココちゃん達にも悪かったねと謝る。


「まぁー私たちは別に気にしてないよ。サクラちゃんのアレも、演技みたいなモンでしょ」

「演技?」

「そ、どうせ話は泊める方に転がっちゃうけど、いつでも笑顔で泊める訳じゃないよ。ちゃんと事前に相談してよね? っていう感じの事を伝えたかったんじゃないかな」

「……なるほど。助かるよ。ジーナちゃん」

「いえいえ~。私もこの家に来てから長いからね。このくらいは簡単だよ」


 ジーナちゃんはクッションの上にうつ伏せで覆いかぶさる様にして乗りながら、器用に揺れていた。

 そして、ケラケラと笑いながらクッションの上で飛び跳ねて、落ちる。


「あだっ!」

「だいじょうぶ? ジーナちゃん」

「う、うん。大丈夫だよ。ジーナちゃんは無敵だからね」

「そっか、良かった」

「ま、まぁとにかくさ。サクラちゃんの事は心配しなくて良いから。リョウ君はお風呂にでも入ってきなよ」

「あぁ、まぁ。そうするか」

「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃい」

「うん。行ってくるよ」


 俺はジーナちゃんとココちゃんに手を振りながら二階へ上がり、着替えを持って下の階へと行こうとしていたのだが、ちょうどそこで廊下を歩く桜達と出くわした。

 会話している雰囲気は悪くない様に見える。


「あ、お兄ちゃん。これからお風呂?」

「あぁ。帰ってきたままの姿でウロウロしているのも汚いからね」

「フィオナちゃんたちも、そんなにしないで帰ってくるし、確かに今ささっと入っちゃった方が良いかもね」

「それは確かに。後が詰まっちゃうからね」


 なんて、話をしていたらモモちゃんからの視線を感じる。

 と、そういえば二人もお風呂にはまだ入って無いんだったか。


「お兄ちゃん」

「あ、あぁ。どうした?」

「二人の事は良いから。さっさと入ってきて。後が詰まってるって言ったでしょ」

「いや、しかし。二人もお風呂に入りたいんじゃないか?」

「ハァー。良いから。もうその辺りも話はついてるよ。ほら、早く行く」

「分かった、分かった」


 俺は桜から直接背中を押されてお風呂場へと向かうことにした。

 桜の後ろからは笑顔で手を振っているモモちゃんとリンちゃんが見えて、俺は何とも言えないまま風呂にサッと入る。

 今日はそこまで疲れていないし、さっさと入ってしまう方が良いだろう。


 という訳でさっさと入ってさっさと出てきたわけだが。

 どうやらフィオナちゃんとリリィちゃんはまだ帰ってきていないようだった。


「出たよ」

「あー、やっぱり早い」

「良いだろう? ちゃんと洗ってきたよ」

「そういう事じゃないの。ゆっくりしてきてね。って言ったでしょ」

「ゆっくりはしてきたよ」

「時間。全然経ってないんですけど?」

「女の子と違って、男の風呂は早いんだ」

「まったくもう! あぁ言えばこういう」

「それがお兄ちゃんだからね。っと、そろそろリビングに行こうかな」

「もー。逃げた」


 俺は桜との話を途中でやめて、リビングの中に足を踏み入れた。

 お説教を聞くのは良いが、廊下を占拠しているのも問題だしな。


 という訳でリビングに足を踏み入れたワケだが、中ではちょっと面白い光景が広がっていた。

 なんとココちゃんの隣でモモちゃんが本を指さしながら話をしていたのだ。


「そう。この野菜はね。水の量が大切なの。与えすぎちゃ駄目」

「そうなんだ」

「そうよ。例えば雨が降った後なんか、状況によっては水をあげないっていうのも大事よ。その辺りの見極めは、葉っぱとかを見ると分かるわ。端の方が変色してたら危険なサインね」

「へんしょく、きけん」

「普通の時は緑色ね。ほら。この本の絵と同じ感じ。あーいや、もうちょっと色が濃いかな。でも病気になって、苦しいよーって野菜が言ってる時は、茶色になるの」

「みどりが元気で、茶色が、元気ない」

「そうそう。そんな感じ。後は実際にやってみて感覚で覚えるしかないわね」

「はい! せんせい!」


 元気よく笑顔で手を挙げるココちゃんを見て、俺も思わずほっこりとした気持ちになった。

 とても可愛らしい姿だ。


「あれは?」

「うん。なんかモモさんが植物に詳しいって話で、ココちゃんの悩みを聞いてくれてるの」

「そりゃいいね」

「ホント。家に居る理由も出来たし。ココちゃんの事を見ててくれるのならいう事は無いわ」

「うんうんそうだねぇ」

「……ま。お兄ちゃんが何の相談も無しに女の子を連れてきた事は許して無いけど」

「さ、さくらぁー?」


 やはり機嫌の悪いままだった桜に許しを請いつつ、俺は穏やかな夜を過ごすのだった。

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