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異界冒険譚  作者: とーふ
第1章『はじまり』
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第15話『新しく帰る|場所《いえ》3』

 リビングについての話も終わり、俺と桜とオリビアさんはダイニングへと移動した。


「基本的には、そちらの調理場で作った物を、こちらのテーブルで食べる形ですね。ただ、人によってはテーブルで食べるのは落ち着かないと一部改造している方も居ます」

「なるほど」


 俺は巨大な木で出来ているテーブルを手で触りながら表面の処理が完璧である事に頷く。

 大きさは、おそらく十人は一緒に食べられるだろうか。

 かなり大きなテーブルだ。


 いや、まぁテーブルが部屋の大半を占めているのだからこんな物か。


 そして、ダイニングにあるカウンターから調理場の方を覗き込むと、調理器具と思われる物が多数置かれている事に気づいた。

 が、ガスコンロ等は無いように見える為、その辺りの確認は必要だろう。


 俺はとりあえず調理場に向かう事にした。


 ダイニングから調理場に向かうにはカウンターを横に避けて調理用の空間となっている場所に足を踏み入れるだけなのだが……。

 調理場に入って驚いた。


 カウンター用の大きな穴からダイニングと、先ほどまで居たリビングが見えるのだ。

 角度的には厳しいが、頑張れば映写機の映像だって見えるのでは無いだろうか……。いや流石に厳しいか。


「凄く開放的な空間ですね」

「はい。近年は、家族や仲間との時間や空間を大切にしたいと考える方が増えておりまして、この様な物件が流行っていますね。無論この空間を埋める事も可能ですが……」

「いえ。このままで良いです」


 俺は大きなテーブルと共にあった座り心地の良さそうな椅子に座り、こちらにニコニコと笑顔を向けている桜を見て、頷いた。

 このままが良い。

 俺の人生は桜と共にあるのだから。


「では、調理器具の話をさせていただきますね」

「はい。よろしくお願いします」

「まって! 私も聞く!」

「ん? それは良いけど、まだ料理は危ないんじゃないか?」

「大丈夫。食堂でも、覚えるから」

「そうか?」

「だって……お兄ちゃんに美味しい物食べてもらいたい、から」

「……そうか」


 俺は走って来た桜を受け止めて、オリビアさんと一緒に話を聞く事にした。

 オリビアさんは桜を穏やかな笑顔で見た後、嬉しそうな顔で調理器具の説明を始める。


 とは言っても、包丁や鍋なんかは向こうの世界とそれほど変わらないし、他の調理器具もそれほど変わらない様だ。

 まぁ、随所に魔術とやらが使われている所が違う所だろうか。


「では、火を使うにはこちらのボタンを押せば良いと」

「はい。それだけで基本的には魔導具側で火力は調整してくれます」

「便利ですねぇ、魔導具」

「そうですね。あ、でも、魔導具も魔力で動いている物ですから、使い続けると補充に対して使用の方が多くなってしまい、魔力不足になる事もありますので、お気を付けください」

「魔力不足になると、どうなるんですか?」

「この魔導具に関しては単純に火が付かなくなります」

「危険性とかは無いのでしょうか」

「うーん。魔導具は基本的に魔力で動いてますからね。魔力が無くなって暴走! みたいな事は無いと思いますよ」

「それは良かった」


 まぁ火は使い過ぎない様に気を付けようという話だな。

 いや、多分洗面台とかに使われている水も同じなんだろうけど。


「ちなみになんですが、食材を保管する様な場所はあるのでしょうか? 後ろの戸棚は皿やコップが入ってますし。場所が無い様な?」

「ふふふ」

「ん?」

「とてもよい質問ですね。リョウさん。では世界の常識を塗り替えた保管庫をお見せしましょう!」

「世界の常識を、塗り替えた?」

「はい。ではリョウさん。サクラさん。奥の壁にある模様を触っていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい」


 俺と桜は迷いなく壁まで向かうと、壁の模様に触れた。

 昔、本で読んだ魔法陣の様なそれに触れた瞬間、俺は見知らぬ場所に立っていた。

 すぐ隣を見ると桜が居て、特に怪我をしている様な様子もない。


「ここは……?」

「ここは、先ほど聞かれました食料の保管庫になります」


 俺が呟いた疑問に、すぐ近くに現れたオリビアさんが答えてくれる。

 が、イマイチその答えの意味は分からなかった。


「いや、食料の保管庫というか、謎の施設に来てしまった様な感じですが」


 俺は白で染められた冷たそうな壁を触りながらオリビアさんに問うた。

 触った感覚としては、コンクリートで作られた様な部屋の様に思えるが……部屋には何もなく、外に繋がる扉が一つあるだけだ。


「ふふ。そうですね。では、中に入ってみましょうか」

「中?」

「はい。そちらの扉を開けてみて下さい」


 オリビアさんの言葉に、俺は奥にある唯一の扉に手をかけて横にスライドした。

 そして、向こう側に踏み込んだ瞬間、肌を刺すような冷たさを感じすぐに身を引く。


「これは!」

「はい。その扉の向こう側は冬の世界となっております。様々な研究で野菜や肉、パンなど、どの温度で保存するのが適温なのかを調べ、それぞれ最適な温度で保管する事が出来る場所なのです」

「なるほど」


 俺は向こう側が冷たい世界だという事を改めて認識しながら、足を踏み出した。

 が、不思議な事に先ほどの様な冷たさは感じない。

 そして俺に続いて扉を超えた桜も寒さを感じては居ない様だった。


「これは?」

「おそらくですが、家の管理者とその方が許可された人という事で、冷気を感じない様に調整してくれたのだと思います」


 精霊のお陰かと頷きながら、俺は両側に広がる長い廊下を見て、広さを何となく調べる。

 が、どうやら見ただけで判断できる程度の大きさではなく、かなり広い場所の様だ。


「随分と広いんですね」

「はい。ここは家の地下となっておりまして、広さは家と同じくらいあります」

「家と同じくらい大きいのですか!」

「そうですね。セオストは冬になりますと、雪が積もり外に出る事が難しくなりますから、食料は多く保管しておかないといけないのです」

「冬ごもり用という事ですか」

「はい。その為、先ほど上でご紹介した映写機もそうですが、家の中で全てが揃うようになっているという訳です」

「……なるほど。では俺達も準備しないと駄目ですね」

「その方が良いと思います。おそらくは秋ごろに皆さんが大量に食料品を買う時期が来ると思いますので、その時にリョウさん達も買われるのが良いかと思います」

「分かりました」


 俺は頭の中のメモ帳に秋の大量購入を刻み込み、家の案内が終わったら予定を何処かに書き込んでおこうと心に決めるのだった。


 それから俺は桜やオリビアさんと一緒に各部屋を巡る。


「ここは野菜を保管する部屋ですね」

「ふむ」

「基本的に部屋の中には棚がありまして、棚の手前にありますこの模様ですね。こちらを触っていただく事で野菜が一つ調理場の流しに移動する様な形になります」

「わざわざ運ばなくても良いのは良いですね」

「その辺りはやはり利便性の問題がありましたからね」

「んー。しかし、ここに入れる際には持ってくる必要がある訳ですよね?」

「そちらも既に問題は解決しております」


 オリビアさんは笑顔で壁にあった手のひらサイズの石を持ってくると俺に手渡した。


「こちら各部屋にも付いているのですが、簡易転移装置となっておりまして、これを握って、食品をどの部屋に転移させるのかイメージすればお店から直接この部屋に運べます」

「それは凄い……ですけど、盗難とか大丈夫ですか?」

「あぁ、それは大丈夫ですよ。商品の置いてある場所は転移阻害されておりますから。普通の転移装置では転移出来ませんし。特殊な転移装置を持っている方は上位貴族の方かお金持ちの方だけですので」

「そもそも盗難なんてする必要が無い。という事ですね」

「はい」


 なんとまぁ便利な世界だ。

 俺は手の中にある模様が描かれた石を見ながら改めて思うのだった。

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