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異界冒険譚  作者: とーふ
第5章『新しい日々の始まり』
141/334

第141話『これからの|未来《ふたり》の話』

 秘密裏に侵入した国で食料を集める為に動いていた俺は、ジャイアントベアーに襲われていた少女たちを助けたのだが。

 どうやらその少女たちはミクちゃんの知り合い出会ったようで。

 最悪は少女たちを始末する事まで覚悟して、俺は少女たちをミクちゃんの元へ案内する事に決めたのだった。


 という訳で、俺はクマを背負いながら森の中を歩き、ミクちゃん達が待っている森の遺跡へと向かった。

 どうやらミクちゃんはまだ鍵を開ける事が出来ていないらしく、俺が狩りに出かけた時と同じくメモと扉を見比べながら唸っていた。


「戻りましたよ」

「あ! リョウさんですか!? いや、もうそろそろ開くので! もう少しばかり待っていていただけましたら……!」

「ミクちゃん!」

「ん? この声は……リン?」


 ミクちゃんの姿を見つけた少女が俺の後ろから駆け出し、ミクちゃんの名を叫ぶ。

 そして、その声に反応してミクちゃんも振り返った。


「リン! どうしてここに。それに、モモも」

「どうしてって言われても、色々と理由はあるけどね」

「ミクちゃんが無事でよかった……」

「無事って……いや、本当に何があったんですか?」


 ミクちゃんは首を傾げながら二人を受け入れ、二人は酷く安心した様な顔でミクちゃんに話しかけていた。

 そんな三人の姿を見て、リリィちゃんがそっとミクちゃんから離れて俺の所へ来る。


「どうしたんですか? あの人たちは」

「森で偶然会ってね」

「こんな森の奥で?」

「そう。ビックリだよね。しかもミクちゃんの知り合いだったとは……なんだか奇妙な偶然を感じるよ」

「偶然……」

「何か違和感がある?」

「あ、いえ……姫巫女様ならこういう事も予知する事が出来るのだろうと思って」

「……姫巫女様、か」


 俺はリリィちゃんの言葉に少しばかり考える。

 もし、仮にこの状況を誰かが仕掛けたとして、その存在は何を求めているのだろうか。

 ミクちゃんとそのお友達を二人呼び寄せて、どうすると特になる?


「……リリィちゃん」

「はい?」

「一応周りは気にしておこうか。この状況。もしかしたら誰かが仕掛けたものかもしれない」

「っ! なるほど」


 リリィちゃんはすぐに納得し、刀を構えたまま周囲へと意識を受け始めた。

 そして、俺もミクちゃん達を見ながら刀を握り、いつでも抜ける様に構えるのだった。


「ちょっとミク。あんた何やってるのよ」

「いや、秘匿された歴史を確認しようかと思いまして」

「ひとくされた歴史ぃ~?」

「そ、そうですけど。知らないですか?」

「知らないって訳じゃないけど。そういうのって、ただの噂でしょ?」

「そうじゃない場合もあるんだなぁ」

「ハイハイ。アンタってホント子供よね。そんな話、本気で信じてるの?」

「はぁー!? 何ですか! その言い方! モモだって、お気に入りのぬいぐるみ無かったら寝れないって言ってたくせに」

「はぃー!? 何百年前の話してんのよ!」

「へぇー。じゃあもう直ったんですねぇ。よかった。お・と・なになれてっ!」

「ちっ! ふっ、はっ! 怖がり泣き虫のミクちゃんに言われると思わなかったわ。それで? アンタの方はどうなの? もうオネショは我慢出来る様になったのかしら」

「いつの話をしてるんですかっ!」

「アンタが始めたんでしょ!」


 ギリギリと歯を食いしばりながら言い合う少女たちの間でしゃがみながらミクちゃんのメモを見ながら扉を見ていたマイペースな栗色の髪の少女は、どうやら鍵の開錠が少し進んだらしく嬉しそうな顔を上げた。

 しかし、その先には睨み合う二人の顔があり、少女は呆れた様な、どこか懐かしいモノを見る様な顔で笑った後、再び鍵の方へと向き直った。


「うーん。ここがー。こうでー。ここがー。こーう~」


 少女は歌う様に扉に触りながらメモをペラペラとめくり笑っている。

 順調なのか。順調ではないのか。

 それは遠く離れた場所からは分からないが、まぁ急ぐ話でも無いから良いかと俺は息を吐いた。


 そして、俺はまだ警戒しているリリィちゃんを呼び、夕食の準備でもしようかと話した。

 料理を作りながらでも警戒出来るし、こちらが警戒している時よりも、油断している様に見えている時の方が敵を誘いやすいからだ。


 という訳で、俺はリリィちゃんと共に食事の準備を始めるのだった。


「良いんですか?」

「あぁ。どの道、俺たちが警戒したままだと向こうも動かないだろうしね」

「……確かに、そうですね」

「という訳で、俺たちはひとまず警戒を解いたという体で、普通の冒険者らしく活動をしよう」

「……はい。そうですね。常に抜ける用にはしていますし。イザという時までは何も知らぬままでいましょう」


 あくまで料理の準備をしているだけだ。

 という様な動きをしながらリリィちゃんと話を続ける。

 流石というか、何というか、リリィちゃんも笑顔でクマの捌き方なんかを説明している様なポーズを取りつつ、俺の言葉に合わせてくれるのだった。


 しかも、話す時は口元が周囲から見えない様に顔を伏せたり、障害物で外から隠すなど徹底している。


「……」

「リョウさん?」

「あぁ、ごめん。ちょっとリリィちゃんの事、考えててさ」

「私の事、ですか?」

「そう。やっぱりリリィちゃんって、相当凄腕の冒険者なんだなぁーってさ」

「えっ! いや、私は、まだDランクで……リョウさんとは違いますよ」

「それを言うなら、俺はEランクだよ。知識だって足りないしね」

「それは、そうかもしれないですけど……」

「でも、だからこそ少し不思議でもあるんだよね。いや、納得は出来るんだけどさ」


 俺は狩りをしている間にリリィちゃんが拾って来てくれた小枝を集めて、火を付けながら、呟く。

 リリィちゃんは俺の話に集中しているのか、俺を見て動きを止めていた。


「リリィちゃんは、多分、冒険者がやりたいワケじゃなくて、フィオナちゃんと一緒にいる為に冒険者をやっているんじゃないかなって」

「……」

「まぁ、その理由は分からないけど、フィオナちゃんは良い子だからね。いくらでも理由はあるだろうさ」

「……やっぱり、おかしな事なのでしょうか」

「別におかしな事は無いと思うよ。何を目的にして、何を求めて生きていくか、なんてその人の自由なんだからさ」

「……はい」

「だから、リリィちゃんがフィオナちゃんと共に居る為に、今のままで居るのも良いと思う。でも」

「でも?」

「いつか、フィオナちゃんがリリィちゃんの実力に気づいた時の為に、言い訳は用意しておいた方が良いかもね」

「……やっぱり、フィオナは怒りますかね」

「んー。怒りはしないんじゃないかな」

「……」

「ただ、悲しいとは思うよ。友達が隠し事してたって知ったらさ。しかもそれが自分が弱いからだって知ったら」

「そんな事! 無いです……。別にフィオナは何も悪くなくて」

「リリィちゃんはそうだろうね。でも、フィオナちゃんは、リリィちゃんがフィオナちゃんの立場なら、どう考えるかな」


 ようやく火が付いた小枝に、大き目の木を追加しながら、俺はリリィちゃんへと視線を移し、ジッと見つめる。

 決して攻めている訳ではない。

 ないが、このまま放置しておいて良い事になる様な事は無いだろう。

 だからこそ、俺は少し厳しい目を向けた。


「どちらにせよ。選ぶのはフィオナちゃんだし、リリィちゃんだ」

「っ! ……はい」

「と、まぁ。厳しい事は言ったけど、俺は二人の味方だ。困った事があれば何でも言ってくれ。何でも協力するからさ」

「……ありがとうございます」

「こんな話を振っておいてなんだけど、そんなに落ち込まないで。よくある事さ。気持ちが上手く繋がらなくてすれ違ってしまう事はさ」

「そうなんですか?」

「あぁ、俺と桜だって、そういう事は沢山あったよ。それで、色々な事を乗り越えて来て今があるんだ」

「……聞いても、良いですか?」


 俺は未だ鍵の前で仲良く言い争いをしている二人と鍵に集中している少女を見て、あぁ、とリリィちゃんに頷くのだった。

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