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異界冒険譚  作者: とーふ
第1章『はじまり』
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第14話『新しく帰る|場所《いえ》2』

 オリビアさんは俺の暴走に苦笑しながら、ではまずお風呂場のご説明をしましょうかと笑顔で提案してくれた。

 俺と桜はその提案に大きく頷き、玄関に荷物を置いたまま家の奥へと進もうとした。


 しかし、そこでオリビアさんからのストップが入る。


「そういえば、忘れておりました。家の中は土足厳禁でした」


 笑いながらそう言うと、オリビアさんは靴を脱ぎ、玄関に置いてから壁にあるスイッチを押した。

 瞬間、今まで道路と同じ様な素材で出来ていた廊下が全て木の板に変わってゆく。


「これで、ヤマト風の家になりましたね。ただ、先ほどまでの方が良いという事であればスイッチ一つで切り替える事が出来ます」

「おぉ……便利ですね」

「これも魔導具の力ですね」


 オリビアさんは微笑んだまま俺達の先を歩き、まずは玄関から入ってすぐ右手にある扉を開いた。

 正面には洗面台があり、右手にはやや広い脱衣所の様な場所がある。

 複数人で使用する事を想定されているのか、籠や棚があり、その奧には外へ繋がる扉がある様だった。


 しかし、何かがおかしい。

 脱衣所はあるのだが、肝心の浴槽がなくあるのは屋外と思われる場所に繋がる扉だけ……ってまさか!

 俺は脱衣所の所にあった扉を開きその奧を開き、目を見開いた。


 温泉だ。

 温泉である。

 自宅に温泉?

 いや、え? どんな金持ちの家なんだ。


「お兄ちゃん、これ」

「あぁ、ほら、テレビで見た事があるだろう? 温泉だ」

「これが、温泉なんだ」


 体が弱かった桜は旅行にも行けず、俺もずっと昔にしか行った事は無いが、これは確かに温泉宿の温泉である。


「どうでしょう。ドワーフさん達にも技術協力を依頼し、完成したヤマトのお風呂です」

「え、えぇ。言う事は何も無いですね。ありがたいです」

「それは良かったです。以前ヤマトの方にも確認いただいたのですが、一件だけではサンプルとして足りなくてですね。リョウさん達がセオストへいらっしゃって本当に良かったです」


 誇らしげに胸を張りながらそう言うオリビアさんに苦笑しながら、俺はやや広い風呂場の中に足を踏み入れた。

 足場は全て石……の様になっているが特にデコボコはなく、つるつるとしていた。

 しかし、滑りやすいという様な事もなく、転ぶ心配も無さそうだ。


「おや、お気づきになりましたか?」

「え? 床ですよね。はい。石ではなく一枚の板の様な……」

「えぇ。その通りです。しかしそれだけではありませんよ」

「というと……」


 オリビアさんは懐からペンを取り出すと、それをそのまま床に向かって落とした。

 足で触っていた感じでは固い床であったというのに、ペンは傷付くことも壊れる事もなく、軽く跳ねてからコロコロと転がった。


「ヤマトのお風呂大変滑りやすいと聞いておりますので、転倒した際に傷付かないよう、床は衝撃を吸収する素材で作られております」

「それは、凄いですね」


 俺は腰に差していた刀を鞘ごと抜き、(こじり)で勢いよく床を突いた。

 しかし、確かに衝撃は受け止められ、軽い抵抗と共に床も(こじり)も傷付かない形で終わった。


「確かに……これなら一人で風呂に入っても大丈夫そうだな。桜」

「……まぁね」

「なんだ? 不満か?」

「別に、そうじゃないけど。まだ私一人じゃ危ないかもなって」

「そうか。でも少しずつ一人で何でも出来る様にならないとな」


 俺は不満そうな桜の頭を撫でて、笑いかけた。

 まぁ桜が寂しがる気持ちも分かるのだけれども、いつまでも独り立ち出来ないのは問題だからな。


「では、お風呂のご説明をさせていただきますね」

「はい」

「まず、お風呂ですが、こちらのお湯は常に清浄化されておりますので、特に入れ替える必要はございません。また温度も一定に保たれておりますので、その辺りも気にせず入る事が可能です」

「……なるほど」

「またお気づきかもしれませんが、外の風景は実際のセオストの風景ではなく、映写機の映像を流しております」

「映写機、ですか?」

「はい。そうですね。記憶映写機と言いまして、記憶の中にある映像を映し出す事が出来る様になっております。今映しているのも、ヤマトからいらっしゃった方の記憶で出来た映像ですね」

「ほー。凄いですね。しかし、映像という事はここは一面壁な訳ですか?」

「はい。覗きの心配はありませんよ」

「それは良かった」


 俺はなるほどと頷きながら、壁と思われる場所に映し出されている映像を見た。

 美しい、どこかの竹林の映像だ。

 しかし、これが変えられるのだという。


 俺は昔行った温泉の景色を映そうと心に決めながら、お風呂場を後にするのだった。


 それから脱衣所や洗面台の説明を受けて、俺達は次にリビングへと来た。


「こちらが、ご家族でゆっくりとされる部屋になりますね」

「リビングですね」

「はい。そうなります。そしてこちらの長椅子は長時間座っていても疲れない物になりますね」

「ふむふむ」


 俺は柔らかそうな長椅子を触り、その弾力を確かめる。

 中々柔らかく、少し力を入れれば手がぐぐぐっと沈み込んでいった。

 手すりの部分も柔らかく、大きさも四人くらいが余裕で座れそうだ。


「あの……」

「はい?」

「今度はその、剣で切るのは止めてくださいね。その長椅子はそれほど頑丈では無いので」

「えぇ。分かってますよ」

「それは良かったです」


 何を心配しているのだろうか。

 まさか、俺が何でも刀で切りつけると思われている!?


「そんな凶暴じゃないですからね!?」

「え? あ、いや、分かってますよ」


 苦笑しながら返された言葉に俺は焦りながら、言葉を探す。

 しかし、桜に服を引っ張られ、首を横に振られてしまい、悲しみに両手を床について崩れ落ちた。


「大丈夫。私は、お兄ちゃんがどんなお兄ちゃんでも一緒にいるよ」

「それは確かにとても嬉しいんだけど、お兄ちゃんも変な人だと思われたくないんだよ」

「……そうなんだ」

「うん」

「でも、お兄ちゃんは前から変な人だし」

「な……」


 俺は悲しみに崩れ落ちながら、少しの間床で転がるのだった。


 そして、少しの間床を掃除する雑巾になっていたのだが、ようやく心が落ち着き俺は再び立ち上がった。


「失礼しました」

「い、いえ。大丈夫ですよ。ではご説明の続きをさせていただきましょうか」

「はい」


 俺は立ちあがり服を整えると、オリビアさんが手で示す方を見ながら意識を集中させた。

 いや、特に意識を集中させる必要は無いのだけれども。


「まず、お二人には椅子に座って頂いて……あ、汚れは気にしなくても大丈夫ですよ。自動で綺麗になりますからね」

「わかりました」


 俺は桜と共に椅子に座った。

 体重を預けるとググっと体が沈み込んでしまう為、姿勢を保つ事が難しいが、何とか背筋を伸ばす。


「あ、そのまま寄りかかってしまって大丈夫ですよ」

「そうですか?」


 しかしオリビアさんに注意され、俺は背もたれに寄りかかり、隣から寄りかかってくる桜の体を支える。


「はい。では正面をご覧ください」

「っ! 映像が映った!」


 壁にはとても綺麗な景色が映し出され、どこからか音も聞こえてくる。

 が、テレビらしい機材も無ければ映し出している様な機器もない。

 お風呂場でもそうだったが、それらしい機器は見えない所に隠されているのだろう。


 異世界の技術力に関心しながら、俺は映し出されるどこか遠い世界の映像に心を寄せるのだった。


「こちらに映し出せる映像ですが、映像記録の魔導具を購入する事で、その魔導具に記録された映像を見る事も出来ます」

「自分たちで映像を記録する事も出来るのですか?」

「はい。そちらも可能ですし。自分たちで記録した映像を見る事も可能です」


 ビデオもあるとは、異世界の技術力は凄いんだなぁ。

 と俺は深く頷くのだった。

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