第135話『はじまる|戦争準備《おはなしあい》』
食糧輸送の護衛を行い、終わったら目撃証言から盗賊のアジトを探して、捕縛する。
そんな日々を繰り返す事で、いつの頃からか各国は安定し始め、俺たちの仕事も段々と必要なくなってきた……と思われる。
そんな俺の考えの正しさを証明する様に、俺とジーナちゃんはヴィルさんに呼ばれ、これからの話をする事になった。
「長い間悪かった。助かったよ」
「いえ。俺とジーナちゃんも暇してましたからね。それに冒険者の訓練としてもちょうど良かったです」
「そうか。ならまぁ良いか」
「はい」
「じゃあこれまでの事は良いとして、これからの話をしよう」
俺はヴィルさんの言葉に頷き、会議室で共に話し合うのだった。
「さて。リョウのお陰で皆の国が安定した。戦いはいつでも始められる状態だ」
「良いですね」
「しかし。一つ大きな問題がある」
「大きな問題ですか?」
ヴィルさんの言葉に、俺は何だろうかと考える。
隣に座っていたジーナちゃんも腕を組みながらうーんと唸っていた。
そんな俺たちにヴィルさんはフッと笑うと、答えを投げてくれた。
「今、俺たちは超大国に戦争を仕掛ける理由がない」
「……? そうなんですか?」
「それはそうだろう。ゲームが始まった頃は超大国も色々な事をやっていたが、今は何もせず安定しているからな」
「いや、まぁ、それはそうですけど。でも悪の超大国である事は変わらないでしょう」
「残念だがな。リョウ。ゲームが始まった頃は、皆、自国の事で忙しく他国の事を見ている余裕が無かったんだ」
「……!」
「だからまぁ、子供たちは超大国がどういう国か、知らないんだよ」
「なんてこった」
俺は急ぎ過ぎたって事か。
いや、しかし、結局システムの国を放置したら面倒な事になるワケだし。
行動に間違いは無かったと思う。
そう、間違いではないのだ。
それに……。
「そういう事なら、また新しく何か悪事をしますか」
「まぁ、そうだな。それが一番手っ取り早いだろう」
「では、ヴィルさんかアレクさんの国に宣戦布告をして、奇襲を仕掛けるとか……」
「ちょっと待ったぁー!」
俺とヴィルさんとジーナちゃんの三人で話し合っていた会議室に、俺たちの誰でも無い声が響き渡った。
その声の主は、勢いよく扉を開いて会議室の中に飛び込んでくると、会議テーブルへ向かって歩きながらニコニコ顔で続きを話す。
「悪い事をするんでしょ? なら! お兄ちゃんが私の国を攻めれば良いんじゃないかって思うんだよ!」
「それでも良いけれど。ちゃんと子供達に俺たちが悪役に見えるかが大事なんだよ? 桜」
「分かってるよ。私はちゃーんと考えてます」
「ふむ?」
「この時の為に! 子供たちと仲良くやってきたし。今、私の事は良いお姉さんだって思ってると思うよ」
「なるほど。でも、桜の国を攻めるというのはなぁ。流石に子供たちも怖いだろう?」
「大丈夫! 私、すぐに降参するから! そして悲劇のお姫様として、お兄ちゃんの国に嫁ぐよ!」
「それはもう間に合ってるから」
「え? なに? どういうこと?」
わちゃわちゃと騒ぐ桜を横目に、俺は自国の状況を思い出した。
そういえば放置してきてしまったが、アレもまた何かしら解決しなければいけない問題である。
ゲームが終わればもう会う事もない人達であるが、嫌な思いをして終わりというのも、駄目だとは思うのだ。
「まぁ、リョウの国がどうなってるのか。という話は兄妹でゆっくりと話して貰うとして、俺としては桜ちゃんの国に攻め込むっていう案はそれほど悪くないと思うよ」
「そうですか? 流石に、印象が悪くないですか?」
「そりゃ何も無い所から攻めたら印象も悪いだろうが、桜ちゃんが俺やアレクの国と同盟を組んで超大国を作ろうとした。っていう話なら状況は変わるだろ?」
「あー。なるほど」
「今、世界最大の国はリョウの国だ。このままゆっくりと支配を広げていくつもりだったリョウは、同盟を組まれるとゲームの勝者になれないと、桜ちゃんの国に攻め込む。が、桜ちゃんは争いをするつもりはなく降伏した。みたいなシナリオか」
「良さそうですね」
俺はヴィルさんの提案に頷き、ジーナちゃんと桜にも確認を取る。
二人も問題はない様なので、俺とジーナちゃんは国に戻って早速準備を始めるのだった。
そんなこんなで、遠回りをしつつも、遂に悪の超大国としての動きが出来る様になった俺とジーナちゃんは自国で準備を始める。
およそ一カ月後から始まる予定の戦争に向けての準備だ。
ひとまずは帰還したと騎士団長に伝えつつ、酷く久しぶりな玉座に腰掛けた。
ジーナちゃんはいつも通りの定位置。俺の後ろでふわふわと浮いている。
「久しぶりだな。騎士団長」
「外の世界は楽しめましたか?」
「あぁ」
「それは何より。こちらにも男女の冒険者が魔物を退治して回っているという話は聞こえてきておりましたからな」
「なんだ、バレていたのか」
「当然でしょう。陛下やジーナ殿の様な御方が偶然その辺りに生えてくる訳がありますまい」
「そういうものか」
「はい」
騎士団長はニヤリと笑い、俺は肩をすくめながら軽く流した。
過去の話は良いのだ。
これから大事になってくるのは未来の話だからな。
「と、まぁ。俺たちの話は良い。大事なのは未来の話だ。我々の超大国をより大きくする未来のためのな」
「おぉ、では遂に」
「あぁ。そろそろ戦いがいがある国になってきた。進行を始めよう」
「ハッ!」
「とは言ってもだ。何の理由もなしに攻めるのは礼儀に欠ける。向こうが何かしらの動きを見せた時に攻め入るとしよう。あくまで正々堂々と、正面からな」
「承知いたしました」
という訳で情報伝達も終わり、俺は久しぶりに戻ってきた自国で……まぁ特にやる事も無かったので訓練なんかをしていた。
我が国にも騎士は居るけれど、正直あんまり鍛えようという気は無いしな。
騎士が強くて戦争に勝ってしまった。
なんて笑える話じゃないし。
あくまで俺達の目標としては良い感じの敵になり、負ける事なのだ。
勝つことではない。
「陛下!」
「んー? どうした、騎士団長」
「それが、例の人質としている姫たちが、陛下と面会したいと……」
「何か不満があるのか? なら、対応してやって欲しいが……俺は忙しい」
相手をしたくないと言葉ではなく態度で示しながら騎士団長に返すが、騎士団長はやや困った様に笑う。
「それが、陛下でなくては対応できない案件でして」
「俺でしか対応できない?」
「はい。彼女たちは陛下に好意を向けておりますから」
どうしてこんな事になったのか。
理由は分からないが、とにかくこのままではまずい。
色々な意味で。
という訳で、俺は騎士団長に頼み、彼女たち一人一人と話し合いをする事にした。
「陛下! お久しぶりです!」
「あぁ」
「……私をお呼びになったという事は、そういう事ですよね?」
そういう事が、どういう事か理解はしていたが。
このゲームは子供も参加している健全なゲームだ。
いかがわしい事は出来ないだろう。
「残念だが、私にその意思はない」
「そんな……」
「そして、君には自分の国へ戻ってもらう事になった」
「えぇ!? 何か不敬を!?」
「いや、そういう訳じゃない。これから大きな戦いが始まるからな。君の存在は邪魔なのだ」
「……」
「君も母国で家族と過ごす方が良いだろう」
「……やはり、陛下は」
「うむ。私は……」
「悪の王……!」
「お優しい方!」
「うん?」
何か妙な言葉が聞こえたなと思いながら、俺は興奮する淑女を追い出して。
母国へと送り出した。
それから全てのお姫さんを説得し、母国へと戻っていただく。
気分よく、な。
そして、全ての準備も終わり、俺たちは戦争の為に動き始めるのだった。




