第134話『冒険者としての|修行《くんれん》』
物資をアレクさんの国から各国へ輸送する車は、馬の様な魔物に引っ張られてゆっくりと広い草原を走っていた。
「はぁー、平和だな」
「そうだねぇー」
「ちくしょう! こんな化け物が居るなんて聞いてねぇぞ!」
「この野郎! ぐぁー!?」
俺は馬車を襲おうとしている盗賊を斬り、次の盗賊に向かって走る。
そして、一通り敵を切り捨ててから、ジーナちゃんの魔法でアレクさんの国にある牢屋に転移して貰った。
「おしごと、おーわり!」
「お疲れ様。ジーナちゃん」
俺は御者さんに仕事が終わった事を告げ、食料が乗っている馬車で仰向けになって寝ることにした。
何か異常事態が発生した際には呼んで貰う事になっている為、何かが起きるまではこうしてのんびりとするのだ。
「しっかし、盗賊もあんまり大した事はないんだなぁ」
「そうだねぇ」
「ただ、それでもこれからは面倒かなぁ」
「そうなの?」
「そうだよ。今は食料につられた奴を倒して捕まえるだけで良いけど、これからは俺たちが探しに行かないといけないんだから」
「うぇー」
俺は露骨に嫌な顔をしているジーナちゃんをよしよしと慰めながら、どうやって盗賊を捕まえるか考える。
いや、違うか。
盗賊を捕まえる事は簡単なのだ。
難しいのは盗賊がどこにいるか見つける事だ。
「んー。どうしたもんかなぁー」
「あ! ジーナちゃん思いついた!」
「お。何か良い案が出た?」
「うん! アレクシスとかヴィルヘルムに教えてもらおう!」
「うーん。却下かな」
「えー。だめー?」
「駄目ってわけじゃないんだけどさ。いい機会だから俺も探索技能を上げようかと思って」
「ナルホド」
「お。どうでも良いって思ってるな?」
「マーネー」
器用にも空を飛びながらクルクルと回るジーナちゃんに、俺はクスリと笑い、重要な情報を伝える。
「俺の探索技能が上がると、ジーナちゃんにも嬉しい事があるんだけどなぁ」
「ヘー」
「森に居るっていう、伝説の食材、幸運ウサギを捕まえられるかもしれないのにな」
「っ!? 幸運ウサギ!?」
「そう。幸運ウサギだ。普通の食材として取引される事はなくて、貴族や金持ちだけが食べる事の出来る伝説の食材。一度食べたら二度と忘れられない味らしい」
「そ、そうなんだ」
「しかし、それを食べる為には俺の探索技能を上げないといかん」
「う、うぅ……リョウくん!」
「うん」
「がんばろう!」
実に分かりやすく、全身で食べたいと示していたジーナちゃんに笑いながら俺は頷く。
元よりその予定ではあったが、喜んでもらえるならそれが一番だからな。
という訳で、盗賊を捕まえる為に、盗賊を見つける為の方法を俺はジックリと暇な時間の中で考えるのだった。
が、そうは言っても、そんなに簡単に思いつく事はなく、俺は次の輸送が始まるまでの間、本で覚えた地道な方法を使って盗賊を探すのだった。
まぁ、基礎を知らずしていきなり応用は出来まい。という事でもある。
「えー。っと、確かまずは足跡を探すんだったな」
「足跡?」
「そう、足跡。人間にせよ、魔物にせよ、空を飛んでない生き物はどうやっても地面に足跡が付くからね」
俺は地面をジーっと観察しながら、足跡らしきものを探す。
特に泥が多くぬかるんでいる湿地帯なんかは、その足跡がハッキリと残りやすいらしい。
しかし。
しかしだ。
ここで疑問になってくるのは、魔物とかはそれで足跡を追えるとはいえ、盗賊が暢気に足跡なんぞを残して歩くだろうか。という事だ。
確かに、彼らはやりたい放題やっている事だろう。
しかし彼らだって無敵じゃない。
騎士団にアジトが発見され、夜襲でもかけられれば全滅する可能性だってある。
リスクだ。
そう考えるならば、慎重な盗賊ほど、足跡を残さないようにするだろう。
ならば、泥に足跡が残っている可能性は低いと思われる。
思われるが……まぁ、見てみて損は無いからな。
一応沼地なんかを確認してみることにした。
まぁ、何も無かったが……。
「んー。足跡が残っていない場合、今度はその付近の草むらなんかを注目すると」
「何か落ちてるってこと?」
「うん。そういう事もあるみたいだね。他には、草が不自然に倒れていたり、折れているっていう事もあるみたいだ」
「あー、歩くから。跡が残るんだ」
「そういう事だね」
俺は湿地帯付近の草むらをよく観察する。
が、それらしい跡は残っていないのだった。
「んー。無いなぁ」
「この辺りに盗賊は居ないんじゃないの?」
「まぁ、その可能性もある」
「うぇー。じゃあ無駄だったってことぉ?」
「ここに来た事に関してはね。確かに無駄だったかもしれない。でもほら。本を見ながら色々学べるからね」
「はぁー」
「失敗もあり、成功もある。それが練習という奴だよ。ジーナちゃん。腐らない。腐らない」
「はぁーい」
ふよふよと浮くジーナちゃんを見ながら俺はクスリと笑って、この場から立ち去ろうとした。
が、一瞬視界の端に見えた物に足を止める。
「んー? どうしたの? リョウ君」
「いや、ちょっと……」
俺は草むらの奥にあった木に近づいて、その表面を撫でる。
違和感の正体はここだ。
俺は木の皮を手で触りながら、明らかに加工していると思われる部分にナイフを入れた。
そして、ベリベリという音を立てながら剝がれてゆく木の皮の内側にあるソレを指差してジーナちゃんに見せる。
「おー。すごーい」
「どういう魔術なのか分からないけど、木に刻み込んで、疑似的な魔導具代わりにしていたみたいだね。ジーナちゃん。どういう魔術か分かる?」
「うん。わかるよー。ふんふん。なるほどー」
ジーナちゃんは手で木に刻まれた魔術式をなぞりながら何度も頷いていた。
そして、手を離すと俺を見ながら笑う。
「転移の魔術式だね。でも使うのにはいくつか条件がいるみたい」
「条件?」
「そ。まずは魔力がたまらないと使えない」
「ポータルだっけ? あれと同じ条件だね」
「うん。でもポータルはちゃんと魔力を貯める様に作られてるけど、これは野ざらしだからね。そこまで効率的じゃないよ。多分、一ヵ月に一回とかしか動かせないんじゃないかな」
「あー。うんうん。それは聞いていた情報と一致するね。盗賊は一ヵ月に一度現れるって話だったから」
「それとー。合言葉を言わないと、使えない」
「合言葉ねぇ。うまい方法を考えるもんだ。ちなみに、ジーナちゃん。それがどこに転移出来るかとか」
「とーぜん分かるよ! これは完全に固定されてるからね。じゃ飛ぶ?」
「あぁ。行こうか」
俺は腰に差した刀を持ちながら笑い、ジーナちゃんと共に木に刻まれた転移の魔術を使って盗賊のアジトと思われる場所に転移した。
移動した先では、先ほどの木と同じ様に転移の魔術が木に刻まれており、ジーナちゃんに調べてもらった所、こちらも向こうと同じ様な役割をしている様だった。
なるほど。
こっちの魔導具を使って、向こうに転移し。
帰りは向こうの魔導具を使って、こちらに転移すると。
良く出来ているなと感心する一方で、もっと別の使い方は出来ないもんかね。と呆れた様なため息が出た・
「な、なんだ!? 何者だ!? お前たち!」
「あぁ、見つかったか。じゃあジーナちゃん。全員捕まえようか」
「けっ! ガキが二匹! なめんなよ!」
ここから先は楽な仕事だと、俺は刀を抜いて、一人、また一人と制圧してゆくのだった。
そして、無事盗賊達を全員無力化すると、アレクさんの国にある牢屋に直接転移させて、俺たちは次なる仕事の為、再びアレクさんの国の王都へと転移するのだった。
「やっぱり実地訓練は色々勉強になるね」
「うんうん。これでウサギちゃんに一歩近づいたんだね! うんうん」
「ゲームが終わって、春が来たら試してみるのも良いかもね」




