第133話『|駆け抜ける《あそぶ》伝説の冒険者』
様々な地方を巡って、魔物を倒してはまた違う場所へ転移をする。
狙うのは、騎士団では対処が難しい大型の魔物や危険な魔物だ。
流石に全ての魔物を駆逐するのは手が足りないし。
俺たちが全て倒してしまっては、騎士団の訓練にならないと思ったからだ。
そんなこんなで、様々な地方を巡って魔物退治を繰り返した結果、この国は安定を取り戻していった。
が、あくまでこの国は。という話である。
一人の子がこういう状況であるのなら、他の国も同様の問題を抱えている可能性があった。
という訳で、俺はジーナちゃんと共に各国を巡り、大型の魔物を見つけてはそれを倒し、次の場所へと移動し続けるのだった。
そんな日々を繰り返しているウチに、俺とジーナちゃんは周辺国家で有名人となり。
色々な人間が俺たちの事を探して、情報を集め始めるまでになったのである。
非常に面倒な話だ。
普通に遊んでいる時であれば、別に王様をやっている子供達と会っても良いのだが、今は悪い王様をやっている最中だからな。
俺たちが魔物減らしをやっていたとバレれば、悪の王様としての立場が揺らいでしまう。
それだけは何が何でも避けなくてはいけないのだ。
という訳で、俺たちはうまく逃げ回っていたワケだが。
どれだけ時間が経っても追手の数は減らず、むしろ増え続け。
大型の魔物と危険な魔物をほぼほぼ駆逐した頃には、国同士が協力しながら俺たちを探しているという様な状況だった。
「面倒な話だ」
「もういっそ顔出しちゃった方が早いんじゃない?」
「それじゃ悪い王様と悪い魔法使いじゃ無くなっちゃうでしょ」
「顔出してから悪い事するとか」
「子供達がビックリしちゃうよ。泣いちゃうかもしれない」
「えー。じゃあどうする?」
「そうだねぇ。実に困った話だ」
俺とジーナちゃんはある国の小さな酒場でコソコソと話をしていた。
フードで顔を隠し、言葉も周囲に聞こえない様な小さい声で話す。
まぁ、そこまで警戒しなくても店の中はかなり賑わっているし、俺たちの事など誰も気にしてはいないだろうが。
しかし、それでもどこから情報が洩れるかは分からないし。警戒しておいた方が良いのは確かだ。
そんな訳で、俺たちは飲み物を飲み、食べ物を食べ、今後について話し合っていたワケだが。
不意に賑やかな周囲のテーブルから、気になる話が飛んできた。
「それでよ? 王様が人を探してるってんだ」
「例の噂の奴か? 男と女の」
「いや、どうやら違うらしい。ヤマトっつー国の人間を探しているとか」
「ヤマトォ? 聞いたことねぇなぁ」
「もしかしたら何かの暗号なのかもしれねぇな」
「暗号ねぇ」
男たちは向かい合い、酒を飲みながら考えている様だったが、答えは出ないらしい。
そのままいつまでも悩み続けていた。
しかし、俺はその王様の正体を何となく察し、ジーナちゃんに一つの提案をする事にした。
「ジーナちゃん。ちょっと面白い話を聞いたね」
「え?」
「さっきの話さ」
「え? 何の話」
「どうやらこの国の王様が、俺たちの事を探しているらしい」
「それって、別に他の国と同じって事じゃないの?」
「いや、そうじゃないんだ。この国の王様は大型の魔物を退治している冒険者ではなく、ゲームの外の世界でヤマト出身の人間を探しているらしい」
「っ! なるほど!」
「そんな訳だし、ひとまず王城へ行ってみて、王様の正体を探ろうか。多分、ヴィルさんかアレクさんだとは思うけど」
「そうだね」
そんな訳で、俺とジーナちゃんはその街で夜を明かした後、王都へと向かい、王城へと潜入した。
こそこそ場内を歩き観察していると、どうやら他の国よりも騎士がしっかりと見て回っている様だった。
しっかり隠れないと、見つかってしまうだろうとすぐ分かる程度には、騎士団が優秀であった。
これはいよいよアレクさんかヴィルさんの国だなと俺は考えながら、廊下の外を進み、壁をよじ登って上階を目指す。
そして、侵入する場所の無い玉座の間の中へはジーナちゃんが転移魔法を応用して、通してくれるのだった。
静かな玉座の間の中、俺とジーナちゃんは浮遊魔法により天井近くで浮きながら下の様子を伺う。
が……。
「見てないで降りて来いよ。ここには今、俺しかいないからな」
俺は下から聞こえたアレクさんの声に、天井から飛び降りて、地面に降り立った。
そんな様子にもアレクさんは驚いた様子を一切見せず、玉座でくつろぎながら笑っているのだった。
椅子に真っすぐ座らず、手すりを背にしながら反対側の手すりに足を乗せている姿は俺よりも悪党らしい姿ではある。
「いつから気づいてたんですか?」
「今さっきだな。まぁ呼び出したからな。気配くらいは気にしてるよ」
「そうでしたか」
「しかし……思っていたよりも早く来たな。噂が広まるのはもう少し時間が掛かるかと思ったんだが」
「あぁ、ヤマトの関係者を探しているっていう奴ですか?」
「そ。お前なら気づくと思ってな」
「確かに。あの噂を聞いて、俺もアレクさんかヴィルさんが王様だと気づけましたし。わざわざありがとうございます」
「構わねぇよ。俺らとしてもそろそろ話を聞きたい所もあったからな。お前らが暴れてる話が聞こえてきたのはちょうどいいタイミングだった」
「やっぱりここまで聞こえてましたか」
「当然だろ。あれだけ派手にデカ物ばっかり狩る奴らなんて、お前らくらいしかいない」
「まぁ、確かに」
「しかしまぁ、俺らとしても助かったがな。どうにも手が回ってない状況だったからよ」
「そうでしたか」
「あー。お前らが超大国作ってる間、こっちはこっちでやる事いっぱいでな。何せガキどもは国の動かし方なんざ分からないからな。俺とヴィルであっちにこっちに大忙しだぜ」
「それはそれは、お疲れ様でした」
「ま、俺らも楽しめたから良いがな」
くっくっく。
と悪役の様に笑うアレクさんに、やはり人選を間違えただろうか。
なんて考えながら俺はひとまずこれまでの事とこれからの事を共有する。
何か問題がまだ残っているのであれば、俺やジーナちゃんも解決に協力するし。
問題が全て解決したのなら、そろそろ超大国との戦いを始めても良い。
「それで、子供達の国はどんな感じですか? そろそろ安定しました?」
「いや。まったく」
「なるほど」
「魔物問題はお前らが解決してくれたがな。食料に財政、人材不足。考えることは山ほどあるぞ」
「もしかしてこのゲーム結構難しいんですかね?」
「いや? 少なくとも、ココが普通に国を運営している時点で同年代のあいつ等に出来ない理由はねぇよ」
「確かに」
「理由があるとすれば、俺やお前、それにヴィルが原因だ」
「俺たちが」
「そう。お前、ガキどもの国を回って、何か気づかなかったか?」
「何かって……冒険者組合が多いとかですか?」
「まさにそれだ」
「……?」
「ガキどもは俺らみたいな特殊ケースばっかり見てるからな、それが当たり前だと思ってんだ。何かあれば冒険者が何とかしてくれる。ってな」
「あー。そういう事ですか」
「だが、そんな便利な奴はそんなポコポコ出てくるわけじゃない。そうなれば、冒険者組合にばかり力を注いでも国は衰退するばかり。というワケだな」
「ある意味で、開発者の人も想定していない動きという訳ですね」
「そういうこった」
ため息を吐きながら椅子の上で器用にも伸びをするアレクさんを見ながら、俺はふむと考えた。
ひとまず現状を解決する為にも、まずはヴィルさん、アレクさんと協力する必要がありそうだな。と。
「わかりました。じゃあ俺たちも協力しますよ。それで、ヴィルさんとアレクさんは今何をやってるんですか?」
「ヴィルは盗賊狩り。俺は食料の輸出と、財政の手伝い……だな」
「じゃあ俺たちは食料の移動を手伝いましょうか。ついでに盗賊狩りと」
「あー、まぁー。そうだな。お前は顔出し出来んし。それ頼むわ。安定したらまた次の仕事を頼む」
「分かりました」
という訳で、俺はアレクさんから話を聞きつつ、護衛の仕事を始めるのだった。
中々忙しくなりそうだ。




