第132話『動き始める|悪の王《リョウ》』
孤児院でゲームを始めてからゲーム内の時間で15年ほどの時間が過ぎた。
俺は何も変わらず悪の王様をやっていて、一部を除けば順調である。
……。
一部に関してはもう気にしない事にしたので、とりあえず現状としては順調だ。
しかし、問題はまだあった。
そう。
「……退屈だなぁ」
「そーだねー」
俺はジーナちゃんと二人きりの玉座でダラダラとしながら意味のない言葉を零していた。
ここには何も生まれるものはない。
ただの虚無だ。
何も生まれるものが無い場所で俺とジーナちゃんはただ、無駄な時間を過ごしていた。
一応日々の訓練はしているし、国の中を視察したりもしている。
しかし、それはそれだ。
同じ事を繰り返す毎日というのは退屈であるし、腐っていく感覚があった。
だから、俺はこの虚無から抜け出すべくジーナちゃんに提案をする。
「ジーナちゃん。旅に出よう!」
「さんせー!!」
毎日が退屈なのはジーナちゃんも同じであったのだろう。
俺の提案にすぐ乗ったジーナちゃんは、すぐさま俺を転移させようとした。
しかし、まだ早い。流石にこの状態で居なくなったら大事件である。
俺、一応王様だからね?
「ジーナちゃん。出かける前にはちゃんと挨拶をしないと、でしょ?」
「あー! そうだった。いってきまーす! って言わないとね」
「という訳で、騎士団長に出かける事を伝えておこう」
俺は面倒ごとを全て騎士団長に押し付けて、国外へ脱走する事にした。
まぁね。悪の王様だからね。
これくらいは許されるってワケよ。
俺の言葉を聞いた騎士団長は何とも言えない困った顔をしたが、既にこれは決定事項である。
このままではキノコが生えてしまう可能性すらあるのだ。
だから、護衛も要らないし、大々的な旅にするつもりもないと騎士団長へ告げる。
「しかし、御身に何かあれば」
「俺とジーナちゃんに勝てる奴はいないよ。最悪はジーナちゃんの魔法で逃げられるし、問題は無いだろう」
「その様に言われては反対も出来ませんな」
「悪いな」
「いえ。無事ご帰還される時をお待ちしております」
「あぁ。戦争が始まる前には戻るさ」
当分は戻らない事を遠回しに伝えて、俺はジーナちゃんと適当な場所に転移した。
真実目標は無いため、世界を順番に見て回る旅である。
「とは言っても、本当に何の目標も無いってのは、駄目だし、何かしら目標は作ろうか」
「んー。そうだねー」
俺はジーナちゃんと共に少し考えてから、ある程度決まていた目標を共有するのだった。
「まぁとりあえずの目標は子供たちの状況を知るって事で良いんじゃないかな。何か困ってたらこっそり手を貸す感じで」
「さんせー!」
どんな目的でも良さそうなジーナちゃんの同意を得て、俺たちは色々な組を巡るために歩き始めた。
これからどんな旅が待っているのか。
少しだけワクワクとした気持ちを持ちながら……。
「なんて気持ちで旅を始めたんだがなぁ」
俺はジーナちゃんと共に目の前の惨状を見て、どうしたものかと腕を組み悩む。
目の前では、倒れている大型の魔物と、俺たちを見て驚愕している冒険者の方々。
さてさて、どうしたものか。と俺は腕を組んだままジーナちゃんを見上げた。
が、どうやらジーナちゃんも特に答えは持っていないらしく、困った顔で俺を見るのだった。
「いや、まさか。これほどの魔物を倒してしまうなんて。お二人は素晴らしい冒険者なのですね」
「あー、まぁー。実は、冒険者の登録はしていないので、正式に冒険者というワケでは無くて」
「そうなのですか!? ではご案内させてください! 是非、冒険者に!」
凄い熱意で押され、俺は曖昧に笑ったまま頷いた。
そして、彼らと共に王都へ向かい、冒険者組合で冒険者として登録するのだった。
まぁ、しかし。
流された結果とはいえ、何の問題もなく国の内部で身分が保障されている状態となったのは非常に大きな事だ。
これである程度自由に動ける様になったし、情報も集めやすくなったワケだ。
という訳で、酒場や冒険者組合の建物でこの国について情報を集めていた所。
どうやらこの国は孤児院の子が作った国らしいという事が分かった。
「ふむ」
「どんなかんじー?」
「一応安定はしているみたいだ。ただ、魔物の駆除が追いついてないね」
「そうなの?」
「あぁ。ゲームの仕様上、魔物の発生を放置すれば放置するほど、凶悪化、巨大化していくんだけど。さっき俺たちが倒した魔物は相当な奴だった」
「あー、なるほど。追いついてないから、どんどん魔物が凶悪になって大きくなってるんだ」
「そう。そして、それを倒す手が足りてないから、魔物退治が遅れ、さらに状況は悪化していく」
「うーん。それは困ったさんだねぇ」
「そうだね。何とかしないと」
ジーナちゃんと話し合い、この状況を何とかする為に動き出そうとした。
が、その前に確認しないといけない事がある。
ので、俺たちは王宮にコッソリと忍び込んで、王様をやっている子をコッソリと見に行くのだった。
「ねぇ、リョウ君。こんな事やる意味あるの? パパって倒しちゃえば良いじゃん」
「それでも良いけど、もし王様が何か対処しようとしてたら問題だろ? せっかく頑張って考えたのに、台無しになっちゃうんだから」
「それもそうか」
「だから、この問題をどういう風に受け止めているのか。まずはそこを知るところから始めないと」
「らじゃー」
俺はジーナちゃんに理由を話しながら、人の目から隠れ、走り、玉座へ……入る事は出来なかったので、外から話を聞く。
「陛下。地方の魔物被害は深刻な問題ですぞ」
「うーん。でも、冒険者組合は作ったよ?」
「冒険者だけでは手が足りません」
「そうなの?」
「はい。元より冒険者はそこまで魔物退治の専門家ではありませんからな」
「えぇー!? そうなの!?」
「はい」
「でも! ヴィル兄ちゃんも、アレクも、リョウ兄ちゃんもみんな冒険者だけど、どんな凄い魔物も倒してたよ!?」
「確かに、時折常識では考えられない程の強者が現れる事もあるでしょうが、その人数はあまりにも少ない」
「そうなんだ……」
「ですから陛下。騎士も導入し、大々的な魔物狩りを行いましょう。魔物は数を増やす事で危険性があがります。が、逆を言えば、数を減らしさえすれば問題はないワケです」
「なるほど」
「では兵たちに出動命令を出しますね」
「うん。おねがい」
俺は子供と話している人の言葉を聞き、王宮から地方都市へと向かう決断をする。
「時間はあんまり無さそうだね。さっさと地方都市へ行こうか。とにかく危険な魔物がいる場所を順番に巡ろう」
「それは良いけど、なんで急ぐの?」
「騎士団が動く事になったからだよ」
俺はさっとジーナちゃんに答えながら冒険者組合の建物で大型の魔物の情報を調べ、メモしてゆく。
「でも、騎士団が動くのなら、騎士団が全部何とかしてくれるんじゃないの? リョウ君の国はそうやってるでしょ?」
「騎士団が強いならね。それも良いと思う、でも、ここまで魔物が狂暴化していると、そこまで強くない騎士団じゃ厳しいよ。最悪は全滅する」
「あらー」
「それに。俺の国じゃ魔物が弱い時に狩ってるからね。状況もちょっと違う」
「なるほーど」
「この状況で下手な刺激をすると、最悪王都まで魔物が攻めてくる。なんて事にもなりかねない。そうなれば国が終わるよ」
「たいへんだー!」
「そ、大変なんだ。だから、駄目になっちゃう前に、何とかするよ」
「あいあいさー!」
こうして俺はジーナちゃんと共に狂暴化している魔物を狩る為の旅を始めるのだった。




