第130話『|悪い人たち《リョウとジーナ》の王国』
無事に一年が終わり、年明けに孤児院へ招待された俺たちは、子供たちと『国家運営大戦略』というゲームで遊ぶことになった。
そして、俺とジーナちゃんは子供たちの楽しいゲーム環境を作る為に、ちょっとだけハードなゲームを始めることにした。
まず、生まれてからすぐに魔術を鍛えはじめ、五歳頃まで体も並行して鍛えてゆく。
そして、七歳の辺りでジーナちゃんの国を見つけ、向かった。
ジーナちゃんは俺が国に来るや否や、即座に自国の王を撃ち、ジーナちゃんが国王となって俺の国と同盟を結ぶ事になった。
が、ジーナちゃんの行動に我が国の王が不快感を示したため、俺は自国の王を滅ぼして、ジーナちゃんの国と一つにする。
恐怖政治の始まりである。
逆らう者は全て討ち、少しずつ国を安定させてゆく。
そして、いきなり色々な変化が起きたため、生活が苦しくなった国民の為に、まずは最初の進行を始めるのだった。
「調査の結果。隣国はシステムが用意した国だと分かった。まずはあそこを滅ぼそうか」
「はーい」
「陛下。いきなり戦争というのは……兵たちもまだ訓練が」
「あーあー。要らない要らない」
「は? 要らないというのは……」
「侵略は俺とジーナちゃんの二人で十分。って話だよ」
俺は国で見つけた神刀を握りしめながら笑う。
このゲーム。ある程度現実の身体能力や魔術、特殊な力も反映されるようで。
子供になっているから多少は弱体化しているが、俺もジーナちゃんもこのゲームにおいて、そこまで苦戦する相手というのは居ないのだ。
まぁ、冷静に考えればジーナちゃんでも勝てない相手なんて、このゲームを買っている人たちじゃどうにもならないだろうし。
英雄レベルじゃないと倒せない敵なんて出すもんじゃないからね。
だから、何も問題なく俺たちは隣国を攻め落とせるという訳だ。
「なんだぁー!? 貴様ら、ガキが二人で、何を!」
「とりあえず、交渉から始めたいんですけど」
「ガキが! 図に乗るなよ!」
「……話にならないな。数も多いしジーナちゃんお願い」
「あいあーい」
「あぁ、あの辺の内政やってそうな人は残してね」
「あーい」
ジーナちゃんは手を空に掲げ、玉座に集まった人たちを全て山城の外へと飛ばしてゆく。
まぁ、風で吹き飛ばされているだけだが、無事では済まないだろう。
「この……! 魔物がぁー!」
そしてジーナちゃんの風でも吹き飛ばせない相手は。
「ここから先は通せないなぁ」
俺が刀で直接迎撃をするという訳だ。
無論、こちらがまだ子供である以上、向こうの攻撃を受ける様な事はせず、ジーナちゃんが吹かせている風に乗りながら首へ刃を向けるだけだ。
実に簡単な仕事である。
そして王様と文官を除く人々を全て玉座の間から追い出して、俺は王様に向かって笑いかけた。
「降伏を勧めますけど。どうします?」
「侵略者に従えというのか」
「えぇ。そう言ってますね」
「我が国の国民をどうするつもりだ」
俺は王様の問いにうーんと考える。
正直なところ、超大国を作りたいだけだから、この国の人をどうこうしようという意図は無いんだが……。
ただなぁ。
悪い王様で居た方が敵として分かりやすいという話もあるんだよなぁー。
「まぁ。別に国民をどうこうする気はないね。ただ……」
「……ただ?」
「我が国の属国であるからな。君の国の民は三等国民という事になる」
「三等、だと?」
「あぁ。ルールはシンプルだ。等級が上の国民に下の国民は一切逆らう事が出来ない。盗まれようが、殺されようが、何もな」
「その様な法を!」
「俺たちの国だ。何をどうしようが俺たちの勝手だ。違うか? 君の国は俺たちに負けたんだぜ?」
「っ!」
昔、読んだ悪役の小説を思い出しながら俺は悪い顔で笑う。
そして、玉座を小さな子供の気配二つが覗いている事に気づきながら言葉を続けた。
「別に説明は要らないだろうが、我が国の国民は犯罪者でない限り、一等国民だ。そして、犯罪者は……まぁ、犯罪の種類にもよるが、二等国民か、本当に凶悪な者が三等国民という所だろうな」
「……」
「ちなみに、君の国の民が犯罪を犯した場合、四等国民となり、二度と三等以上にはなれないから気を付けてくれたまえ」
悪役らしく、笑いながら語る俺に子供達が怯えた様な気配を見せた。
しかし、止める理由もないため、俺は変わらず言葉を続けた。
「そして、ここからが大事な話だ。まず国王。君は四等国民だ。俺たちの慈悲に刃を向けたからな」
「くっ、その様な真似をせずとも私の命を奪えば良いだろう!」
「その方がお望みなら、そうするが? 最後まで聞いてから判断しても良いんじゃないか?」
「なに……?」
「そこの内政担当の者たち。お前たちは皆、二等国民だ。俺たちに反逆しない限りはな」
俺の言葉に、文官と思われる者たちがざわざわと騒ぎ始める。
意図を察した数名は俺を睨みつけたが、まぁまぁいい感じの流れなのではないだろうか。
「そして、国王。君の娘も息子も四等国民だ」
「貴様……!」
「ただ、俺も慈悲が無い訳じゃない。まだ幼い君の子供たちの命を奪う行為は特等国民である俺たちの命令により禁止としようじゃないか。命を奪う行為は、な」
「悪魔め」
「何とでも言ってくれ。これも平和を作る為だ」
「何が平和だ! この様な事で平和が作れるものか!」
「作れるさ。何せ。このルールは最後が肝心なんだからな」
「最後、だと……?」
「あぁ、等級を上げる方法が二つあってな。一つは俺達に何かしらの貢献を行う事」
「……」
「そして、もう一つは、同等国民の犯罪を告発する事だ」
「っ!」
俺は非常に悪い顔で笑ってから、こちらを覗き、震えている子供たちに向かって歩き始めた。
そして、ふよふよと後ろに付いてくるジーナちゃんに目配せをして、頷く。
「さて、ルールは分かった事だろう。俺はそろそろ帰る事にするよ。手土産にもならんだろうが、四等国民のゴミを一つ持って帰るとしよう」
「サラ!」
「お兄ちゃん……!」
扉を勢いよく開き、向こうから覗いていた少女を捕まえて、ジーナちゃんに浮かせてもらう。
そして、殴りかかってきた少年を転ばせて、上からあまり痛くしない様に気を付けながら踏みつけた。
「哀れだな」
「っ!」
「力が無いから全てを失う。国も、地位も、大切な家族も」
「くそ……!」
「悔しければ強くなることだ」
俺は少年を気絶させ、ジーナちゃんに少女の意識を奪ってもらってから、悔しそうに玉座から立ち上がっていた男へと視線を向けた。
そして、すぐに視線を文官たちへと流してゆく。
「最初の命令だ。今回の戦争はこの国が我が国に仕掛けたため起こった事だと国民に広めろ。そして、国王は民を三等国民として俺に引き渡した事で命を繋いだとな」
「その様な戯言! 信じるものか!」
「信じるか信じないかは関係ない。話を広める事が出来なければ、我が国の犯罪者がこの国に遊びに来るだけさ。逆らえば、犯罪者になるからな、気を付けてくれたまえよ」
俺は何も言えず黙ってしまう者たちを放置して、ジーナちゃんの転移で自国の自室へと戻るのだった。
「……はぁ、疲れた」
「お疲れ様」
「悪役ってのは疲れるねぇ」
そして、ジーナちゃんに静かな自室の中で愚痴を零すのだった。
「そういえば」
「んー?」
「なんか勢いで連れてきちゃったけど。この子。どうしようか」
「さっぱり!」
「まぁ、だよねぇ」
妹が奪われたお兄ちゃんは強くなる為に頑張るだろう。
くらいの気持ちで連れてきたが、正直失敗したかもしれない。
まぁ、何とかするかぁ……。
やったことの責任は取らないとね。
「これから同じ事を他の国でもやらないとなー」
「がんばってください! わるい王様!」
「そうだねぇ」
俺はジーナちゃんの言葉に、やる気のない返事を返すのだった。




