第13話『新しく帰る|場所《いえ》』
俺達はひとまず新しい家に行くという事で、オリビアさんと共に冒険者組合を出て、人通りの多い大通りを歩き始めた。
「桜。危ないから手を繋ごうな」
「うん」
そして、桜を気にしながらも人混みの中を歩き、俺達が入って来た森へ繋がる石壁の方ではなく、反対方向に向かって進み始めた。
遠く見える石壁の終わりは見えないが、おそらくは街の端と思われる場所から中心へ向けて歩き、十字路にぶつかるとそれを右に曲がる。
ちょうど冒険者組合の裏手の方に向かっている形だ。
「この十字路はですね。ちょうど区画を分けている物でして」
「ほぅ」
「今歩いている大通りの左側の地区は貴族の方々や、街にとって重要な人物の住んでいる地区になります」
金持ちや権力者の住んでいる場所という事か。
面倒が起きない様に近づかない方が良いな。
「そして右側の地区は冒険者さんや騎士さん達の関係施設になります。一部の騎士さんや冒険者さんは左側の地区にも住んでますけどね」
「ヴィルヘルムさん達の様な方ですか? おそらくあの二人は相当な高ランクの冒険者でしょう?」
「そうですね。確かに二人は高ランクですし。左側の地区に住めるのは、高ランクかつ人格的にも問題ない方……なのですが、二人は右側の街に住む事を選んでいるんです」
「……なるほど」
やっぱりというか何と言うか。
そういう人たちなんだろうなというのは、短い時間であるが接して来て分かる。
「そして、一応左側の地区、右側の地区と両方食料品や日用品のお店がありますので、お好きな方をご利用下さい。ただ、私としては右側の地区の方をオススメはします」
「価格の問題ですか? 左側の地区の方が高いんですよね?」
「それもそうですが……左側の地区の方とトラブルを起こすと厄介な事になる可能性もありますからね」
オリビアさんはチラッと桜を見てから言葉を濁した。
まぁ、プライドやら何やらが高い金持ちや権力者が居るという事なのだろう。
「分かりました。まぁ、俺達もあまり贅沢をするつもりは無いので、右側の地区に行くと思います」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
それから。
俺はオリビアさんと生活について色々な話をしながら歩き、俺達の新しい家だという建物の前に立ったのだが。
デカい。
「随分と大きいですね。俺達、そんなにお金は持ってませんよ?」
「え? いや、それほど大きな家では無いので、リョウさんなら無理せず払える範囲かと思っていますが」
「え?」
俺は思わずオリビアさんへと視線を向けながら再び新居を見た。
かつて俺達が住んでいた家ほどは大きくないが、2階建ての一軒家で、何となく外から見ただけだが、4人家族でも余裕をもって暮らせそうなくらい大きい。
「では家の中に入りましょうか」
「はい」
そう言うとオリビアさんはそのまま鍵も開けずに家の中に入り、すたすたと家の中を歩く。
まぁ、流石に和室は無いから靴のまま上がるのか……と思いながら俺はふと引っ掛かり後ろに振り返った。
扉をジッと見つめて……その正体に気づく。
鍵が無いのだ。
「オリビアさん。この家! 鍵が」
「あぁ。申し訳ございません。最後に説明しようと思っていたのですが……そうですね。先に説明した方が良かったですね」
オリビアさんは微笑みながら玄関に向かい、飾られていた大きな水晶を手で示す。
「この水晶がこの家の鍵になります」
「……?」
「はい。最初からご説明させていただきますね。ではこちらの水晶に手を当てて下さい」
「分かりました」
俺はオリビアさんに言われるまま水晶に手を乗せて、静かにジッと見つめる。
が、何も起きない。
「オリビアさん?」
「えー、あっ! そうでした! そうでした。申し訳ございません。サクラ様、手を乗せていただけますか?」
「ん」
オリビアさんの言葉に桜は水晶の近くまで移動し、手を当てた。
その瞬間、水晶から光が溢れ、壁を伝わり家の隅々まで光が走って行く。
「はい。これで今この瞬間からこの家はサクラ様が許可した方しか入れなくなりました」
「……! 凄いですね」
「無論これは玄関だけではなく窓も裏口も同様です。例え扉が開いていても中へ入る事は不可能です」
「しかし、魔術的な道具なら魔術的な物で破れるのでは?」
「そうですね。そう思われるのはとても自然な事です。しかし、この魔術はサクラ様と契約している精霊が行っている事ですので、例えば水晶を奪ったりしても意味は無いんです」
「登録を桜以外の人が行う事は?」
「登録自体も、もうサクラ様が許可した方以外は出来ません」
「便利なものもあるんですね」
鍵を無くしたとかそういう心配が要らないのは非常に便利だ。
どうやっても、桜以外の人間は家の中に入れないのだから。
しかし、どの程度の強制力があるのかは気になるな。
「桜。ちょっと俺を拒否してくれないか?」
「……やだ」
「すぐ解除してくれれば良いから。安全かどうか知りたいんだ」
「……」
「何か桜のお願いを一つ。何でも聞くから」
「……なんでも?」
「あぁ。何でも」
「分かった。じゃあ一回だけ」
次の瞬間。俺は玄関から外に弾かれて外の地面を転がっていた。
しかし、すぐに起き上がり、腰に差した刀を抜く。
「お兄ちゃん!」
「まだ解除しないでくれ! 桜! 一撃だけ、試したい!!」
俺は深く踏み込んで刀を振り上げ家に向かって突き進んだ。
しかし、家から無数に現れた水の鞭が四方八方から俺に向かって打ち付けてくる。
「っ! 早いな!?」
水の鞭をかわしつつ、斬りつつ、隙を見て家に向かおうと意識を家に集中した瞬間、視界が焼かれるほどの閃光が目の前で起こり、俺は直後に水の鞭によって家から遠く離れた場所へと弾き出された。
「っ! はっはっは! これは凄い」
「お兄ちゃん!! もう駄目! 攻撃しちゃ駄目! お兄ちゃんは大丈夫!」
桜が叫んだ瞬間、家から敵意の様なものは消え、俺の目をくらませていた何かは消えて視界が戻るのだった。
俺は立ち上がり、涙を滲ませながら走ってくる桜を受け止める。
「すまんな。桜」
「もう! バカ! バカ!」
「あぁ。お兄ちゃん、バカだったよ。でも、これで安心出来そうだ。少なくともこの家は、俺より強い」
俺は桜を抱きしめたまま家に向かって歩き、家の壁に触りながら精霊たちに謝った。
何故か刀を通して酷く怯えた様な気配がしたから……。
「あぁ、オリビアさん。お騒がせしました。鍵の件は大丈夫です。かなり安心出来ました」
「……それは、良かったです」
やや引いているオリビアさんを見ながら、後でやれば良かったなと後悔しつつ、俺は抱き着いてくる桜を抱き上げて家の中に入るのだった。
「えー、では改めて家の説明をさせていただきますね」
「はい」
「まず部屋の話ですが、大きな部屋が二つ。こちらは食事をしたりご家族でくつろいだりする部屋ですね」
リビングとダイニングね。
「そして、寝る様の部屋は4つあります。後はお客様が来た時用の部屋が2つ。という所ですね」
「やっぱりだいぶ広いですね」
「そうですか? ご家族ですと、このくらいは普通かと思います」
「……なるほど」
「そして、シャワー室と……あぁ、そうそう。お二人はヤマトから来た方という事でお風呂を付けさせていただきました」
「お風呂があるんですか!?」
「え? えぇ、はい。以前ヤマトからいらした方の要望で一部の家に付ける様になってまして。今回もその内の一軒です。多少家賃が上がってしまうので、別の方が良ければ……」
「あー! いえ! 大丈夫です! このままここで……いやここが良いです」
「そ、そうですか。ではその様に」
またオリビアさんに引かれてしまったと心にダメージを受けながら続く家の説明を聞くのだった。




