第129話『|迎えた《やってきた》新年と客人』
さて。
無事新年を迎えたわけだが……まぁ正直そこまでやる事は変わらない。
何せ、今はまだ冬ごもり中だ。
突然ここから何かが始まる! という様な事は無いのだ。
だからまぁ、セオストの人たちも冬ごもりが終わってから新年を祝うのだろうと思う。
冬ごもり中は家族と話す事くらいしか出来ないからね。
なんて思っていたのだが……。
異変はある日突然起こった。
冒険者組合へと繋がる扉が昼過ぎから激しい音を立てながら揺れていたのだ。
リビングでゆったりとしていた俺と桜とココちゃんは、何ごとかとその場所へ来たのだが、扉に異変は無いように見える。
いや、激しく揺れている訳だから異変はあるのだが……。
「……お兄ちゃん、どうしよう」
「どうしようかね。いっそ開けてみるというのも選択肢の一つなんだけど」
「えぇ!? 危ないよ!」
「それはそうだけど、このままって訳にもいかないだろう?」
「そうだけど……」
桜とココちゃんにリビングまで戻ってもらい、一人で扉を開けてみる事にした……いのだが、桜もココちゃんも俺の服を掴んだまま離さない。
どうにかして安全な場所に行って欲しいんだけど……。
「もう、朝からうるさいなぁ」
「ジーナちゃん?」
「呼んでるんだから開ければいいじゃない」
突如として転移で扉の前に現れたジーナちゃんが何でもない事の様に扉を開けてしまう。
そして、扉の向こうから光があふれ……。
「よっす! 悪いな。俺だよ。俺」
「アレク、さん?」
「あぁ。俺だよ。いやー。こんな事になるのなら、先に伝えておけば良かったな」
アレクさんは少しばかり疲れた様な笑みを浮かべたまま扉を超えて、家に入ってきた。
そんなアレクさんをリビングに案内して、俺はとりあえず事情を聴くのだった。
「簡易転移門ですか」
「そう。知り合いにな。頼まれて実験する事になったんだけどよ。せっかくだから孤児院とお前の家を繋いでみようと思ってな」
「なるほど」
「そういう事って、あらかじめ言っておくべきなんじゃないですか?」
「確かにな。ま、悪かったよ」
アレクさんの軽い謝罪に桜は怒りを覚えたのか、俺の服を引っ張って耳元に口を寄せる。
そして小さな声で囁いた。
「お兄ちゃん。やっぱりこの人と付き合うの止めた方が良いんじゃないの?」
「あ、あはは」
「聞こえてるぞー」
「聞こえる様に言ってるんですけど」
バチっと、桜からアレクさんへ火花が飛ぶ。
が、アレクさんは孤児院の子供達で慣れているのか、特に気にした様子は無い様だった。
「まぁ良いや。それでよ。今日来たのは他でもねぇ、頼み事があってな」
「頼み事、ですか?」
「お前が暇ならさ。孤児院に遊びに来ないか? 毎年の事ではあるんだが、冬ごもりが長くてな。ガキどもも飽きてるんだ。それに、まぁ色々と事情があってな」
「そういう事だったら良いですよ。行きましょうか」
「助かるよ」
「あー。アレクさん。遊びに行くという事なら、ココちゃんも連れて行って良いですか? どうせなら同じくらいの年齢の子とも遊ばせてあげたくて」
「っ! ココも?」
「まぁ、ココちゃんが嫌なら無理には言わないんだけど」
「ううん。ココは、うれしい」
「俺も構わないぞ。獣人だからって文句いう奴は居ないし。もし居ても、俺やヴィル。それにシスターから説教されるからな。心配は要らん」
「ありがたい話ですね」
という訳で俺とココちゃんは孤児院へ向かう事になり。
桜たちにも行くか? と聞いたが、桜とジーナちゃん以外は家に残る様だった。
まぁ、いきなり知らない子達の所に行くというのもハードルが高いしな。
そう考えると、桜やココちゃんは良いとして、ジーナちゃんは本当に凄い子だなと思う。
好奇心旺盛というか。猪突猛進というか。
気になる事、面白い事へは一直線という感じだ。
そんなこんなで俺と桜とココちゃんとジーナちゃんの四人はアレクさんと共に光る扉をくぐり抜けて、孤児院へと向かうのだった。
ついでだし、いくつかのゲームを持って。
「お邪魔しまーす」
「あ! アレク! 帰ってきた!」
「ホントにお兄ちゃんたちが来た!」
「あそぼー!」
何とまぁ元気なお子さんたちばかりで、俺は一瞬で子供たちに囲まれて、大きな部屋の中心へ行く事になった。
そして、去年の最後、冬ごもりをする前に来て以降の事を色々と教えてくれるのだった。
「それでね! アレクとヴィル兄ちゃんが買ってきてくれたゲームで遊んだんだ!」
「それは楽しそうだね」
「うん!」
孤児院にはアレクさん達が買ってきた沢山のゲームがあるらしく、色々なゲームを子供たちは教えてくれるのだった。
しかし、大人数で遊ぶには制約が多いらしく、難しい所もある様だった。
「あー。なるほど。それで俺を呼んだってワケですか」
「そういうこった。俺とヴィルだけじゃ全員の相手をするのは難しくてな。適当に遊ばせてやっても良いんだが、子供だけで遊べないゲームも多い」
「なるほど」
「ま、見てるだけでも良いからよ。付き合ってくれると嬉しいな。無論依頼料は出すぞ」
「いや、依頼料は要らないですよ。俺も遊ぶわけですし」
「助かる……が、貰いっぱなしってのは気に入らん」
「じゃ、今度セオストでオススメのご飯屋に連れて行って下さい」
「そんなモンで良いのか?」
「言っておきますが、俺は結構食べますよ?」
「くっくっく。そうかい。じゃあ高級な飯をイヤという程食わせてやる。お前の妹たちにもな」
「ありがとうございます」
という訳で交渉は成立し、俺たちは遊ぶ事になった訳だが……子供たちの要望を聞いていると、ふと一つの名案が浮かんだ。
床に下ろしていたバッグの所へ走り、中からゲームを取り出して確認すると、問題は無さそうに思う。
「アレクさん」
「ん-? なんだ」
「コレなら全員で遊べるんじゃないですか?」
「ほう?」
アレクさんにそんな提案をしながら取り出したのは『国家運営大戦略』というゲームであった。
以前ハチャメチャになって終わったゲームであったが、ある程度制御する方法は学んでいる。
不安材料はジーナちゃんであるが、そこに対する対策は既に考え済みだ。
俺はひとまずゲームを子供達に渡し、内容の説明を桜とココちゃんにお願いして、ジーナちゃんとヴィルさんを呼び寄せた。
「争いが起らなければ基本的に自分の国で自由に遊べるゲームなので、長時間遊べますし、外交ごっこも出来るので良いと思います」
「争いってのはどうやって起こるんだ?」
「システムが作った国が争いを仕掛けるか、プレイヤーが仕掛けるか。みたいな感じなんですが……俺はシステムで作った国を早々に潰そうと考えてまして」
「ほー」
「プレイヤーだけの世界にしておけば基本的な争いは子供達同士という事になるでしょう?」
「まぁ、俺もヴィルも基本は見守る事が中心だろうしな」
「はい。なので、これで子供達が中心のゲームになると思います」
「だが、そうなると、子供同士で争う事にならないか?」
「そこで、です」
「ふむ?」
「俺とジーナちゃんが始まって早々にシステムの国を潰して超大国を作りますので、みんなで協力して超大国を倒すゲームプレイをお願いしたいんです」
「……なるほどな」
「俺とヴィルはガキどもの動きを見つつ、それとなく目標をリョウたちに向ければいいって事か」
「そうなります」
「よし。分かった。それなら俺は良いぜ。賛成だ。これが上手くいけば、そういうゲームだって思うようになるからな。今後が楽になる」
「まぁ、そうだなぁ。ある程度自立、調和とかも学べそうだし。俺も賛成だ。リョウ」
「ありがとうございます」
俺は二人に頭を下げてからジーナちゃんを見る。
もしジーナちゃんが反対したら……なんて考えていたのだが杞憂だったようだ。
「じゃあじゃあジーナちゃん、自由に動ける様になったらすぐリョウ君の国に行くねー! ういー楽しみー」
「俺たちはちょっとハードなゲームだけどね」
「そっちの方が楽しいじゃん!?」
ジーナちゃんの明るい笑顔に頷きながら、俺たちは『国家運営大戦略』を始めるのだった。




