第124話『年越しの|食事会《おはなし》の始まり』
それとなくココちゃんをゲームに誘導して、時間稼ぎをする作戦も上手くいった。
我ながらいい仕事をしたと思う。
現在、ココちゃんはゲームを純粋に楽しむ事が出来ており、桜たちへのサプライズプレゼントも用意できたため、素直に年越しパーティを楽しみにしている状態だ。
そして、今日、いよいよ年越しパーティが始まる
俺はココちゃんと一緒に、年越しパーティだからリビングに行こうかと誘い、久しぶりの一階へと向かった。
まぁ、一階が久しぶりなのはココちゃんだけで、俺は食事や飲み物を取りに何度か降りていたワケだが。
「……わぁ、すごい」
ココちゃんは一階に降りてリビングの飾り付けを見て、目を輝かせる。
キラキラと輝く装飾品の数々は、元々折り紙であったというのに、今はまるで輝いている様に見えた。
いや……本当に光ってるな?
「どう? ビックリした? ジーナちゃんが魔法で光らせてるんだよ?」
「凄いな。魔法にこんな使い方があったのか」
「ふふん。ジーナちゃんは凄いからね」
腰に両手を当てながら胸を張るジーナちゃんを褒め称えつつ、俺はココちゃんを抱き上げて、天井から降りてきている飾りに近づけた。
ココちゃんは飾りを掴むような事はせず、壊れ物を触る様にそっと触れ、微笑む。
そんなココちゃんの様子に、リビングの空気が穏やかになったのを感じた。
何だかんだ。みんなココちゃんの気持ちがどうなっているのか気になっていたのだろう。
「じゃ! 年越しパーティを始めようか! お兄ちゃんはそこ! ココちゃんはその隣。そして私はココちゃんの反対側!」
元気よく場所を指さす桜に従い、俺とココちゃんは言われた場所に座った。
そして、ジーナちゃんとミクちゃん。
フィオナちゃんとリリィちゃんもテーブルを囲んだ場所にそれぞれ座る。
そして、いよいよ待ちに待ったパーティを始めるのだった。
「あ、リョウさん! ココちゃん! コレ、食べてみて! 今日という日の為に完成させた、究極の焼き鳥サンド!」
「へー。究極の焼き鳥サンドかぁ」
こういう祝いの日でも焼き鳥サンドなんだな。なんて思いながらも、俺は受け取った焼き鳥サンドを食べる。
ココちゃんも俺と同じタイミングで噛みしめ、その味を楽しんだ。
「おっ、これは凄いね。今までと全然味が違う」
「そうでしょう。そうでしょう。そうでしょうとも。これは私が研究に研究を重ね生み出した究極の味だからね」
「うんうん。すごく美味しいよ。来年は食堂で売る感じ?」
「まぁーね。それも良いかもしれないですねぇー」
ふふんと嬉しそうに微笑むフィオナちゃんに、リリィちゃんがクスリと笑って言葉を続けた。
「うん。フィオナは良い料理人になるよ」
「そうそう。私は良い料理人に……って、ならないよっ! 私は凄腕の冒険者になるんだから!」
「え?」
「え!?」
「えぇー!?」
フィオナちゃんの発言に、リリィちゃん、俺、ジーナちゃんの順番に驚き、声を上げる。
が、その反応にフィオナちゃんは大変不満そうであった。
「なにその反応! 私の方が冒険者ランクは上なんだからね! 先輩なんだからねー!」
「でも、強さはリョウさんの方が、上」
「それは、そうだけどぉー」
「いや、まぁ。強さはどうでも良いんだけど、フィオナちゃんって今年、そんなに依頼受けてたっけ?」
「うっ!」
「いや、俺がセオストに居なかった時期も多かったし。実は居ない時に何度も受けてたっていうのなら、ごめんなさいなんだけど」
「……です」
「うん?」
「依頼は全然やってないですぅー!」
「あはは。おもしろーい」
泣いてこそいないが、今年の悲しみを背負い、叫ぶフィオナちゃんにジーナちゃんだけが笑い、そんなジーナちゃんの足をミクちゃんが引っぱたいていた。
まぁ、そうね。
流石にね。
「……じゃあ、来年はフィオナちゃんに冒険者の何たるかを教わろうかな。俺も戦ってばっかりだしさ。まだ一番下のランクだしね」
「じゃー、ジーナちゃんもー」
「え」
「どうしたの? フィオナ」
「いや、流石に、この二人と一緒に依頼は……オリビアさんに怒られそう」
「別に良いんじゃない? 俺もこのまま何も知らない冒険者って感じで何年も過ごしたくないし」
「ジーナちゃんも! 冒険者楽しそうだからやるー!」
「食堂なら私が居るし。サクラちゃんや、ココちゃんの事もみてるよ」
「ココも、食堂で、働きたい」
「え!?」
思わぬ所から飛び出してきたココちゃんの言葉に、俺は驚き、声を出してしまった。
そして、そんな俺の反応に、ココちゃんが悲しそうな顔をする。
「だめ?」
「いや、駄目という事は無いのだけれど」
そう、別にココちゃんが働くという行為が駄目という事は無いのだ。
ただ、問題はココちゃんが外で働く事によって生まれる問題だ。
確かにソラちゃん達はココちゃんを差別する事は無かったが、それはあの子達が特別だったという考えも出来る。
実際、ココちゃんが一人でセオストの街を歩いた場合、どういう風になるのか。
それを俺は知らないのだ。
ココちゃんが食堂で働く事により、どの程度の問題が起こるのか。今の俺には分からない。
ならば、いっそ思い切って働いても良いよと言ってみるという手もある。
いやいやいや。
それで何かが起きて、ココちゃんが傷ついたらどうするのだ。
そう考えたら、何かが起きる前に先制攻撃をするべきでは無いだろうか。
「……二、三人くらい見せしめにするか」
「お兄ちゃん! お兄ちゃん、落ち着いて!」
「ハッ! 俺は一体なにを」
「もう。暴走しすぎだよ」
「そ、そうだな」
ココちゃんの反対側に座っていた桜に突っ込まれ、俺は冷静さを取り戻した。
そうだ。いきなり見せしめは良くない。
何か事件が起きる瞬間に止めて、恐怖を植え付けるべきだ。
というのは、それとして。
ひとまずココちゃんに語り掛けている桜に意識を向ける。
「ココちゃん」
「うん」
「食堂で働くのは大変だよ? お客さんはいっぱいだし。注文は多いから覚えるの大変だし」
「がんばる」
「途中で嫌だって、言わない?」
「うん」
「辛かったり、もう駄目だ―って思った時、ちゃんと私かリリィちゃんに言える?」
「うん。だいじょうぶ!」
「なら、まぁ良いんじゃない?」
「良いのか? 桜」
「大丈夫でしょ。ココちゃんがお兄ちゃんの大切な妹だって事は冒険者組合の人たちも知ってるし。リリィちゃんも居るしね」
桜が出した名前に、俺もリリィちゃんへと視線を向ける。
周囲全ての視線が集まり、リリィちゃんは恥ずかしそうに、近くにあったお盆で顔を隠したが、まぁ確かにリリィちゃんがいるなら問題ないか。
「じゃあ、イザという時は、リリィちゃんに処理して貰おう」
「それが良いと思うよ。バラバラにして森に捨てればバレないでしょ」
「流石は桜だ。天才だな」
「ふふん。当然だよ。ココちゃんに手を出したんだから」
「当然だな」
「ちょっと? そこの兄姉さん。危険な思想は控えて下さい」
ミクちゃんからツッコミが入ったが、俺はそれを流し、ココちゃんに向き直る。
「ココちゃん。何かあったらすぐに俺たちに言うんだよ。迷惑とか気にしなくて良いからね」
「うん」
「じゃあ、お兄ちゃんもココちゃんの頑張りを見守ってるから。頑張って」
「ありがとう……!」
嬉しそうに微笑むココちゃんを抱きしめて、少し離れた場所に居るリリィちゃんへと視線を向けた。
強く、強い意志を持って、ココちゃんと桜を頼むと念を送っておく。
「……ワカリマシタ」
リリィちゃんはそんな俺の願いに快く頷いてくれ、問題は解決するのだった。
「ココちゃんが食堂で働いてくれるのなら、これで食堂の人手不足は大丈夫だね。フィオナちゃん」
「うっ!」
「冒険者の修行頑張ってねー」
「サクラちゃん! そんな!」
「いや、だって、フィオナちゃんが自分で言った事だし」
「それはそうだけどっ!」
フィオナちゃんは半泣きになりながら訴えたが、特にフィオナちゃんの味方となってくれる人は居ないのだった。




