第122話『発掘された|宝石《プレゼント》』
年越しパーティの準備で戦力外となってしまった俺とココちゃんであるが。
ココちゃんはココちゃんらしい方法で、パーティを盛り上げようと頑張っていた。
暗い洞窟の中、俺が持っている松明の灯りだけを頼りに、ココちゃんは一生懸命レーダーで見つけた何かの鉱石を掘っていた。
レーダーで見ている内はどんな鉱石か分からない為、掘ってみるしかない。
かなりしんどい作業であるが、それでもココちゃんは真っすぐに地面を見つめながらスコップを振り下ろすのだ。
「っほ、っほ」
「後少しだ」
「うん……!」
額に流れた汗を袖で拭いながら、ココちゃんは笑う。
手には子供用のスコップを持ち、掘っている先からは、少しだけ紅い色の欠片が見えていた。
ここまで何個か外れ……という訳でも無いのだけれど。
綺麗な宝石じゃない鉱石を見つけてきたせいか、ココちゃんの顔にもやや焦りの色が浮かんでいる。
疲れがあるのだろう。
早く見つけたいという気持ちがあるのだろう。
そして、何よりも、目の前にようやく見つけた綺麗な石の欠片があり、早く掘り起こしたいという喜びがあるのだろう。
ココちゃんは疲れているだろうに、頑張って地面にスコップをあてて、宝石の周りを綺麗に掘り進めてゆく。
それからどれだけ掘っていたか。
紅い宝石の周囲は綺麗に削り取られ、後は手で取り出すだけとなった。
「もう取れそうだね」
「……うん」
ココちゃんは大きく深呼吸をして、紅い宝石に手を伸ばした。
そして、それを手に取って、土の中から取り出して、両手で持ち上げながら見つめる。
薄暗い洞窟の中、松明の火で照らされた紅い宝石は、角度を変えるだけでキラキラと輝き、俺たちの目を楽しませるのだった。
「……きれい」
「そうだね。とても素敵だ」
「うん……!」
「じゃ今日はそろそろ終わろうか。もう疲れてるだろう?」
「……わかった」
終わろうかと言った瞬間にふらついたココちゃんを抱きとめて、俺はゲームを終了させる。
ココちゃんはすっかり疲れてしまっていて、俺に抱き上げられたまま目を閉じてやや早い呼吸を繰り返しているのだった。
「お疲れ様。だいぶ疲れてるし、少し休んでからお風呂に入ろうか」
「……ここ、いま、はいりたい」
「そうなのかい? でも向こうはまだ準備してるみたいだし、ココちゃんも一人でお風呂に入るのは無理だろう?」
「……うん」
「どうしたモンかな」
俺はふむとココちゃんを抱き上げたまま折版案を考え、俺がココちゃんをお風呂に入れる事にした。
無論、水着を着た状態でだ。
流石に裸というのは教育上良くないと考える。
という訳で、ココちゃんには着替えてもらい、俺も着替えて二人でお風呂場へと向かった。
とりあえずココちゃんの体で、洗える場所は洗い、デリケートな場所はココちゃんに頑張って貰う。
ある程度洗い終わったら、ココちゃんを抱き上げたまま温泉に入り、ココちゃんが溺れない様に後ろから抱きかかえたままゆっくりとするのだった。
「あー」
「あー」
ココちゃんと二人で、疲れを吐き出すように意味のない言葉を風呂場に響かせながら、天井を眺める。
視線を外していても、体はしっかりと固定している為、溺れる心配は無いだろう。
「……お姉ちゃん、よろこんでくれるかな」
「あぁ、きっと喜んでくれるさ」
「なら、嬉しいなぁ」
ココちゃんはホッと息を吐きながら嬉しそうな声で呟いた。
そんなココちゃんの言葉を聞いていると、俺は何となくここまで聞いてこなかった事を聞いてみたくなる。
「ココちゃんはさ」
「……うん?」
「桜と姉妹になれて良かった?」
「うん。よかった。すごくうれしかった」
「そっか」
「お兄ちゃんが、ココを見つけてくれて、お姉ちゃんがココの手を繋いでくれて、みんなが一緒に笑ってくれるから、ココは、すごくしあわせなの」
あえて聞く必要のない質問だったかな、なんて思いながら、俺はココちゃんにお礼を言おうとした。
しかし、その前にココちゃんから問いが届く。
「お兄ちゃんは、ココといっしょにいて、うれしい?」
「当然だろう? 大切な宝物が増えて、とてもとても嬉しいよ。いつまでも一緒にいたいくらいさ」
「……ふふ。そうなんだ」
「いつか、ココちゃんが成長して、誰かを好きになって、その人と共に歩むまで、こうして近くで見守ってるよ」
「だれかを好きになったら、お別れ?」
「まぁ、この家を出て、セオストに住み続けるのなら、ある程度近くにはいるだろうけど、同じ家に住むのは難しいだろうね」
「なんで……?」
「子供はいつか親の元を離れるからだよ。俺は親じゃなくて兄だけど、親代わりみたいなものだからさ」
こっちの世界でも花嫁衣装みたいなものがあるのか、それは分からないが……愛した人の隣で笑うココちゃんは、きっとどんな星よりも、宝石よりも綺麗だろう。
決して終わらない幸せの中で笑っていて欲しいと願ってしまう。
「……ココ、ずっとお兄ちゃんの傍にいたいな」
「大丈夫だよ。ココちゃんはまだまだ子供だから、俺は傍にいるよ。ココちゃんがここにいる限りね」
「んー」
ココちゃんは俺に体重を預けながら、言葉を零した。
先ほどよりも疲れが取れたのか、はたまたもう眠くなってしまったのか。
ペタリと頭に付けながらもたまに小さく動く耳を見ていると、特に体調が悪いという事も無いように見える。
それに安心しつつ、俺は小さく息を吐いて、天井を眺めるのだった。
それから。
ゆっくりと風呂に入っていた俺とココちゃんは、適当な所で風呂から上がり、新しい服に着替えてリビングへと戻った。
が、まだまだ準備が慌ただしく行われており、俺たちは邪魔をしない様にそっと二階へと戻るのだった。
そして、ココちゃんも疲れているし、それぞれの部屋で寝ようか。
と言おうとしたのだが、俺の服を掴んだまま悲しそうな顔をしているココちゃんにそんな事は言えず、俺はココちゃんを抱き上げて、一緒に寝る事にするのだった。
部屋に帰り、いつもより少しだけ狭くなったベッドで、俺はココちゃんと並んで横になる。
「おにいちゃんの、むかしのはなし、ききたい」
もう半分くらい寝ているココちゃんにねだられ、俺はこの世界に来る前の話を少しだけする事にした。
「セオストに来る前は、結構静かな場所で生活してたんだ。人も少なくて、時間の流れがゆっくりで」
「……うん」
「だから、正直神刀を握って戦ったのはこの街に来てからなんだよ」
「そうなんだ」
「まぁ、剣道……いや、戦いの訓練はしてたから、本当に何にも知らないって訳じゃないけどね」
「……うみゅ」
「……眠そうだね」
「まだ、おきてるから、ききたい」
「わかったよ」
俺はココちゃんの要望に応え、しかし声は先ほどよりも少しだけ小さくしながら続きを話す。
「一応前の場所じゃ、誰よりも強かったからさ。戦う事には自信があったんだよ」
「……ん」
「だから、俺としては嬉しいっていう気持ちもあるかもしれない。桜やココちゃん達を守る事が出来るからね」
「……」
「……寝た、かな?」
俺は小さな寝息を立てながらあどけない顔で寝ているココちゃんに笑いかけ、そのまま寝ようとした。
しかし、部屋の外を歩く人の気配にベッドから立ち上がり、部屋の外へと向かう。
無論、ココちゃんを起こさない様に細心の注意を払って、だ。
「……っ! おにっ……!」
「シー。ココちゃんがもう寝てるから静かにね」
人差し指を口の前で立てながら俺は桜に静かにしてもらう。
そして、桜は声をだいぶ小さくしながら喋り始めた。
「さっきはごめんね。追い出す感じになっちゃって」
「別に構わないよ。ココちゃんが危なかったんだろ?」
「うん……そう。でも、実はそれだけじゃなくてさ」
「うん?」
「ほら、この家に来てからココちゃんずっと頑張ってるでしょ?」
「あぁ」
「だから、ありがとうって、特別なプレゼントを贈ろうって話になって」
「なるほど。内緒のプレゼントか」
「そういう事。だからさ」
「分かったよ。こっちは任せてくれ」
「……ありがとう。お兄ちゃん」
俺は優しい桜に笑いかけて、また静かに部屋の中へ戻った。
ココちゃんは静かにベッドの上で寝ており、俺もその隣で静かに眠るのだった。




