第12話『|食堂少女《ホワイトリリィ》との出会い』
ちょうど良く。
という言葉が合っているのか分からないが、ヴィルヘルムさんが例の子達と共に、食事を持ってきた事で、俺はアレクシスさんに先ほどの話を振って貰う事にした。
「待たせたな」
「はーい。お待たせしました。焼き鳥サンド4つでーす!」
「飲み物もどうぞ」
元気な声と共に笑顔が眩しい金髪の少女が、巨大なハンバーガーの乗った皿を俺達のテーブルに置いてゆき、黒髪の大人しい雰囲気の少女が両手で持っていたコップをテーブルの上に置いてゆく。
「以上ですかね」
「おい、フィオナ」
「なんですかー? アレクシスさん」
「ホワイトリリィの新メンバーに興味はねぇか」
「……ふ、ふーん。そんな事言って! また騙そうとしてるんでしょ! 変なロボットとか! 魔物とか!」
「いんや。今回はちゃんと人間だ。ほれ、そこに居る二人だよ」
「え!? 人間!? 本当に!?」
フィオナと呼ばれた子は俺と桜をマジマジと見た後、涙を滲ませた。
よほど嬉しいのか、喜びで震えている様にも見える。
いったい何があったんだ……。
「しかもな。リョウとサクラは新人の冒険者でな。何も知らないんだ。色々と教えてやってくれよ。セ・ン・パ・イ」
「こ、後輩!? 私が、先輩!! 良いよ! うんうん! 私が何でも教えるからね!」
「くっくっく」
「アレク。悪趣味だぞ」
「やかましい。誰も損してねぇんだから別に良いだろ?」
「……ったく」
何やら不穏な会話をしている様な気もするが、流石に何か事件になる様な事とか、命が危ない様な事は無いのだろう。
と、俺は信じてとりあえず流す事にするのだった。
流石にそこまでの悪人ではないと信じている。
「ま。という訳でだ。リョウ、サクラの冒険者登録と」
「ホワイトリリィの新メンバー追加にー! カンパーイ!!」
「乾杯」
「……か、かんぱい」
それから。
何故か流れで一緒にお昼を食べる事になったホワイトリリィの二人と共に乾杯をして、俺も例のアレを食べることになったのだが……。
で、デカい。
両手でハンバーガーの様な物を持ったのだが、とにかく全てがデカい。
しっかり持たないと落ちてしまうくらいには重量がある。
一応串は入ってなくて、驚くくらいデカい一枚肉が焼かれてパンに挟まれているだけだ。
なるほど。焼き鳥サンド。
しかし、これは……なんだ? 前の世界で食べたハンバーガーの何個分だ?
少なくとも十個分くらいはありそうだが……。
「……桜。無理して食べなくても良いからな」
「うん」
「あ、じゃあサクラちゃんの分は私とリリィの三人で分けようか! 私達はご飯が無いの~。おねがーい。分けてくれると嬉しいな」
「……うん。いいよ」
「わぁーい。ありがとう。サクラちゃん」
お、おぉ……。
非常に珍しい事ではあるが、人見知りの桜が初対面のフィオナちゃんに懐いている。
これはとても良い傾向だな。と思いながら俺は巨大なハンバーガーと格闘するのだった。
そして、あまりにも濃いソースの味に、俺はジュースを口にしたのだが。
……濃っ!
ジュースも濃い!
「っ!」
「どうした? リョウ」
「いえ。だいぶ濃いなと思いまして」
「あぁ、冒険者なんてのは体動かす仕事ばかりだからな。飯は大抵濃いんだよ」
「なるほど」
俺は軽くむせながら、周囲に視線を走らせるが、このテーブルに居る人間も、周囲の人間も気にせず食べ飲みしている様だった。
強いと言うか、何と言うか。
「そういえばリョウ。お前、冒険者ランクはどうなった?」
「オリビアさんの話では、おそらく一番下のFランクからスタートという話でしたね」
「そりゃそうか」
「えぇ」
ヴィルヘルムさんの質問に答えていると、不意にリリィと呼ばれた子から視線が向けられる。
桜の様に、ジッと無言で見つめてくる感じだ。
「えと?」
「……Fクラス、ですか?」
「そうだね。そう言われたよ」
「Fクラス……」
眉間にしわを寄せながら、何か納得できないとでもいう様な顔でリリィちゃんは俺を見つめた。
なんだ?
何かあるのか?
「あ、リョウさん。でしたよね?」
「あぁ」
「リョウさんはFランクなんですね! ちなみに私たちはDランクです!! 二つ上です!」
とても嬉しそうに、誇らしげに胸を張るフィオナちゃんを見て、微笑ましい気持ちになる。
なんだろうか。子犬に懐かれた時の気持ちというか。
褒めて欲しいと飛び回る小動物を見ている気持ちだ。
「そうか。ならフィオナちゃんはとても優秀な冒険者なんだね」
「~~! そうですか!? そう見えますか!?」
見えるか? と問われると微妙だが、現実問題俺よりもランクが上なのだから、少なくとも俺よりは優秀だ。
それは間違いない。
「え、えぇまぁ」
「やっぱり? そう見えますよねぇー!?」
「おいおい。フィオナ。あんまり後輩を虐めてやるなよ。困ってんだろうが」
「別に虐めてません!!」
「そうか。お前には『そう』見えるのか……」
アレクシスさんが酷く深刻そうな顔をしながらフィオナちゃんに告げた事で、フィオナちゃんは戸惑った様な顔をしながら周囲をキョロキョロと見て、俺の方にも視線を向ける。
迷子の子供の様な顔だ。
元々、フィオナちゃん自体がかなり幼い見た目をしているからか、余計に子供らしさが強調されてしまう。
「え、あの、わたし……えと、その」
「ぷっ、くく、ワハハハ! ヒーヒー、腹が痛い」
「~~!! アレクさん!! 私を騙したんですね!!」
「くっくっく、別に騙してなんかねぇよ。お前が勝手に騙されただけだろ?」
「この! あぁ言えばこういう!!」
「わはは。強く生きろよ。フィオナ」
「もー!!」
フィオナちゃんがアレクシスさんにからかわれ、叫びながら過ぎていったお昼も終わり。
俺達は再び冒険者組合の受付に戻って、オリビアさんに話しかけていた。
「お待たせしました。お昼は食堂でとられていたんですね」
「えぇ。アレクシスさん達にご馳走になりました」
「あの方たちらしいですね」
「そうなんですね」
「はい。よく新人の冒険者さんや、悩んでいる冒険者さんを見つけては食堂で一緒に食べて飲んで、騒いでいますよ」
「……なるほど」
何だかんだと言いながらも面倒見がいい人たちなんだなと思いながら、俺は小さく頷いた。
そして、いよいよ俺たちの冒険者登録も終わり、俺達の名前とランクが刻まれたドッグタグが渡された。
「こちらにリョウ様とサクラ様の名前やランク、そして冒険者番号が登録されておりますので、何かあった際にはこちらを提示して下さい」
「はい」
「今後、何かトラブルがあった際に、お二人の身分は冒険者組合で保証する事になりますが、犯罪行為等を行った場合、冒険者としての身分をはく奪する場合もあるのでご留意をお願いします」
「分かりました」
「そして、最後に」
「……」
「この冒険者証は、特殊な金属を加工して作っている為、非常に頑丈な物です。例えば、魔物に食べられたとしても、強力な攻撃を受けたとしても形が残っている可能性が高い」
「……はい」
「ですから、もしどこかでこの冒険者証を見つけた際には、冒険者組合まで届けていただけますと幸いです。これが遺族への唯一の遺品となる事もありますから」
「分かりました」
「ではお話は以上となります。その他注意事項に関しましてはそれぞれの施設や依頼の際にご説明させていただきます」
「ありがとうございます」
俺と桜は冒険者証を受け取り、軽く頭を下げた。
最後にした説明は、遺品を回収して欲しいという依頼であり……覚悟をしておけという言葉でもあったのだろう。
何かあった時には容易く命を落とし、さらにはその死さえ、どこかに打ち捨てられる可能性があるのだと。
分かっている。
あの森で出会った巨大なイノシシの様な魔物が多く存在している世界だ。
どれだけの危険がこの世界にあるのか分からないが、ただ呑気に生きる事が出来ない世界だという事は分かっている。
だが、だとしても。
そんな危険が溢れた世界だとしても。
桜は絶対にそんな目には遭わせない。
そんな覚悟で俺は強く拳を握りしめた。
「では、話は以上となりますので、後は施設の紹介に参りましょうか。お二人の家にもお連れしないといけませんしね」
「もう家が用意されているんですか?」
「えぇ。せっかく来て下さった将来有望な冒険者さん達に野宿をして貰う訳にはいきませんからね」
「……ありがたいです」
「いえいえ。では、まずはお二人の新居に向かいましょうか。荷物を持ち続けるのも大変ですしね」
オリビアさんの笑顔に癒され、桜に足を踏まれながら俺たちは新しい住居へとまずは向かう事になったのである。
……痛いよ、桜。




