第114話『その眼は|真実《イカサマ》を見逃さない』
提示されたデータを見ながら俺はテーブルの上にも視線を向ける。
バトルフィールドには、データに記された魔物が映っており、どういう位置から動き始めて、どこへ向かおうとしているのか、などが分かる。
後は魔物の好きな物や、戦いに関するデータ。
そして、現在の状態など色々な情報を見ながら、何が生き残るのかを当てるというワケだ。
中々難しいが……。
「まぁ、最初はよく分からないし。イエローチキンにコインを100枚賭けよう」
「ほう! イエローチキンかい? それは面白い選択だね!」
「そうなんですか?」
「あぁ。何せイエローチキンは初心者冒険者でも狩れる獲物だと言われるくらい弱い魔物だからね! まぁ角うさぎよりはマシだろうけどさ!」
「確かに」
「なら、どうする? やっぱり変えるかい?」
「いや、ゲームは遊び。遊びだからこそ楽しんでやらなきゃね。このままいこう」
「おー! 素晴らしい挑戦者だ! 遊びは楽しんでこそ! まさにその通りだね! じゃあ、ゲームスタートだ!」
店員さんの合図で始まったバトルフィールドの戦闘だが……広大な森の中に放たれた小さな魔物たちはそれぞれ好きな方向に向かって歩き回り、ぶつかった場所で戦闘が始まる。
そして、一匹、また一匹と敗北した魔物がバトルフィールドから姿を消すのだった。
しかし……!
「……これは!」
「想定通りだ」
「イエローチキンが、戦いを避けてバトルフィールドを走り回っているー!?」
店員さんの驚く様な声を聞きながら、俺は笑う。
魔物のデータを見た時、もしかしたらと思っていたのだが、それが現実となっていた。
イエローチキンは元々足の速い魔物だが、このバトルフィールドに居るイエローチキンは臆病で、通常の個体よりも足の早い個体と書かれていたのだ。
そして、このバトルフィールドでイエローチキンよりも足の速い魔物は存在しない。
という事は……!?
「こ、これは! なんという事だー! イエローチキン、既に半数の魔物が脱落する中ー! 走り続けている!」
「それだけじゃない」
俺はバトルフィールドを見つめながら呟いた。
そう。イエローチキンがバトルフィールドを走り回る事で、イエローチキンに襲い掛かろうとした魔物同士での争いが発生しているのだ。
目の前を走り抜けるイエローチキンに意識を奪われ、追いかけて走り出し、同じように走っている魔物と争う。
そんな事を繰り返しているウチに、バトルフィールドに多く存在していた魔物は全て倒れ、残りは二匹となっていた。
まぁ、こんな所か。
「これで決着ー! イエローチキンは2位という結果になりました! いやー惜しかったですね」
「そうですね。うまく共倒れみたいな形になって生き残ってくれればと思ったんですが……しょうがないですね。最後まで頑張ってくれたイエローチキンに感謝です」
「そうですね! では配当の方をお渡しさせていただきます! イエローチキンを予想し、見事2位となった! 倍率は100倍となってますので、お返しは1万コインだー!」
「ありがとうございます」
手で軽く持てるくらいの籠だが、そんなに入るか? と不安になりながら店員さんの動きを見ていた俺であったが。
大量のコインは籠の中に吸い込まれて行って、全てが綺麗に収まってしまった。
いやいや、どう考えてもおかしいでしょ。
「ちなみに! 現在所持しているコインの枚数は、籠の横に付いたキーホルダーでも確認できるから、見てみてね!」
「うん。ありがとうございます」
「では次のゲームを遊んでいくかい?」
「いや、もうこのゲームは大丈夫ですね。他のゲームを遊んでみます」
「分かりました! ではまた機会があればよろしくお願いいたします!」
店員さんは丁寧に頭を下げてくれ、俺もそんな店員さんに頭を下げながら、テーブルを離れた。
そして、ゲームを遊んでいる桜とココちゃんに近づきながら、すぐ背後で盗もうとしている男の腕を掴み、骨を軋ませながら捻り上げる。
「っ!?」
「……声を出すな。出せば死ぬ」
「……!」
涙目になりながら頷いている男の尻を蹴飛ばして、桜たちから遠ざけると、俺はゲームに熱中している二人に話しかけた。
「桜。ココちゃん。どんな感じだい?」
「あ、お兄ちゃん! 凄いんだよ! ココちゃんがね! 今すっごい勝ってるの!」
桜とココちゃんが遊んでいるゲームは、円形の盤の上に小さな丸い玉を回して、どの数字に止まるのかを当てるゲームの様だ。
そして、ココちゃんは回り始めた玉をジッと見ながら、テーブルの上にあったコインを全て赤い色の上に置く。
「あか、50コイン」
「おぉー!? いったー!」
「また当てるのかー!?」
「熱い! 熱いぞー!」
ココちゃんの行動に周囲は盛り上がり、叫び、興奮する。
「これは数字を当てるゲームじゃないのかい?」
「それだけじゃなくてね。ほら、赤と黒のマークが数字の下にあるでしょ? アレを当ててもコインが貰えるんだ」
「なるほど。簡単な賭けもあるんだね」
「簡単だけど、ココちゃんはもう七回も連続で当ててるんだから! 凄いよねー! ねーココちゃん」
「えへへ。お姉ちゃんと頑張ってる」
「凄いね。こりゃ二人が優勝候補かな」
「にへへ」
喜ぶ桜とココちゃんの頭を撫でつつ、俺は二人の傍を離れて玉を回している奴の背後に回り込んだ。
そして、先ほど周囲にはバレない様に動かしていた体の先、足元の辺りに視線を送る。
順調に回っていた玉は、この男が体を僅かに動かした瞬間、回り方を変えた。
おそらくは何かをやったのだろう。
「おぉーっと!? これは! 黒! 黒です!」
「え!?」
「ありゃー、外れちゃったね」
「え? え? なんで……? え?」
「大丈夫だよ。ココちゃん。またイチから頑張ろう」
「いや、ちがうの。ココ、まちがってない。でも、まちがっちゃって、おかしいの」
「ココちゃん?」
泣きそうなココちゃんを桜が抱きしめている姿を見ながら、俺は店員に近づいて囁いた。
「お前、イカサマをしているな?」
「な、なんの話でしょうか」
「次、誤魔化した場合死ぬ。右足の先にあの円盤を傾ける仕掛けがあるな? それで出目を変えた。途中、明らかに不自然な動きをしていたぞ」
「う……」
「も、申し訳ございません……!」
「なら、言うことがあるだろ? ココちゃんはおかしいって、イカサマを指摘したんだぞ。なぁ?」
「せ、正解でございますー!!」
「え?」
「ふぇ?」
突然の大声に驚き、目を見開く二人へ、店員が元気よく声をかけた。
「先ほど、おかしいとおっしゃられましたね!」
「う、うん」
「見事、私のイカサマを見破られたので! 1000コインを差し上げます!」
「1000コイン!? ココちゃん! 凄いよ! 1000コインだって!」
「すごい……! すごい……!」
俺は喜ぶ二人を見ながら、そっとテーブルから離れる。
店員にはしっかりと釘を刺しておきながら。
「次はない。俺はどこからでも見ているぞ」
「……承知いたしました」
そして俺は桜とココちゃんのテーブルを離れながら、ひとまず近くを歩いていた店員さんを捕まえて話しかけた。
「申し訳ない。聞きたいことがあるのですが」
「はい。なんでしょうか」
「コインはどうやったら減らす事が出来るんでしょう」
「……お客様は何を仰っているので?」
「このままじゃ、ココちゃん達より俺の方が多くなっちゃうんだよ! とにかく捨てる方法でも良いから、教えてくれ!」
「残念ながらゲームで負ける以外に方法はございません」
「くっ、なら……! 一番難しいゲームを教えてくれ」
「承知いたしました」
そして、俺は桜とココちゃんよりも枚数を減らす為、最難関のゲームへと挑むのだった。
家族の優勝を阻む者は誰であろうと排除する!
そう! その相手が俺であろうとも!!




