エピローグ
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「こんにちは」
オレリアが占い店の扉を開けると、チリンというベルの音で気づいたのか、奥から砂漠の砂色の髪をした占い師が姿を現した。
「おや、あんたは……」
「お礼を持ってきました」
オレリアの手には左の中指から外れた指輪と、それからお金の入った袋がある。
「その顔を見ると、いい未来が手に入ったようだね」
占い師が手招いたのでオレリアが席に座ると、占い師はカードの束を目の前に扇状に広げた。
「一枚引いてみな」
言われて、オレリアはカードの中から一枚を選んで占い師に渡す。
彼女はカードを確かめて、そして嫣然と微笑んだ。
「やっぱりこのカードだったね」
「え?」
「いや、何でもないよ」
占い師はカードをひとまとめにするとテーブルの端に置いて、オレリアの手から指輪を受け取る。
「報酬は結構だよ」
「え? どうしてですか?」
「あたしにも事情があるのさ」
占い師はそう言って顔を上げると、店の扉の奥へ視線を向けた。
新しい客でも来たのだろうかとオレリアも振り返ったが、特に誰かが入ってくる様子はない。
(?)
不思議に思っていると、占い師はオレリアの頭をポンと撫でた。
「ほら、もうお行き。外にいい人が待っているんだろう? あんまり待たせるものじゃない」
オレリアは驚いた。
確かにここへはルクレールと一緒に来て、彼は店の外でオレリアの用事がすむのを待ってくれている。
「どうしてわかったんですか?」
「占い師をなめるんじゃないよ。ほら、お帰り。もうここへは来るんじゃないよ」
「でも、やっぱりお金……」
「だから、いらないよ」
占い師はひらひらと手を振る。
お金を渡さずに帰るのは躊躇われたが、無理やり押し付けるのも違う気がして、オレリアは迷った末にぺこりと頭を下げた。
「本当にありがとうございました。じゃあ、せめて……そう、その指輪を買い取ります」
「この指輪には、もう何の効力もないよ?」
「いいんです。思い出として、取っておきます」
「そうかい。じゃあ、この値段だけもらおうかね」
オレリアはホッとして、指輪の代金として金貨一枚を占い師に渡すと、もう一度頭を下げて店を出た。
店のすぐ近くで待っていたルクレールが、微笑んで手を差し出してくる。
「用事は終わった?」
「はい」
「じゃあ、次はどこへ行こうか」
今日は、ルクレールとの初デートだ。
占いの店にお礼に行くと言うと、せっかくだからデートをしようと誘われたのである。
「ふふ、どこへ行きましょうか」
指を絡めて、笑いあいながらゆっくりと道を歩く。
ただ歩いて、たくさんおしゃべりをして笑いあって、それだけで充分幸せだから、目的地なんてどこでもよかった。
(幸せ……)
透明になったときはどうしようかと思ったけれど、占い師の言った通り、オレリアの望んだ幸せな未来が手に入った気がする。
オレリアはルクレールと並んで歩きながら、ちらりと肩越しに振り返った。
(本当に、ありがとうございました)
ここへ来なければ、この未来はなかっただろう。
オレリアは記念に買い取った指輪をぎゅっと握りしめて、家に帰ったら、奇妙な三か月間の思い出として、宝箱の中にそっとしまっておこうと思った。
☆
「行った、か」
占い師は小さくつぶやいて、それからゆっくりとカードを一枚めくった。
そこに書かれていた絵柄を見て、小さく笑う。
「……やっぱりね。あんたの運命はあの子だったよ」
昔、一人の年下の男に恋をした。
けれども彼女は本当は占い師だったから――
「幸せにね」
彼女はカードを置いて立ち上がる。
アデライド――優しい声でそう呼んだ、少年のことを思い出しながら、彼女は店の扉にクローズの看板を掲げた。
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