義母と透明になった義娘の三日間 1
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オレリアが透明になって、もうじき一か月が経とうとしていた。
義母リアーヌは、明日の朝王都に到着する予定だ。
オレリアが透明になったことは、手紙などで知らせるわけにもいかないので、まだリアーヌには告げていない。
(お義母様、驚いてひっくり返らないといいけど)
リアーヌはまだ四十四歳なので、驚いたからと言って心臓麻痺を起こすような年齢ではないと思うが心配だ。
「どうした、オレリア、手が止まっているが」
宙に浮いているカトラリーが動きを止めたことに気がついたようで、ルクレールが心配そうな顔をした。
この一か月、ルクレールはびっくりするほどに優しい。
優しすぎて、ちょっと怖いくらいだ。
使用人全員にオレリアが透明になったことを周知したので、ダイニングで普通に食事を摂っているけれど、その際も、ルクレールはカトラリーの動きをよく見ている。
「今日の朝食で、君の苦手なものはなかったと思うが……」
オレリアはカトラリーを置くと、部屋から移動する際も持ち歩いている日記帳に素早くペンを走らせた。
――ちょっと考え事をしていただけです。今日の朝食も、とても美味しいですよ。
日記帳をルクレールの方へ押しやれば、それを読んだ彼がホッと息をつく。
「そうか。よかった」
オレリアが食事を再開すると、ルクレールが思い出したように言った。
「明日、母上が到着するんだが」
まさにオレリアが考えていたことを言われて、オレリアはまたカトラリーを動かすのを止めた。「ああ、食事をしながら聞いてくれ」
「はい」
聞こえないとわかっていても返事をして、オレリアはオムレツを口に運ぶ。
「ええっと、まず、君がその、透明になってしまったことについては、俺から母上に説明しようと思う。ただ、言っても信じてくれないと思うから、そのあとで君に、文字を書くなりものを動かすなり、何らかの協力を頼むことになるのだが、大丈夫だろうか」
オレリアは、手元に置いてあるベルをチリンと鳴らした。
一回なら「イエス」。ジョゼとの間で決めたこのやり取りは、今や邸中のみんなに対して使用している。意外と便利だ。
「あの人は見た目よりもずっと図太い性格をしているから、おそらく大丈夫だとは思うが、できるだけショックを受けないように告げようと思う。……無理だとは思うけれど」
オレリアはまたチリンとベルを鳴らした。
「滞在は三日だと言っていた」
リアーヌは新しいコデルリエ伯爵家の女主人となったオレリアに気を使って、あまり長期滞在をしない傾向にある。
オレリアとしてはもっとゆっくりしてくれても構わないのだが、透明になっている今の状況ではリアーヌを心配させるだけなので、そのくらいがちょうどいいのかもしれない。
ベルを一回鳴らすと、ルクレールはコキコキと首を鳴らして、はあと息を吐き出した。
「またいろいろ言われるんだろうな……」
その疲れたような声に、ふふ、とオレリアは笑う。
オレリアに対して、ルクレールがこのように表情豊かな態度を取ってくれるのが、本当に嬉しい。
一か月前までは、彼は難しい顔で黙々と食事を摂っていただけだったから。
(透明にならなければ、ルクレールが表情豊かな方だって今も知らないままだったでしょうね)
そう考えると、この一か月の透明人間生活は、意外と悪くない気がしてきたオレリアだった。





