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4 夜の住人

『アディーナ、アディーナ起きて』


 声を掛けられ、冷たい冷気が頬を掠める。


 ぱちりと目を開けたアディーナが寝台に起き上がった。


「母上さま」


 起き上がった彼女の目には、うっすらと白く輝く女性の姿が写った。


『わしもおるぞ』


「じじさま」


 反対の方を見ると、そちらにも白く輝く老男の姿があった。


『今日はどうだったの?』

「それが、わたし……まりょくなしだった」

『まあ』『なんと』


 二人は同時に声を発する。


『それであの人はご機嫌斜めだったのね』

『気持ちはわからんでもないが、冷たい男だな』

「でも、わたしがわるいこだから」

『そんなことはないわ』

『そうだよ。お前は私の可愛い孫娘だ。死んだ後もこうやって孫娘と話ができるおじいなど、わしくらいなものだ。それもお前のおかげだ』

『私もこうやってあなたの成長を見守れて、話ができるのはあなただから』

「わたしも、母上さまとじじさまとお話が出来てうれしい」


 女性はアディーナを生んで亡くなった母のエレノーラで、男性はアディーナが生まれる前に亡くなった祖父のハニエルだ。


 アディーナにはなぜか死者の霊魂が見える。

 彼女が小さいときから二人が傍にいて、何かと彼女に構うので、彼女は他の人から見たら奇異の存在だった。


 赤ん坊の頃からアディーナが泣くと母のエレノーラがあやし、おかげで彼女は手間のかからない子と言われた。


 話しかけるだけで、触れることはできないが、こうして夜になったらはっきり姿が見えて、彼女は一度も寂しいと思ったことはない。


 アディーナが父親を前にしてあれほど完璧なカーテシーができたのも、母の教えがあったからだ。


『まあ、悔やんでも仕方ない。魔力がないならないだけの将来を考えればいいのだ』

『そうね。成人までに私たちに教えられるだけのことを教えてあげるわ』

『わしらは厳しいぞ。覚悟しておけよ』


『お義父さま。まだこの子は五歳ですのよ。あまり無茶はなさらないでくださいね』

『わ、わかっておる』


『それより、あの後妻とその娘はどうだったの』


 あの後妻とは、もちろん母屋にいる継母とその娘でアディーナの異母妹のことだ。


「どちらもおもしろかったです」

『おもしろかった?』

『変わった守護霊でもついておったか』

「はい」


 アディーナには母たち意外にも霊が見える。

 今日初めて対面した義理の母と異母妹にも傍に付き添う霊がいる。


「おとうさんのおくさんのは、すっごく太っちょのおじさんと棒みたいに細いおばさんか付いてた。二人ともわたしに向かって唸ってた。シャンティエにはひょろひょろのおじさんととってもはでなおばさんの霊が付いてた。あの人たちも何だか私をにらんでた」


『ふう………あいつら……アディーナを威嚇しおってからに』

『本当に…困った人達……』


 二人は揃って額に手を置きため息を吐いた。


「誰?」


 二人が彼女たちに付いていた霊を知っているような口ぶりだった。


『サマンサの方の霊は彼女の実家の方の先祖だろうからワシは知らないが、シャンティエの方は我が家の一員だった』


『わたしたちはあなたを護るためにあなたに流れる血を絆としてあなたの側にいるの』

『我らは……まあ、そなたを守護する霊。守護霊だな。当然、誰にでも最低二人はいる。そして守護霊にも色々ある。亡くなった血縁の者が付くことが多い。その者が生まれた時、霊が自ら志願するのだ』

「しが…ん?」


『あなたには難しい言葉だったわね。つまり霊が生まれた子孫を見て、その子の側にいたいと願うの。私の場合はあなたを生んで亡くなったから、例外に当たるけれど、神様が特別に認めてくれたの』

『シャンティエに付いている霊は、我が家の歴史の中でも恥ずかしい先祖の部類に入る。ジャイルとアニース……シャンティエに付いている霊だが、つまりはあまり格が良くない霊だ。下手に関わるとろくなことがない』

『そうね、他人を妬んだり恨んだり貶めようとしたり、そんな気持ちを持った霊に引っ張られて、あのシャンティエもそんな人間になってしまうわね』

『さよう、幸いあの子はアディーナの外見に怯えている。腹立たしいが、それを利用してあまり関わらないことだ』

「はい、わかりました」


 アディーナも、今日会った彼女たちの霊は攻撃的で嫌いだった。


『それより、そろそろ色んな勉強を始めよう。剣の稽古や領地運営、ワシが持っている知識を全部アディーナに授けよう』

『私も、マナーや音楽、刺繍やお茶会の作法、娘が生まれたら教えてあげようと思っていたことがいっぱいあるの』


 二人はそう言って頷きあった。


 人のまったく寄り付かない離れでそうやってアディーナは乳母と母と祖父に見守られながら生活した。


 そして鑑定の日から十年の歳月が流れた。


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