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3 夜の帳が降りる頃

 魔力なしの判定を聞いて、公爵は顔面蒼白になった。


 名門で知られるヴォルカティーニ家の中から、よもやそんな者が出るとは思わなかった。


 魔力のない者が、これまで一人もいなかったわけではない。

 神殿には、数多くの魔力を持たない者がいた記録がある。


 だが、それは極少数。ヴォルカティーニ家の歴史では初めてのことだった。


「どこまでお前は私を失望させるのだ」


 鑑定が終わり、一人で階段下にうずくまって待っていたアディーナが差し出した鑑定書を見て、公爵は失望の色が隠せなかった。


「ごめんなさい。父上さま」


「魔力なしの娘など、たとえ平民でも貰い手などない。これからも離れで隠れて過ごせ。お前の身の振り方はいずれ考える」


 邸に戻ると、公爵はそう言ってアディーナを一度も振り返ることなく、彼女を置き去りにして去っていった。


 立ち去る父親の後ろ姿を見送ると、アディーナはとぼとぼと離れに向かって一人歩いて行く。


 母の命と引き換えに生まれた黒髪黒目の不吉な子と言われても、まだ幼い子どもである。


「おとうしゃま、おかえりなさい」


 玄関では父親の帰りを母と共に迎える、もう一人の公爵の娘の声が聞こえる。


「ただいま、シャンティエ。いい子にしていたか?」

「シャンティエ、今日は歌のお稽古で先生に誉められたことをお父様に報告しなくては」

「おお、それはすごいな。シャンティエの歌声ならきっと天使の声であろう。ライルも今日は健やかであったか」


 仲睦まじく寄り添う四人とは対称的に小さな体を丸めて肩を落として歩くアディーナの姿を見て、御者は心を痛めた。


「おかえりなさいませ、アディーナさま」


「ただいま、カレン」


 離れに着くと、そんなアディーナを乳母のカレンが出迎えた。


 カレンはアディーナをぎゅっと抱き締める。


 母を亡くし、父からも顧みられることのない彼女に取って、唯一人の温かさを教えてくれるのがカレンだった。


 夫を事故で亡くし、貧しさから息子も亡くした後、カレンはアディーナの乳母となった。


「いかがでしたか?」

「うん……わたしってまりょくなしなんだって」

「………まあ……」


 カレンは自分に抱きつく小さな幼子にかける言葉が見つからなかった。


「神様は、なぜアディーナさまにこのような試練をお与えになるのでしょう」


「カレン、つかれたよ」


「ああ、そうですね。初めてお屋敷の外に出られたのですから。先にお風呂に入りますか。それからご飯にしましょうね」


「うん」


 カレンに世話をしてもらってお風呂に入り、食事を取りながらアディーナはうつらうつらと居眠りをしてしまった。


 そのままカレンは下男に命じて彼女を寝室まで運ばせた。


 この離れにいるのはカレンとアディーナだけ。他の者は皆通いだ。カレンの次に長くいるのが下男のマイクで、他の皆はアディーナに触れるのも嫌がる。


 すやすやと可愛らしい寝息を立てて眠るアディーナを眺めながら、カレンは彼女の境遇を思い涙するのだった。


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