13 魔力の痕跡
何とか家にたどり着いた時には、息が上がっていた。全速力で走ったので足はガクガクだ。
『アディーナ様、何があったのですか?』
ダニエルが訊ねた。
「それが…」
起こった出来事を、アディーナはダニエルに話した。
『すみません……私のせいでご迷惑をおかけしました』
ハンスが責任を感じて、しゅんと項垂れる。
「気にしないでください。それに目的は果たせたから、結果良好だよ」
水を一気に飲み、呼吸が落ち着いた頃にアディーナがそう言うと、ハンスはほっと笑顔を見せた。
「それに、信じるか信じないかわからないけど、ジャクソンのことも伝えられたしね。これこそ怪我の功名?」
『何とか逃げ切れたな』
そこへ祖父が戻ってきた。
「おじい、ありがとう」
『アディーナが無事で良かった』
「それで彼は?」
『護衛騎士たちが駆けつけて、合流した』
「まさか、傷つけたりしていないよね」
『その点は心配ない。しかし術者がいなくなっても石が飛んでくるので驚いてはいたな』
「魔法で攻撃されていると思っていたら、そうでしょうね」
事前に術式を書いていたのならまだしも、普通は魔法を放つ者がその場にいなければ、攻撃を仕掛けることはできない。
彼の驚きは容易に想像できた。
実際は霊の力だから、魔法の痕跡を探しても無駄なことだ。
「まあ、正体はばれていないか……」
顔を見られずに済んだだけ助かった。性別もばれていないとは思う。
「それにしても……あれって何だったのかな」
王子から何かが流れ込み、それがお腹のあたりに落ち着いたと思ったら、途端に魔法が解けた。その時のお腹に感じた熱は、今は綺麗に消え失せている。
『そのことじゃがのう』
祖父が何やら心当たりがあるのか、話し出した。
「おじい、何が起こったかわかる?」
『なぜそんなことが起こったのかはわからん。しかし、あの時流れ込んだのは、確かに王子の魔力だった』
「え?」
『そうね。まるで水が流れるように、あなたに殿下の魔力が流れていったのが見えたわ』
『拘束魔法が消え失せたのも、アディーナに流れ込んだ魔力が、術を掛けた王子自身の魔力に反応して、自然と解除されたのかも知れんな。何しろ魔法を掛けた本人に魔法を掛けているのだから』
「つまり……相殺して消え失せた?」
『そうとしか考えられん。そして王子の魔力を使って魔法を解除したのはアディーナ、そなたじゃ』
「魔法……あれが、魔力?」
あの時の感覚は、すごく気持ち良かったこと思い出した。しかしそれも、今はもう何も感じない。
『逃げようとする時にも同じ魔法を放ったようだが、それもアディーナの体に吸収されたようだ』
『しかし、他人の魔力を流されるのは、辛くてきつい筈です』
『そうねぇ……いくら相性がよくても他人の魔力には拒絶反応してしまうものですけど……』
『例外はあの時くらいじゃな』
『いやですわ、お義父上様、この子は成人前ですよ』
『わかっておる。今回はそういうことではない』
「あの時って?」
なぜか顔を赤らめる母に対して、男性三人はニヤニヤしている。それに成人しているかしていないかで、何が変わるというのか。
『あなたにはまだ早いわ。来年…そう、あなたが成人の儀を無事に終えたら、教えて上げます』
「ええ〜、すごく気になる。私だけ知らないの?」
一人疎外感を感じて、アディーナが頬を膨らませて拗ねる。
『さあさあ、アディーナ、いつまでもその格好では寛げませんよ、着替えしましょう』
『そうじゃな、今夜はもう休め、霊力を注いで疲れただろう』
「あれくらい、何ともありません」
そう言いながらも、王子とのやり取りに疲れきって目蓋が重くなっている。
『アディーナ様、本当にありがとうございました。お陰で心残りが半分無くなりました。後は弟子にあなたのための道具を作らせたら、私は思い残すことはありません。あなたがいなかったらどうなったかわかりません』
「お役に立ててよかったです」
母に付き添われて寝室へ行き、『闇の天使』の衣裳をクローゼットの奥の羽目板を剥がした所へ隠す。
ネグリジェに着替えてベッドに潜り込むと、口ではああ言ったが疲れてしまい、朝陽が昇るまでにアディーナは眠りに落ちた。




