ナンデ?
そして、一週間後。旅立ちの日。
「お待たせっ!」
テンションが高いアウグストと、おつきのメイドさんが部屋にやってくる。
おつきのメイドさんは二人いて、一人がスーツケースのような大きめの箱を、もう一人が長い紐らしきものを持っている。
「おはよう」
対照的に、俺のテンションは非常に低い。
これから残念なことを伝えなくてはならないのだ。
「すまないアウグスト。俺は勇者として覚醒できなかった」
「かくせい?」
こてんと首を傾げながら、ちょっと考えて頭を振ると、彼女は腕を組んで俺を急かした。
「よくわからないけど、準備して!」
「ああ」
と言っても、俺の手荷物はほとんどない。転移前にポケットに入れたポケットティッシュ、栄養ドリンク、小銭入れ、ボールペン、それが全てだ。
腰に下げた冒険者用のポーチにアイテムを全部入れて、服を着たら、それで準備完了だ。
鎧とかも与えられず、俺は転移したときの恰好のままだった。移動先に鎧とか武具が準備されているのだろうか。
疑問に思う暇もなく、彼女は寄ってきて俺の手をつかんだ。
「それじゃあ、行きましょう!」
二人で手をつないで、俺は彼女に引っ張られる形で、ずんずんと王宮の出口へと進んでいく。後ろから、おつきのメイドさんたちがついてくる足音。
ほどなくして、王宮の出口についた。どうやら高台に立っているようだ。出口からは、町の様子がよく見えた。右手の遠くには山があり、左手には海。ここは海沿いの町なのか。王宮にずっと籠ってたから知らなかったな。
「さて、行くわ」
彼女が振り返り、親指を立てた。いい笑顔だ。
そういえば、この世界に来てからアウグストについて色々聞こうと思ってたけど、会う機会も少なかったし、彼女のことを実はあまり知らないな。
見送りの家族でも来ているのだろうか、と同じ方向に目線を投げてみると・・・王様!?
「アウグストよ。父として、言わせてほしい。必ず、必ず帰って来なさい」
「もちろん!」
なんと、王様はアウグストの父だった!
ええと、つまりアウグストは王女ってこと・・・か。確かに育ちが良いと感じることは多かったし、講義でも、魔法陣とか重要な研究結果は秘匿されて王室が管理しているとか、言っていた気がする。
そう思いながらアウグストを見ると、肩と腰に通す形で、紐を装着していた。
前世で似たようなものを見たことがあるぞ!これは・・・赤ちゃんのおんぶ紐のでっかいバージョンだ。
足を通しておんぶのような形で背負われる。紐があると固定することができるので背負うのが楽になるのだ。
・・・そういうことではなく。
「彦摩呂さま・・・って、もう王宮の外ってことでいいわよね。マーくん、乗って!」
「ナンデ?」
俺の鎧は?盾は?
いや、待って。女性に背負われるってどういうこと!?
俺はタンクじゃなかったの?
「俺はタンクなんだよな?」
「ええ、私のタンクよ!」
「確認なんだけど。前衛職のタンクではなく?」
「タンクと言えば、魔力タンクに決まってるじゃない!」
「決まってねえよ!なんでだよ!・・・・・・やめ、や、やめろぉ!」
メイドたちがじりじりと迫ってくる。
俺の突っ込みは誰にも共感してもらえず、抵抗の末、俺の体はアウグストの後ろに無理矢理くくりつけられた。
(魔力)タンクの勇者