謁見
異世界。
人間と、エルフやドワーフをはじめとした亜人が仲良く暮らす国。
もちろん、差別や格差、問題はある。
俺が転移した先、エルデン国の重役は人間ばかりだし、逆に衛兵は亜人ばかりだった。
身体能力、生殖能力、知能、そういった特徴に応じて役割分担されていると言えば聞こえはいいが。
ずる賢い人間がずる賢く君臨するというのは、人間と亜人が混ざる国家では、結局のところ、どの国でも同じようなことになるのかもしれない。
そんな感想を抱きながらの謁見である。
「ふむ、貴様が此度の勇者か。エルデン国、国王、ケーニッヒ十六世である」
数時間前。召喚された俺が目覚めると、そこは豪華な王宮の一室だった。
メイドさんに世話をされ、バカでかい浴室で体の隅々まで洗われ、着なれない絹のような素材の衣類を着せられて連れまわされ、気付いたら王様の目の前にいた。
王様がいるということは、どうやらここは王国らしい。
「田中彦摩呂と申します。アウグストさんに願われて、この場に参上いたしました」
「ほう、礼儀正しいな。我が国としても、勇者が来てくれるとは誠に心強いと感じている」
王様は壮年のおじさんって感じだ。たぶん40歳ぐらいだろう。ガタイもいい。数段の階段を隔てた高い場所で、豪華な椅子に座っている。
広い部屋に赤いじゅうたん。左右には官僚なのか、貴族や文官らしい姿がチラホラ。
この場には俺とアウグストが参上している。
「それで、アウグスト。彼の役割は?」
「私のタンクでございます」
ざわざわと騒がしくなる左右の官僚たち。
王様はピクリと眉を動かすと、左右に目線を飛ばして彼らを黙らせた。
すごいな、睨むだけで黙らせることができるのか。
「アウグストが前線に出ると」
「はい。彼と一緒ならば、私の唯一の弱点も克服されます。私の第一級光魔法シャイニングならば、魔王にも必ずや勝利できるでしょう」
彼女は魔法使いらしい。俺がタンクとして彼女を守り、その間に彼女が魔法を打つということか。
魔法使いの弱点は接近戦だものな。これまで頼れる前衛がいなかったのだろう。
「騎士団長クラスならばともかく、通常戦力は足手まといになるな。・・・良かろう。アウグスト、必ずや無事に帰ってくるように」
「はっ!」