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勇者適性

レンタル物置からスーツケースを二つ回収した。荷物はこれだけらしい。


コンビニで酒を買ってきてもらったときも、アウグストは余裕の表情だった。離れた場所で見ていたが、店員に身分証らしきカードを見せていた。日本の在住許可証か何かだろうか。


脅された結果としての同居なわけだが、アウグストが美人であることもあり、帰り道はドキドキしていた。


会話しても、ところどころ常識が足りないような、天然みたいな反応をすることもあるが、根は良い人だ、というのが分かった。


あるいは、本当に家出少女で、ヘタレ男性のお手本みたいな人間を見つけて、ここぞとばかりにアタックしてきたのかもしれない。・・・それにしては、夜伽とか言ってるし積極的すぎる気がするのだが。


「彦摩呂さま」


「はい」


材料も時間も無いので、夕食はコンビニ弁当を買って済ませた。二人とも食べ終わってすぐ、かしこまった声でアウグストさんが俺に話しかけてきた。


これは・・・シリアス展開っ!?


「彦摩呂さまには、お願い事を聞いていただきたいのです」


「おねがいごと」


これだけシリアスになるネタってなんだろう。親を殺してほしいとか?


「はい。私の願いを聞いていただけるのならば、この体も心も貴方のものです」


「出会ってたった半日で展開に頭が追い付かないんだけど、とりあえず聞きましょう」


まぁ、そんなことだろうと思ったよ。家出してきた美少女が転がり込んできてイチャラブするなんて、ゲームの中の話だ。現実世界で、そんなうまい話があるわけがない。


俺も崩していた足を座りなおし、正座になる。彼女の真剣な表情に、ごくりと唾を飲みながら、次の言葉を待つ。


「貴方に、救世主として、私の国をお救い頂きたいのです」


「しゅしゅしゅ宗教はごめんなさい!」


救世主とか超うさんくさい本当にごめんなさい。塩まいて玄関から追い出そうか。いやでも家出してるんだっけ。じゃあ最寄りの教会を調べて・・・


「ああ、失礼しました。翻訳機能がおかしいのかしら。それに、この国は多神教をベースに複雑なバックグラウンドがあるのでしたね。こほん。では、あらためて」


「貴方に、勇者になっていただきたいのです」


え?


ゆう・・・しゃ?


ゆうしゃって、勇者だよな。他にあてる漢字は無いと思うし。


え、俺が?


この、俺が?


身長体重が女子並みで、細くて BMI も 10%切る上に、友達も彼女もいなくて、童貞で、新卒一年目で特徴もない、俺が?


「占星術によって、彦摩呂さまの勇者適性は非常に高いことが分かっています」


「勇者適性」


ラノベで読んだことがあるから漢字は思い浮かぶけど、生きてるうちに何度も発音することがあるとは思わなかったな、勇者とか。


俺の勇者適性は高いらしい。異世界転生したら魔法とか使えたりすんのかな。


「ええ、こことは異なる世界ですから、この世界とは異なる理があるのです」


「異世界ってこと?」


「そうですね、この世界はアースと呼んでいるようですね。あちらの世界は、便宜上名前をつけるなら、エイスス、といったところでしょうか」


パソコンメーカーみたいな名前だな。


「俺が頷いた場合は、アウグストさんが転生させてくれるの?向こうで戦えってこと?」


「はい、転生と言いますか、体ごと転移させる感じですね。そして、彦摩呂さまには私のタンクになっていただきたいのです」


「タンク」


タンクと言えば前衛職の華だ。タワーシールドと片手剣を持ち、モンスターの攻撃に耐える大事な仕事。


騎士職だったら重くて頑丈な甲冑を纏うけど、冒険者なら皮鎧ってイメージだな。


タンクが存在するってことは、高火力な魔法使いや弓使いがいるんだろう。MMORPG やってたから知ってるよ。


タンクは必ずしも攻撃する必要はない、っていうのが良いところだな。


身長体重は小柄だけど、適性があるってことは役に立てるのだろうか。


「俺、小さいけど、タンクとして活躍できるの?」


「ええ、もちろんですとも!」


満面の笑みで頷くアウグストさん。これだけ求められると、自分が活躍できそうって期待しちゃうな。


「見ての通り小柄だけど、異世界では大きい方だったり?」


「いいえ、人間族の大きさはほぼ変わりません」


「じゃあタンク向いてないんじゃない?」


「いえいえ、タンクとしては小柄な方が有難いです!」


そうなのか。


あ、ドワーフとか、いたりするのかな。だとすると、装備品が小柄な人間向きで、俺にフィットするってことかな。


「ドワーフとかいるんですか?」


「いますよ。この世界には人間しかいなくて不思議ですが、エルフにドワーフ、猫人に犬人といった、亜人と呼ばれる様々な種族がいます」


おおおおお、異世界っぽい!


「ちょっとワクワクしてきた」


「それは良かったです!」


アウグストがニコニコしている。それもそうか、自分の世界や国を褒められたらうれしいよな。


俺がドワーフ向けに作られたシールドを構え、後ろで彼女が魔法を使うという場面までは容易に想像ができた。すごく、かっこいいじゃないですかっ!


それでそれで、雨の強い嵐の夜に洞窟に逃げ込み、入口を閉じてから二人で寒いねと言いながら身を寄せ合い、マーくんが脱がせてよ、とか言われながら二人はキスしたりなんかして・・・妄想が捗るゥ!


「彦摩呂さま。私のタンクになってくれますか?」


「わかった。俺で役に立てるなら」


冷静に言えたと思ったが、もしかしたら少しぐらいは邪な妄想が表情に出てたかもしれない。アウグストには少しだけ怪訝な顔をされた。



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