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ヒコマーロさん

あのあと、俺はなすすべもなく降参した。


部屋が狭いと言っても、片付けてベッドも一緒に寝れば問題ありません、と言うし。


一緒に寝れば襲いたくなると言っても、旦那様に襲われるのでしたら、と目をキラキラさせる始末。演技っぽい気もしたが、指摘する前に腕に絡みついてきたので慌てて距離をとった。


据え膳かもしれないが、こうまで好感度が高すぎると逆に怪しすぎる。だって名前も教えてもらってないのに。


ご飯も出ないと言っても、じゃあ私が作ります、と腕をまくるし。


「わかった。君の考えはわからないけど、しばらく住んでよし。ただし、寝るのは別々な」


煩悩はそこそこあるほうだ。我慢できても 2-3日だろう・・・あとでコンドーム買ってこないとな。そんな考えをする時点で、彼女の術中にハマっているのだった。


「はいっ!」


お淑やかなキャラかと思えば、スマホを使って俺のことを脅したりもするし、決めごとには素直に従って元気に返事をするところもある。女の子はよくわからない。


童貞だからな。仕方ない。


「それで、名前を聞いても?」


「そうでしたね。私は、アウグスト=プリン・・・」


フリーズした。


「プリン?」


「えっほげっほ」


なんか、嘘くさい咳だなー。


「ごほん。アウグスト=プリームストです」


8月生まれっぽい名前だな。やっぱり日本人じゃないんだな、どこの名前だろう?


「アウグストさんね。どこの国の人なの?」


「ええと・・・話すと長いので、あとでもいいですか?」


「ああ、そうだな。俺は田中彦摩呂だ」


「ヒコマーロさんですね!」


発音がおかしい。彼女は日本語はうまいと思っていたが、名詞になると母語が出るのかな。


「じゃあ、マーくんで!」


いきなり短縮された。


「・・・まぁ、なんでもいいよ。俺はアウグストさんって呼ぶから」


「はいっ!」


返事はいいんだよなぁ、返事は。育ちがいいのがわかる。


しかし、なんでこんな明るくて素直そうないい子が非行・・・家出なんてしてるんだろうな?


「いくつ?」


「女性に年齢を聞くのはマナー違反です!」


急に怒りだした。いや、確かにマナー違反だけどさ、一般的な日本人としては、聞くじゃん。話の枕としてさ。


「悪い。成人してるかどうかだけ聞きたかった」


できれば身分証を見せてもらいたいが、大まかな年齢だけでもいいので知っておきたい。


同意があっても、未成年とあれこれするのは犯罪になりうる。もし未成年なら、明日には出ていってもらわないと俺の精神の安寧が保てない。


「成人してます!」


「ふーん。じゃあ、あとでコンビニへ酒買いに行こう。それなら俺に見せないからいいだろ?」


「わかりました!」


我ながら良いアイディアだと思った。拒否しないあたり、本当に成人しているのだろう。しっかし、この見た目で二十歳超えてるのか。もうちょっと若いと思ったんだけどなぁ。


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