第35話
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結局、アデレードはランチの間中、ずっと上の空で過ごした。
一口目でとても美味しいと感じたランチも、アンリエットの発言を聞き、上の空の状態になってから、機械的に口に運ぶだけで味なんて全く感じなかった。
ローランもアンリエットもそんなアデレードの様子には気づいており、心配そうな目を向けるが、彼女はそれも気づいていなかった。
「お兄様、ごめんなさい。私が余計なことを言ってしまったからアデレード様がこんな状態に……。私はちょっと焦らせて発破かけるつもりで言ったのだけれど……」
「アンリがどういうつもりで言ったのかはわかりました。他の人から奪われるかもと焦らせ、さっさと決断させるというのは交渉事において悪い手ではありません。ただ、まだ交流を始めてそれほど経っていない時期にこんな風に焦らせるのは良くないですよ。あとは私が何とかしますから、ランチが終わったらアンリは自室にでも行きなさい」
「せっかくの交流する機会を私が余計なことを言ってしまったせいで……本当にごめんなさい。ランチが終わったら私はもう自室に引っ込んでいますわ」
ローランとアンリエットは内緒話のように小声でひそひそと話す。
アデレードが気づいた時には、ランチは終了し、使用人達がてきぱきとバーベキューに使った道具類を片付けているところだった。
道具類はなるべく早く片付けてしまわないと、油汚れが落ちにくくなってしまう。
なので、早めに片付ける。
「アデレード嬢、ランチは終わりました。とりあえずここから移動して、私の部屋に行きましょう。そこでゆっくりお話でもしませんか?」
「……はい」
アデレードはローランのエスコートで屋敷の中のローランの部屋に向かう。
ローランの部屋は屋敷の三階の西側にある部屋だった。
日当たりが良く、広さも広く、ゆったりと快適に過ごせる大きさの部屋である。
この部屋はバーンズ伯爵邸のアデレードの部屋よりも一回りは大きいように見える。
また、家具はこの屋敷内の雰囲気と調和するように伝統を感じさせる重厚なデザインのものが多いように見受けられた。
アデレードが入室して真っ先に目を引いたのは部屋の壁側に設置された六段もある大きな本棚だった。
上等な木材を使用し、職人の手によって制作されたであろうその本棚にはびっちりと隙間なく本が収納されている。
アデレードが本棚に近づいて収納されている本のタイトルを見てみると、領地経営に役に立ちそうな知識や経済、法律に関する本、歴史本が大半を占めており、残りは冒険小説や詩集、植物図鑑、貴族名鑑である。
「ローラン様は色々本をお読みになるのですね。読書はお好きなのですか?」
「読書は嫌いではないですね。領地経営系の本は、参考資料として使うことが多いので、辞書のように困った時に読んで確認するというような使い方をしています。詩集と植物図鑑は嗜みとして読んでいますし、本当の娯楽として読んでいるのは冒険小説ですね。色々煮詰まった時に気分転換に読んでいます。アデレード嬢はどんな本を読むことが多いのですか?」
貴族は会話をする際に、詩の一節を引用して話すことがある。
その為、詩に詳しくなければ的外れな返答をしてしまうこともあり得る。
なので、教養として詩を勉強することは貴族階級では一般的なことだ。
「私もローラン様と同じく法律や経済、歴史本が多いですわね。いずれ家を出て行く立場ですが、しっかり勉強しておくというのがお父様の方針ですので。植物図鑑はかなり読み込んだので、結構植物には詳しいはずです。あとは時々恋愛小説なんかも読みますわね。メイドに勧められて面白かったので、何冊か取り揃えてみました」
「恋愛小説ですか。少し意外ですね。アデレード嬢はそういう類のものはあまり読まないのかと思っていました。具体的にどんな主人公が登場する恋愛小説がお好きなのですか?」
「それは……教えませんわ。他人に自分が好きな恋愛小説を教えるのは少々恥ずかしくて……」
アデレードは質問の答えを教えなかったが、ローランはそれに気を悪くした様子はない。
教えてもらえないというのは想定の範囲内だったからだ。
「その内教えて下さいね。部屋に入ってから立ちっぱなしだったので、とりあえずソファーに座りましょうか」
三人座れそうな大きめのソファーにローランとアデレードは腰掛ける。
ソファーは上等な黒い革張りのソファーで、腰が沈み込んでしまいそうなほど柔らかい。
ローランがメイドを呼びつけ、紅茶とケーキの用意を頼む。
メイドはローランの用命通りに用意し、紅茶とケーキをソファーの前のガラスのローテーブルの上に置く。
今日のケーキは桃のタルトだ。
ランチの内容を考慮して、生クリームを使用せずさっぱりと食べられるスイーツが選ばれた。
桃のタルトは直径が五センチほどの大きさで、タルト生地の上に桃のコンポートが盛り付けられている。
大きさ的に勿論二人で一つのタルトを分けるのではなく、一人一つずつという計算で用意されている。
「桃のタルトですか!? 私、フルーツの中でも桃が指折りに好きなのです!」
思わぬ好物の出現にアデレードは瞳をきらきらと輝かせる。
例えるなら、この瞳の輝きにぱあああっという効果音が付くだろう。
「それは良かったです。貴女の好物をまた一つ知ることが出来て私は嬉しいです」
しばらく二人は紅茶と桃のタルトを黙々と楽しむ。
桃のタルトを食べ終わったタイミングでローランがランチの時のことについて話を切り出す。
「そう言えば、ランチの時、少し上の空だったように思えたのですが、どうされたのですか?」
アデレードはローランに質問されて瞳を曇らせた。
「私が思っていなかったことを指摘されて動揺してしまったのです。ただそれだけの話ですので、ローラン様が気にするようなことは何も……」
「そんな様子を見せられて気にするなというのは無理がありますよ。そもそも私の方から貴女を望んでいるのです。見込みが全くないと思うまでは諦めるつもりはありませんし、その間、他の方との話を進めたりなんてしません。貴女は私には仰って下さらなかったけれど、きっと前の婚約者のこともあるのでしょう?」
「そう……ですわね。前の婚約者と婚約していた頃はあまり深く考えなかったけれど、此方が一方的に与えるだけで何も返されないということに疲れていたのかもしれません。だからローラン様があの人みたいな人なのかどうか見極めたいと無意識に思ってしまったというのは否めないと思います」
アデレードはベンと婚約していた頃を思い出して、深く溜息を吐いた。
ベンにされた仕打ちは気にしていないと言っても、心の中では無意識に気にしていたのかもしれない。
「それとは別に、今はこうして私の話を聞いて、交流しようとしているローラン様が他の方と私に対するのと同じように接しているのを想像したら何となく胸が痛んだのです」
ローランはアデレードの言葉を聞いて、思ったよりも彼女の中に自分の存在が強くなっているとわかって微笑んだ。
「そうだったのですね。何故、胸が痛んだのか。帰ったらゆっくり考えてみて下さい。答えがわかった時は、私に教えて下さい。とにかく、私は貴女と同じように他の方と交流するつもりはないことははっきりと伝えておきます」
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