第3話
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「ねえ、わたしは伯爵令嬢になったのでしょう? だったらわたしはこんなに狭くて小さな小屋みたいな離れではなくて、あっちの大きくて立派なお屋敷で暮らすのが当然じゃない? あの立派なお屋敷でドレスを着て、沢山の使用人達にお嬢様として傅かれたいわ。伯爵様に言って、わたしをここじゃなくてお屋敷で暮らさせるよう頼んできてくれない?」
――それがバーンズ伯爵邸の離れに案内された時のリリーの第一声だった。
***
伯爵は妻や家令と話し合い、リリーをバーンズ伯爵邸の離れで生活させることにした。
理由はいくつかあるが、主だった理由は以下の三つだ。
離れで暮らさせることで自分は居候にすぎないのだと自覚させる為。
トラブルを起こさない為。
貴族的な生活を見せないようにし、贅沢を覚えさせないようにする為。
一つ目は養子縁組の話が関わっている。
伯爵はリリーを養子にしたが、そのまま本邸の方で伯爵夫妻やアデレード、アデレードの弟・ウィリアムと暮らした場合、リリーが自分もバーンズ伯爵家の立派な一員だと勘違いするのは想像に難くない。
それを防ぐという目的だ。
養子縁組の手続きをするに際し、伯爵はリリーにはきちんと説明して念押ししたが、彼女がきちんと正しく理解出来ているのかわからない。
平民から伯爵家の養子になったと額面通りに受け取り、都合の悪いこと――名ばかりの伯爵令嬢であり、成人すれば養子縁組は解消される――は耳からすり抜けて頭に残っていないということも考えられる。
実は養子縁組には普通の養子縁組と特別養子縁組の二種類がある。
実子同然の養子にする場合は、特別養子縁組の方で手続きを進める。
特別養子縁組は主に跡取りがいない貴族家が、分家などの親戚から養子を取って、跡取りに据える場合に用いられる。
今回の場合は前者の方である。
この場合、リリーは伯爵令嬢ではあるが、本当の意味での伯爵令嬢ではない。
現伯爵の実子であるアデレードとウィリアムにはバーンズ伯爵家に関する相続権がきちんとあり、正真正銘バーンズ伯爵家令嬢・令息として間違いなく認められている。
それに対し、リリーの養子縁組は単にバーンズ伯爵家が後ろ盾になっていることを示し、伯爵家に関する相続権など権利一切は認められていない。
その為、貴族家で養子縁組と言うと、特別養子縁組でない限り、何らかの事情があって養子にはしたが、形ばかりの養子で実子の扱いではない――つまり、その家の居候と見なされる。
そして、伯爵がその気になればいつでも養子縁組を解消出来る。
言い方は悪いが、養子を解消するのも伯爵の胸三寸である。
それがリリーの立ち位置だ。
伯爵はリリーを実子同然の扱いにはするつもりがなく、成人までの間のみ後見人として生活の面倒を見るだけである。
実子はアデレードとウィリアムの二人がおり、既に事足りている為、ここで新たにリリーを実子同然の養子にする理由がない。
リリーを離れへ住まわせることは、自分の立場を勘違いするなという伯爵一家との線引きだ。
二つ目もごく当たり前のことである。
本邸の方にはバーンズ伯爵家にとって大切な客人が訪れる。
大切な客人は貴族階級の者だったり、伯爵家御用達の商人だったり多岐にわたる。
そんな大切な付き合いのある客人と、貴族のマナーや立ち振る舞い、常識を全く身につけていないリリーが鉢合わせした場合、トラブルが起きるのは火を見るより明らかだ。
リリーが無知故に客人に対し不躾な態度を取ったり、失礼極まりない発言をするとバーンズ伯爵家そのものの品位を疑われ、今後の付き合いに響いてくる。
それは伯爵には許容出来ない話だ。
三つ目に関しては、一つ目とも部分的に関係がある。
伯爵は、リリーを養子にはしたが、彼女がこれから先ずっと貴族として生きられるよう世話をする予定は組んでいない。
時が来れば、自力で働き口を探させ、平民に戻す。
職の斡旋は伯爵がリリーを推薦する価値があると判断し、本人が希望すればする予定ではあるが、基本的には手を貸さない。
茶会やパーティー等貴族としての社交は名ばかりの伯爵令嬢であるリリーにさせるつもりもなく、年頃の貴族令息と縁談を組む予定もない。
リリーは、所詮平民の夫婦の間に生まれた子であり、血縁上の父は貴族籍を除籍されている。
除籍は貴族社会で不名誉なことの内の一つで、それを嫁ぎ先に説明せずに嫁がせるという訳にはいかないし、それでも良いと言った家に嫁がせた場合でも、嫁ぎ先で何か失態を犯すと”やっぱり血縁上の父親が除籍されている娘は父親と同じなのね”とちくちく言われる羽目になる。
伯爵はリリーは貴族社会に関わらない方が気楽に生きられると思っている。
この先ずっと貴族として生きるのならばともかく、平民に戻るのに、貴族生活に見える贅沢を覚えたら、元に戻れなくなる。
衣服・食事・屋敷内の環境。
どれをとっても平民のそれとは比べるまでもなくお金がかかっている。
だから極力平民の生活水準から大きく外れる生活はさせないようにしたのだ。
平民の生活水準は、屋敷で働いている平民出身の使用人達に聞けば凡そは見当がつく。
それを参考に、リリーの離れでの生活は整えられた。
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