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【12/13 2巻発売!】アーシャ・リボルヴァの崇拝~皇帝陛下に溺愛される悪役令嬢は、結婚の手土産に不穏分子を平定するようです。~【コミカライズ予定】  作者: メアリー=ドゥ
第一章

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めちゃくちゃご寵愛賜ってんじゃねーか。


「ガァアアアア!! ヤメロォ!! ヤメッ、ヌゥァアア……ッ!!」


 陽の光に焼かれて、ウルギーがジタバタと暴れようとするが、押さえ付けている皇帝の力のせいでビクとも動けていない。


「何故、何故ェ……タカガ、ヒト程度ノ身デ在リナガラ……六悪ヲ従ェ……コレ程ノ、チカラヲォ……!?」

たかが力(・・・・)一つ手にするのに、ヒトである己の本質と他者を犠牲にせねばならぬ程度の者に、負ける道理など、ない」


 ナバダは、その光景に知らず知らずの内に息を詰まらせていた。


 ウルギーの周りの空間が、ベキベキとガラスのようにひび割れて、牢の柵に似た形でウルギーを囲い込んでいる。

 陽光はそこから漏れており……その先に見えるのは、真昼の太陽が浮かぶどこかの景色。


 ーーーあり得ないわ。


 己を転移する魔術すら遺失している現在に置いて、空間を繋ぐ・・・・・魔術を単身で、しかも即座に行使するなど……いや時間をかけて魔導陣を敷いたとしても、常軌を逸している。


 しかも、その間にも皇帝がウルギーを地面に押し付けている圧を増しているのか、黄金の骨がミシミシと音を立ててひび割れ始めていた。


 そのあまりにも理不尽な力の顕現を目の当たりにして、ナバダは思わず自嘲する。


 ーーーアタシは、こんなとんでもない奴を殺せと言われてたの?


 絶対に無理だ。

 

 ウルギーは、ナバダ達の相手をすることを、戯れだと言ったけれど。

 アウゴにとってみれば、きっとこの世の全ての障害が、遊びのようなものなのだろう。


 魔性も人も関係ない。


 皇帝アウゴは、一人全軍どころか、一人でこの世の全てを支配することすら、赤子の手を捻るような気安さで可能な存在なのだと、思い知らされる。


 それを、していないのは。

 彼が執着するのが、宝物のように腕に抱いているアーシャ・リボルヴァという公爵令嬢だけだから。


 ただ、本当にそれだけの事なのだろう。


「ガァアアアア……ッ!! 灼ケル……我ガ金色ノ肉体ガ……不死ナルガ……!! 全テヲ支配スルガ……! 馬鹿ナ、馬鹿ナァ……ッ!!」


 陽の光に触れるだけで、黒い煙を放って、ウルギーの体が黒ずんでボロボロと崩れ落ちて行く。


「そして、魔獣に喰わせる、だったか?」


 皇帝は、まるで研究作業のようにジッと崩れていくウルギーを眺めていたが、半ば崩壊した辺りでポツリと呟く。


 そうして目を向けた先にいたのは、【二又女蛇王ギドラミア】と化したガームだった。

 

「貴様が都合よく使い潰したそこの女にも、〝選ばせて〟やろう」


 と、アウゴがギドラミアの拘束を解く。

 どうやら、ウルギーの支配からは逃れているらしい魔獣に、本来のガームであった頃の意識があるのかどうかは、ナバダには分からなかったが。


「死ぬ前に、一人だけ喰い殺す権利をやろう。選ぶがいい」


 そう皇帝が口にすると、両腕を折られているが無事な左の頭が、ぱちぱちと瞬きをしてから……瞳孔のない瞳をウルギーに向けると、鬼のような形相になってギシャァ! と吠え猛る。


 そして、両目を潰された真ん中の上半身が、ズルズルと這うようにウルギーを閉ざした陽光の檻へと近づいていく。


「来、来ルンジャナイッ! ガーム、オ前ハ私ニ従順デアレバ良イノ……グァアアアッ!!」


 手足が失せて逃げることも出来ないウルギーは、左右に退くように開いた檻の隙間から巨大な顔を押し込んだガームに、下半身を齧られて絶叫した。


 バキ、ボキ、と音を立てながら、目の潰れたガームの顔をした魔獣が、少しずつウルギーを噛み砕きながら呑み込んでいく。


「真に強大なる支配者ならば、過去に他者に封じられることも、そのような無様を晒すこともなかった。つまりそなたはその程度だった、ということだ」


 真に強大なる支配者・・・・・・・・・本人であるアウゴの言葉は、最早ウルギーには届いていない。


「グゥォアァアアア……ッ!! ワ、()ハ、コノ世ノ支配者タルベキ者ナルゾ! 我ガ名ハ〝傲慢バベ……ッ!!」


 最後まで言い切れなかった、その喚きが……〝傲慢なる金化卿(バベル・ド・ゴゥル)〟ウルギー・タイガの、断末魔だった。


※※※


 そうして、満足そうな顔をしたガームが眠るように目を閉じて動かなくなると、ようやく皇帝が動き出す。

 いつの間にか、エイワスという名らしい〝六悪〟の赤子は姿を消していた。


「よく聞け」


 皇帝が、再びナバダたちを睥睨へいげいして告げる。


「アーシャは、我が伴侶となるべき者。望むがゆえに、奔放なる振る舞いを許諾しているに過ぎぬ」


 皇帝は、アーシャを抱き直すと、眠る彼女に頬を擦り寄せるように顔を近づける。


「アーシャの道行きと志は、我が振る舞いと同義と知れ」

「……本気で言ってんのか?」


 口を開いたのは、ウォルフガングだった。


「アーシャから聞いてはいた。だが、信じられねぇ。……もしそれが真実なら、何故それだけの力を持ちながら、俺たちや大公どもを放置する?」


 すると皇帝は、ウォルフガングをジッと見つめた後。

 僅かに、口元を緩めた。


「我は、支配に興味はない。そして、自らの意思で抗う気概を持たぬ者にも」


 それが答えだと言わんばかりの、簡潔な回答だった。


「そなたらは、己が手で掴み取る自由を、望んだのだろう。不自由の代わりに、ただ与えられ屠られるだけの家畜で在りたいのなら、願いを叶えるにやぶさかでは無いが」


 どうする、という問いかけのつもりなのだろう。

 おそらく皇帝は、ウォルフガングの答えなど、どちらでも良いと思っている。


 しかし、ナバダにも分かることが一つだけあった。


 ーーー面白がってるわね。


 皇帝はこういう奴だ。

 ただ従うことを良しとしない誰かが、気概を持って真正面から噛み付いて来るのが、おそらくは楽しいのだろう。


「そなたらには、選ぶ権利がある。アーシャと共に皇国に牙を剥き、その半分を相手にするもよく、この小さな大地で大人しく生を全うするもいい」

「皇国の半分を相手にしろ、だと? そいつらに牙を剥かなくてもいい国にするのが、本来、貴様のやるべきことだろうが!!」


 ウォルフが顔を真っ赤にして、吼える。


「力の無い奴が虐げられて足掻いてるのを見るのが、そんなに楽しいか!?」

「……止せ、ウォルフ」


 止めたのは、〝獣の民〟の村長、シャレイドだった。

 普段は快活で声が大きい彼だが、今は村長らしい威厳を備えた低い声音でウォルフガングを制する。


「何でだよ!? こいつが放置してたせいで、俺やダンヴァロは! ベルビーニは!」

「お前は、前にアーシャの嬢ちゃんが言ってたことを覚えてねーのか。……皇帝だからこそ、法を守らなきゃ道理が通らねぇって、言ってただろ」


 シャレイドの言葉に、皇帝は静かに頷いた。


「特異魔術の男。そなたは、暴君が望みか」

「何だと?」

「法をなき物と切り捨て、我が自ら大公を降す、あるいは、民を虐げし証拠を、他者の感知し得ぬ魔術によりて揃える。ただ一人、我のみの力によって。その先に待つものを、理解した上でのげんか」


 ウォルフガングは、ますます眉根を寄せる。


「……クソどもがいなくなって、住みやすくなるだろうが」

「では、そのさらに先は」


 皇帝は、あくまでも静かだった。


「そなたらから見れば、常軌を逸したる我の力によって、法に依らぬ統治をした先は。我が身罷いし後に、法は破ることを良しと示された者どもと、強大な力に頼り切り、自らを研鑽することを怠った者による後世か」

「……それ、は」

「それは」


 腕の中のアーシャに目を落としてから、皇帝は再びウォルフガングを見る。



「ーーー真に、アーシャの望みし和平の世か?」

 

 

「……ッ」


 ウォルフガングは、悔しそうに歯を噛み締めた。


「じゃあ、どうしろってんだよ! 未来がどうだか知らねぇが、今、この瞬間に虐げられてる連中がいるだろうが!! それを放置するのが正しいってのか!?」

「その為に、アーシャはこの場に参じたのであろう」


 即答だった。


「自らの手に依て、大公を降せ。あるいは、大公が民を虐げているという証拠を、我が前に揃えよ。自らの手によって、それを成せ」


 ある種の傲慢を感じさせる発言だったが。

 おそらく人々がそう動くことが、皇帝にとって最も好ましいことなのだろう。


 自分でやるのは簡単だと。

 今この瞬間のことだけを、そして自分が生きている間のことだけを考えるなら、ウォルフガングの問いに答えた方法が、最善なのだ。


 しかしそれでは、先に待つのが今よりもさらに酷い状況であると、皇帝は告げているのである。

 回避したければ、自分が動かなければならないと。


 ーーーだから?


 ナバダは、唐突に理解した。


 多分皇帝自身は、暴君として立っても問題はない、と思っている。

 それどころか、皇国を滅ぼしてでも、アーシャが生きていればそれでいいとすら、思っているだろう。


 だけど、アーシャがそれを望まないから。


「故に、問う。自らの手で、成す気があるか?」


 自らが好ましいと思う、挑戦の気概を持つ者を選別し、助け。

 

 ーーー皇帝は、人を、育てようとしている……?


 彼が助けた人々を、ナバダは思い返す。


 アーシャの望みを叶える為の駒が、自分やイオであり、ベリアであり、ダンヴァロであり……〝獣の民〟の人々なのであると、すれば。


 『不甲斐なき者は必要ない』という言葉の、真意は、そこにあるのだろう。


「……そいつに答える前に、俺からも、一つ聞かせてくれ」


 ウォルフガングが黙ったので、シャレイドが口を開いた。


「皇帝の婚約者筆頭の公爵令嬢がここに居て、今みたいな危機に陥ることは予想できただろ。なんでアーシャの嬢ちゃんを野放しにしてる?」

「アーシャは、反乱分子を平定する、と、自ら囮を買って出た(・・・・・・・)

「囮ぃ……?」

「我が皇国は、未だ一つならず。私腹を肥やし益をかすめる者、地位を虎視眈々と狙う者が後を絶たぬ。そなたらの知る通りに」


 それは、その通りだ。


 ナバダが消え、正妃の座がほぼ確実となったアーシャを、疎ましく思い、暗殺を目論む者は未だ多いだろう。

 腹に一物を抱え、次期皇帝の親たらんと望む者が、正妃候補が一人放り出される好機に、食い付かないはずもない。


 でもナバダの知る限り、アーシャは、そうした全てを承知して皇都を出た。


「自らを囮とし、人々の趨勢すうせいを自らの目で見極めるアーシャが、そなたらを救うべき者であると口にした」

「……」

「故に、問うている。そなたらは、アーシャが信じるに(・・・・・・・・・)足る性根と気概を・・・・・・・・持ち合わせているのかと」


 シャレイドは、夜空を見上げた。


「……ナメられたモンだぜ。なぁ、ウォルフ」

「シャレイド……」


 村長は、ウォルフガングの肩を叩いて、ニヤッと笑みを浮かべる。


「アーシャの嬢ちゃんやナバダの嬢ちゃん、ダンヴァロやベルビーニ、それにお前さんを〝獣の民〟として受け入れたのは、誰だと思ってやがるんだろうな、あの皇帝はよ!!」


 ガハハと大笑いして、シャレイドは手にした武器を掲げる。


「気概だと? 上等じゃねぇか!! 皇帝も大公どもを許す気がねぇって知れた以上は、何一つビビる必要がねぇじゃねぇか!! そうだろ!?」


 ウォルフガングは、呆気に取られたように彼を見上げた後に……小さく、苦笑した。


「ああ、そうだな。確かに、その通りだ」

「俺は、皇帝なんか信用しねぇし、皇国に属する気もねぇ!! だが!! 俺が仲間と認め、今日まで目にしたアーシャ・リボルヴァの信念は……紛れもなく、本物だった!!」


 シャレイドは、ドン! と自分の胸に拳を叩きつける。


「一緒に行ってやるよ!! 苦しんでる連中を助けてぇって気持ちは、俺もアーシャの嬢ちゃんも一緒だからな!!」

「……俺も、同じ気持ちだ。俺みたいな思いをする奴を、少しでも減らしてぇ。……他の貴族どもに従う気なんか、それが皇帝であっても、サラサラねぇが」


 ウォルフガングは、ようやくいつもの、面倒見の良い兄貴分の笑みを取り戻して、皇帝に向かって拳を掲げる。


「《鉄血の乙女アイアンメイデン》アーシャ・リボルヴァとなら、やってやるさ。そいつは、仲間だからな」


「そうか」


 皇帝は、無表情ながらどこか満足そうに呟くと。


「……そなたらの、心意気は悪くない。自らの言、ゆめゆめ忘れぬことだ」


 皇帝が、再び足先でトン、と地面を叩くと、近くに転がっていた魔剣銃と【風輪車ツインサイクロン】、それにモルちゃんが、皇帝の元へと浮き上がって引き寄せられた。


 二丁の魔剣銃はひとりでにアーシャのホルスターに収まり、モルちゃんは腰紐にぶら下がる。

 そして魔導具は、正しい形でその場に着地した。


「この有機鉱物によって作られた魔導具は、特異魔術の者。そなたに預ける。おそらく、そなたの魔術と相性が良い」

「どういう意味だ?」

「正しく使用すれば、使用者に合わせて形を変える魔導具だ。試してみよ」


 ウォルフガングに助言を与えた皇帝は、続いてシャレイドに目を向けながら、魔導陣を描き出した。


「アーシャは半月ほど、預かる。その間に、準備を整えよ。西へ打って出るのであれば、そなたらでは未だ力が足りぬ。一人、戦力として心当たりのある者に、村へ向かうように伝えておく」


 そうして、あっさりと転移魔術によって皇帝が姿を消すと。

 ずっとひざまずいていたベリアとウォルフガングが、力が抜けたように尻餅を地面に落とした。


 全員、とっくに限界だったのだ。

 

「……イオ」


 ナバダは、少し離れたところで成り行きを見守っていた彼に声を掛ける。


 ずっと会いたかった。

 そして、多分これから、また一緒に過ごせると、そんな期待を込めて視線を向けると。


「姉さん……迷惑かけて、ごめん」


 怪我をしているのか、足を引きずりながら近づいてきたイオを、ナバダは両手を広げて抱きしめる。


「アタシも、しくじったわ。お互い様よ」

「うん……」


 涙が滲んでくる。

 ようやく……解放された。


 アーシャのおかげで。


 そうしてイオと抱き合っていると、ウォルフガングの呻き声が聞こえて、涙が引っ込んだ。


「ったく、何が『未だご寵愛賜らぬ』だよ」


 そう吐き捨てた彼を見ると、短い髪をぐしゃぐしゃとかき回して、彼はこう続けた。


「誰がどう見ても、めちゃくちゃご寵愛賜ってんじゃねーか」

「気づいてないのはアーシャ本人だけよ」


 その呻きに、思わず笑みを浮かべながら、ナバダは言葉を返した。

 

解決!


後は、陛下とアーシャの、少し短いかもですが、イチャイチャを投稿して第一章は終わりです!


すみません、余裕がなくて感想返信が滞ってますが、ぼちぼち返します!

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