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【12/13 2巻発売!】アーシャ・リボルヴァの崇拝~皇帝陛下に溺愛される悪役令嬢は、結婚の手土産に不穏分子を平定するようです。~【コミカライズ予定】  作者: メアリー=ドゥ
第一章

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38/72

死を命ずる。

 

 アウゴは、全てを見ていた。


 アーシャが己の手で〝獣の民〟の信頼を勝ち取る様も。

 襲い来る魔獣に対処する様も。

 そして〝六悪〟が一、〝傲慢なる金化卿(バベル・ド・ゴゥル)〟に魂を売り渡した、ウルギー・タイガの所業も。


 その、全てを見守ることが、アーシャの願いであり、望みであったが故に。


 だが。


「アーシャ。たとえ、そなたが志半ばの死を、本望としようとも。その本望は、我が想いに反するもの」


 アウゴが選び取る・・・・未来に、アーシャの死は含まれていない。


 アーシャが、手助けを望まぬとしても。

 彼女に望み願いがあるように、アウゴにも思い描く未来がある。


 それが害されるのならば、アーシャの願いを無下にすることになろうとも、動かねばならない。


 アウゴは皇帝である。

 己の望みを叶えるために、この地位に在る。


 その願いは、誰のどんな願いよりも優先されるのだ。



 ーーーアーシャが、我の横に並び立つ未来は。



「死ぬことは赦さぬ。何が起ころうとも。……心に、刻むがいい」


 腕の中のアーシャは、泣き出す直前のように顔を歪めると、目線を下げた。


「陛下……どうか、お慈悲を」

いな。アーシャを危機に晒す行為は、皇帝の名の下に赦されざる行為なれば」


 目を細めて圧を強めると、ウルギーとギドラミアも地に伏し、〝獣の民〟の男が纏う土人形の体と鳥人族の男が押し潰れて、ミシミシと音を立てる。


「が、ぁ……!」

「ぬぅ……!」

「不甲斐なき者どもは、アーシャの側に侍る資格もない」

「陛下、どうか……!」


 アーシャが腕の中で身悶えてすり抜けると、そのまま自ら頭を地に伏して、足元に頭を垂れる。



「どうか……どうか、わたくしに・・・・・、お慈悲を」



「……?」


 珍しく意図が読めず、アウゴは一度留まる。


「申してみよ」

「畏れながら、この状況は、かの者たちに責のある事には、ございません。全ては、わたくしの力不足によるものにございます」


 ですから、とアーシャは地面に額を擦り付ける。


「罰を下す必要があると、陛下がお考えでありますれば、どうかわたくし一人に。相手の力を見誤り、無謀な攻めに及んだのは、わたくしにございます……!!」


 アーシャの声が、震えている。


「〝獣の民〟は、陛下の救うべき者どもなれば、どうか……平和への世の流れを、塞き止める者は彼らではございません。未だ陛下の御心や御威光の、届かぬだけの者たちにございます」

「……」

「わたくしは矮小であり、陛下に並び立つに相応しくない身に、ございますが、どうか、今一度、わたくしに機会を……陛下の御心の有り様に触れえぬだけの、者たちに……その御心を伝え、彼らと共に、覇道を参ります機会を、お授け下さい……!」


 アウゴは、アーシャの金の髪を見下ろし、続いて周りの者たちを見回す。


 ナバダ、ベリア、そしてイオと〝獣の民〟の二人。

 地に伏しながらも、なるほど、瞳から火を消している者はいないようだ。


 アーシャを案じ、その裁定を案じている。

 己が身のみを可愛く思う者は……ただ一人を除いて、いないようだった。


「無様を、晒して、しまい、誠に、申し訳ございません……ですがどうか……お慈悲を……」

「沙汰を、申し渡す」


 アウゴは、身をかがめて、アーシャの肩に手を置く。


 皇帝は地に膝をつかない。

 それは臣下の行いであるから。


 アーシャが顔を上げたので、その額の土を指先で払い、ついでに強く押し付けすぎてついた擦り傷を癒すと、言葉を重ねた。


「半月の間、都への帰還を命ずる。もって罰とする」


 どうせ、夜会への参加準備には、時間が必要だ。


 良き口実であろう。

 罰をアーシャのみとせよと言うのであれば、不問とする以外の選択など、そもそもない。


「……仰せのままに」


 ホッとした様子のアーシャに、アウゴは一つ頷いて、頬を撫でた。


「少し、眠るがいい」


 魔術によってアーシャを眠りに落としたアウゴは、再び抱き上げて、始末をつけることにした。

 

「ナバダ・トリジーニ、イオ・トリジーニ。両名は、アーシャを助けんとしたその行為に免じ、罪状の一切を不問とする」


 皇帝暗殺の罪も、連座でのイオの手によるナバダ暗殺の命も、これで解消となる。

 二人の圧を解くと、イオは呆然としており、ナバダは不満そうな様子ではありつつも、大人しく頭を下げた。


「……ご厚情に感謝致します」

「殊勝なことだ」


 微かに笑みを浮かべて、以前の断罪の場での暴言を揶揄からかってやると、ギロリと睨みつけてきたが、何も言わない。

 

 ーーー気概は死んでいないようで、何より。


 アーシャが救おうとした二人は、そもそもから裁くつもりも無かった。

 次いでアウゴは、圧を解くと即座にべアングリードの腕から抜け出したベリアに目を向ける。


「ベリア・ドーリエン」

「はっ!」


 膝をついて、拳を地面に押し付けたベリアに、一言だけ伝える。


「アーシャを守れぬのであれば、辞すがいい。まだ従うのであれば、二度目はない」

「次は、命に代えましても」


 深くうなだれた彼女に、それ以上言葉は掛けなかった。


「〝獣の民〟の者ども。我が臣下にあらざる故に、アーシャの嘆願に免じて長らえよ」


 圧を解いてやっても、二人は答えず、こちらを警戒した様子を崩さずに姿勢を立て直す。

 そして、最後に。


「価値なき者、ウルギー・タイガ。他者の力に、権に、魔性に頼らねば何一つ成せぬ者よ……大人しくしていれば生きること程度は許してやったが、最早、存在することそのものが無価値」


 何があろうとも許すつもりのない、無様な姿でうつ伏せになった黄金の骸骨に、アウゴは傲然と言葉を投げる。



「アーシャに対する蛮行、定めを破りガームをしいした罪、我への不敬。その全ての罪状において、死を命ずる。己が選択の結果に、沈むがいい」



「クク……」

 

 動けもしないわりに、ウルギーには余裕があるようだ。

 笑みを漏らして、眼窩の紫炎を揺らめかせる。


「不死ナル私ヲ、ドウ殺ストイウノダ?」


 ウルギーの言葉に、アウゴはそんな能力もあったか、と思い出した。

 

 おそらくは、何らかの制約を掛けることによって、身と魂を不滅とする禁呪の類いだろう。


 その『死』の条件は様々で、一律ではない。

 だが、いちいち探り出すのも面倒臭い話なので、アウゴは少々思案した。


 ーーーさて、どうするか。


 すると沈黙をどう取ったのか、ウルギーがカタカタと嗤う。


「如何ニ強大ナチカラヲ持トウト、所詮、貴様ハ人間……イツマデ()ヲ抑エ込メルカナ……?」


 どうやら、本格的にウルギーの人格が〝傲慢なる金化卿(バベル・ド・ゴゥル)〟に乗っ取られ掛けているのだろう、一人称に別の声が重なっている。


 今囀(さえず)っているのは、おそらく、封じられていたという本物の金化卿なのだろうが……。



「我にとって〝六悪・・程度・・の相手など、戯れに過ぎぬ」



 ウルギーの先の発言をそのまま返してやり、アウゴは対処を決めた。

 一瞬のうちに魔力で魔導陣を描き出した後、つま先で軽く踏みつける。


いでよ。〝六悪・・が一・・、真理の探究に身を捧げ、異端の叡智を宿す者……」

「ッ!?」


 アウゴの詠唱を聞いて、ウルギーが大きく顎を開いた。


「馬鹿ナ……馬鹿ナ……ソンナ、筈ガ……!」

「契約において、疾く顕れよ。ーーー〝貪欲なる胎児エイワス・ホムンキュリア〟」


 魔導陣が紫に輝き、ゆらゆらとウルギーに似た邪悪な気配が立ち登ると、アウゴの肩辺りに濃縮して結実する。

 

 紫のもやで出来た臍の緒が繋がったままの、年老いた赤子。

 それ以外に形容しようのない存在が、そこに居た。


 臍の緒の先は、アウゴが人差し指に嵌めた指輪へと繋がっている。


『お喚びですか、我が主人あるじ


 しゃがれているのに甲高い声に、反応したのはアウゴではなかった。


「我ガ同胞ハラカラヨ……ッ! 何故、何故〝六悪〟タル汝ガ、人ナドニ従ッテイル……ッ!?」

『金化卿か……我が主人に喧嘩を売るとは、何とも愚かよな』


 以前、魔導の探求をしていた時に出会い、戯れに降していたエイワスは、『フラスコの中の小人』とも呼ばれる存在である。


 己の力で動く術を持たぬ代わりに、ありとあらゆる叡智に通じる……と言われているが、その正体は耳や目が広く、長生きしているだけの魔性だった。


 知識は多少役に立ち、魔術もそこそこ・・・・扱えるが、ただそれだけだ。

 だが、長生きしているだけあって雑学には通じている。


「金化卿の弱点を言え」

『複合魔術にて、不死たり得る者にございます。陽光に触れれば不死は絶え、魔獣に食われれば魂が砕ける……そのような制約にございます』

「なるほど。代わりに、魔獣や人を操る力を持つか」

『是』


 不死という、幽玄と現世の逆転した力の代償は昼夜の逆転。

 他者を征服する力の弱点は、征服した他者に革命を起こされること。


 そういう事なのだろう。


 タネが割れてみれば、大した仕掛けでもない。



「陽光か。……では・・浴びるがいい・・・・・・



 アウゴの言葉と共に、ウルギーの周囲に陽光が溢れ出た。

 

どこまでも支配者、それが陛下。


次と、その次くらいで終わらせて……第一章エピローグに辿り着ければと……。


あ、本日二話目です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 優しい陛下、優しくない陛下(当たり前だけど)かっこいい!ですね〜 [気になる点] 読んでいて思う、誰が勝てるのか(笑) 一人の少女の願いなら何でも聞いてしまいそうだけとね。
[良い点] 陛下、強い……!
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