きっちり当てますわよ!
「行きますわよ!」
風輪車でほとんど垂直に急上昇するアーシャに、【雷速隼】の群れは狙いを定めたようだった。
ーーーそうよ、いらっしゃいな!
こちらを追うように旋回しながら高度を上げていく怪鳥たちの風切り音と、出力を上げたサイクロンのキュィィ……!という駆動音が混じり合う中。
アーシャは、腰から取り上げて指に下げていた相棒のスライムボガードに魔力とイメージを流し込むと同時に、体ごと車体を横に倒し、急旋回した。
急激な重圧が体に掛かると一気に血の気が引き、じわ、と視界の端が暗く滲む。
しかし生半可な速度と軌道では、ファルドラ達に追いつかれてあっという間に爪の餌食になってしまうだろう。
「くぅ……! モル、ちゃん、お願い致します、わ!」
制動を掛けながらサイクロンの尻を振って180度反転したアーシャは、一瞬停止した時にモルちゃんを解き放つ。
まるで投網のように網目状になってブワッと広がったモルちゃんが、その粘ついた体で蜘蛛の糸の如く旋回中のファルドラの一体を絡めとり、翼の動きを乱した。
いきなり制止をかけられてきりもみ状に落ちていくそれを放っておいて、アーシャは右手でハンドルを保持しながら、左で魔剣銃の狙いを定める。
利き手ではない腕。
光源は、真円の月光のみ。
ーーーふん、きっちり当てますわよ!
アーシャは片目を閉じて、直近の一匹に極限まで意識を集中して目を凝らし……間髪入れずに引き金を絞った。
風の魔弾が宙を裂き、大きく開いたファルドラの口腔から後頭部を貫く。
ーーー二匹目!
それを確認した直後に、今度は浮遊するための魔力供給を断って、落下。
腹の底が押し上げられるような不快な感覚と共に右手と両腿に力を込めて車体から離れないように踏ん張りながら空を見上げると、二匹のファルドラが、先ほどまでアーシャの居た空間を挟み撃ちするようにゴッ! とすれ違う。
ーーーそのまま、ぶつかってしまえば宜しかったのに!
魔剣銃をホルスターに収めたアーシャは、浮遊力を再起させると、落ちていくファルドラとモルちゃんを追いかける。
追従してくる怪鳥が一匹。
「ふふ、これは避けられますかしら?」
アーシャは指の間に挟み込んでいたそれに魔力を込め、わざとギリギリまでファルドラを引きつけてから、指を開いて離す。
炸裂。
残っていた炸裂符の一枚が、三匹目のファルドラの頭を吹き飛ばして、爆風でアーシャはさらに加速する。
先ほどすれ違った二匹を引き離しつつ、耳元を轟々(ごうごう)と流れる風の音に負けぬよう、迫り来る地上を前に声を張り上げる。
「モルちゃん!!」
網目状になっていたスライムボガードは、しゅるしゅると体躯を縮めると、小鳥に似た姿になってこちらに飛んでくる。
いきなり解放されてもファルドラは制動できない。
モルちゃんを抱くように攫いながら、緩いU字を描くように、地表スレスレから再び上昇。
風圧で、どうやら近くで魔獣の相手をしていたらしいナバダが飛び退くのが見え、【覗見小鼠(ピーピングトム】が何匹が巻き込まれて吹き飛ぶのが見える。
「っ……ぶな……!」
何やらナバダが口にしたようだが、よく聞き取れなかった。
というか、まだファルドラ二匹に追われているので、それどころではない。
流石に軌道を変更できないアーシャに、上から突っ込んでくるファルドラ。
もう一匹は、こちらよりも安全な軌道で追従してきている。
ーーーもう一度、モルちゃんに……。
と、指示を出そうとしたところで。
唐突に、上から来ていたファルドラが無数の刃に引き裂かれたようにズタズタになり、横に吹き飛んで落下軌道に入った。
「あら?」
「無茶をしすぎです、アーシャ様ッ!!」
かなり離れているのに、耳をつんざくような怒鳴り声が届いた。
「ベ、ベリア?」
「連携を取るつもりがないのですか!? 一人で全て引きつけるなんて、何を考えておられるのですか!!」
遠くで、頭の白い飛竜が高度を下げてくるのが見える。
どうやら先ほどのファルドラは、ベリアの飛竜が風の息吹で始末したらしい。
「助かりましたわ!」
「そんな礼で誤魔化されるとでも思っているのですか!?」
顔を真っ赤にしていそうな様子が、容易に思い浮かべられる声音。
耳が痛い。
どうやら風の魔術に適性のある者が習得出来るという、伝令魔術でも使っているのだろうと推測したアーシャは、離れたところにいるベリアに小さく謝った。
「ごめんなさい」
「二度とやらないで下さいね! 残り一匹、確実に始末しますよ!」
「ええ!」
アーシャは、追従してきているファルドラを、低高度で、ベリアの飛竜が狙いやすいように誘導した。
「そのまま右に。そうです、行きますよ……3、2、1、射て!」
連携を取れば、残り一匹は呆気なかった。
飛竜が再び放った風の息吹を受けて、ファルドラが墜ちる。
「どうにかなりましたわね! 地上は……」
と言いかけたところで。
『ーーー見ツケタ、ゾ』
と、背筋が怖気立つような不気味な声が聞こえた。
アーシャちゃん、魔力量で劣る部分を、使えるものと訓練と機転の質でカバーする子。作者、好き。
そして最後に出てきたカタカナ言葉を喋っているのは一体誰なんだー(棒)
というわけで、そろそろクライマックスかもしれません。
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